【知財】【補助金】【東京都足立区】シリーズ(第26回)知的財産権認証取得助成金
シリーズ「知財リスク」の第3回目になります。今回は「損害賠償請求」「不当利得返還請求」について解説します。
使い分けがありますが、どちらかと言えば「損害賠償請求」の方が一般的です。そのため以下に「損害賠償」の方を解説します。
知的財産関連の訴訟でマスコミ等が、「●●億円」のように報じているのは大抵の場合には損害賠償訴訟の金額です。
なお、差止請求の訴訟、及び、無効審判(特許庁)が平行して行われる場合も多いです。
差止と損害賠償等の違い
イメージでは下図のような使い分けとなります。
「差止」が現在・将来を対象とするのに対し、
損害賠償の対象は「過去」のことです。つまり、侵害者が既に「やってしまった事」「販売してしまった物」が対象です。
法律上、特許権者以外は特許発明品を流通させることができません(厳密にはライセンスした人、正当に購入した人、又は、他に権原がある人も可能です)。
そのため、(市場を)独占していたら得られた利益を特許権者が取り返す権利が損害賠償請求権となります。
詳細解説(法律・専門)
根拠条文
(不当利得の返還義務)
第七百三条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
損害賠償請求は、(過去の)損害を金銭で補填するための制度です(最判平成9年7月11日第2小法廷判決(平成5年(オ)1762号)の判決文を下記に引用)
「・・損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補てんして、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするもの・・」
なお、上記条文を根拠とする請求には消滅時効が下記の条文に明記されています。
(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
損害賠償請求の要件
民法上、損害賠償が成立するためには下記の4要件をすべて満たしている場合です。
1:違法行為が発生し、損害が発生している。
2:故意、又は、過失である。
3:損害と加害行為に因果関係がある。
4:加害者に責任能力がある。
不当利得返還請求の要件
民法上、損害賠償が成立するためには下記の4要件をすべて満たしている場合です。
1:他人の財産又は労務によって利益を受けている。
2:加害者が被害者に損害を与えた。
3:損害と加害行為に因果関係がある。
4:法律上の原因がない。
特許法と民法の関係
損害賠償請求権の根拠となる条文は上記の民法にあり、特許法には下記の条文があります。
(損害の額の推定等)
第百二条 特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、次の各号に掲げる額の合計額を、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額とすることができる。
一 特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額に、自己の特許権又は専用実施権を侵害した者が譲渡した物の数量(次号において「譲渡数量」という。)のうち当該特許権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた数量(同号において「実施相応数量」という。)を超えない部分(その全部又は一部に相当する数量を当該特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量(同号において「特定数量」という。)を控除した数量)を乗じて得た額
二 譲渡数量のうち実施相応数量を超える数量又は特定数量がある場合(特許権者又は専用実施権者が、当該特許権者の特許権についての専用実施権の設定若しくは通常実施権の許諾又は当該専用実施権者の専用実施権についての通常実施権の許諾をし得たと認められない場合を除く。)におけるこれらの数量に応じた当該特許権又は専用実施権に係る特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額
2 特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定する。
3 特許権者又は専用実施権者は、故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対し、その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。
4 裁判所は、第一項第二号及び前項に規定する特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額を認定するに当たつては、特許権者又は専用実施権者が、自己の特許権又は専用実施権に係る特許発明の実施の対価について、当該特許権又は専用実施権の侵害があつたことを前提として当該特許権又は専用実施権を侵害した者との間で合意をするとしたならば、当該特許権者又は専用実施権者が得ることとなるその対価を考慮することができる。
5 第三項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、特許権又は専用実施権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。
(過失の推定)
第百三条 他人の特許権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する。
特許法に規定があるのは「金額」の算定方法と、「過失」の推定要件です。
特許法第百三条は「推定」規定であるため、法理論上、覆すことは可能です。
これは特許公報が広く公開されているためであり、覆すには特許公報が見れない理由と立証が必要となります。
ゆえにこれを覆すのは難しいため、実務上、過失の要件を覆すのは難しいです。
損害賠償請求権の時効起算は「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時」からです。
特許の侵害訴訟の場合には、下記のような判例があります。
「「損害及び加害者を知った」といえるためには,加害者の製造,販売する物が被害者の特許権に係る特許発明の技術的範囲に属することについてまで認識することが必要であると解される。」
つまり販売等の行為がされている時点ではまだ「知った」のではなく、その後特許発明の技術的範囲に属することの検討結果が得られた段階で「知った」とされる判決です。
(出所表示)平成19年(ワ)第507号 特許権侵害差止等請求事件 (4) 消滅時効について
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/970/080970_hanrei.pdf
特許法第百二条は金額を算定する推定規定です。乱暴には下記のような内容です。
第1項:(侵害者)譲渡数量 × (特許権者)利益 - (特許権者)生産能力等を超過する分
第2項:侵害で侵害者が得た利益
第3項:ライセンス料
特許庁 特許権侵害における損害賠償額の適正な評価に向けて
https://www.jpo.go.jp/news/shinchaku/event/seminer/text/document/h30_jitsumusya_txt/26_pp.pdf
特許庁 特許権侵害への救済手続
https://www.jpo.go.jp/support/ipr/patent-kyusai.html
法的な主体は、特許権者又は専用実施権者です。
*通常実施権者は不可能です。独占的通常実施権者でも法律上は不可能と考えられています。
外国法との比較
一般的に日本の損害賠償金額は安い、相対的に外国(米国等)は損害賠償額が高額化しやすいと言われます。
これは「懲罰賠償制度」の有無の差です。懲罰賠償制度を取り入れているのは米国、台湾、中国、及び、韓国等です。一方で、日本と欧州はこの制度を導入していません。
米国、台湾、又は、韓国では損害額の3倍まで増額して請求ができる制度です。ちなみに中国はこれを5倍とする改正が審議中だそうです。
特許庁 特許権侵害に係る損害賠償制度について
https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/tokkyo_shoi/document/39-shiryou/03.pdf
日米の損害賠償額等の比較は下記の通りです。
知的財産戦略本部 検証・評価・企画委員会 知財紛争処理に関する基礎資料
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/tf_chiizai/dai3/sankousiryou03.pdf
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以上、ご参考まで。