不妊治療中(体外受精)の性交渉と妊娠率について
SEXには妊娠への障害を取り除く効果がある
誰もが知っていることですが人間は性交で子どもを授かります。
このことはデータとしても不妊治療中の性交渉は妊娠率に影響していることがわかっています。
多くの方が、勘違いしてることに、性交渉=タイミングだと思い込んでいることです。
実は、タイミングより大事なことがあるんです。
それは、性交回数。
一発勝負では成功率が上がらない可能性が高いということ。
生理が終わったら、高温期が上がりきるまで性交渉が妊娠率を上げる効果があるんです。
さらに、性行為そのものも免疫システムに影響を及ぼしているらしいのです。
そのため、着床率に影響があるらしいんです。
着床率が上がるとすれば、妊娠率も、もちろんアップするはず。
「膣内射精で精液が女性の生殖器官に触れること」や「性交そのもの」が女性の身体が妊娠や出産に有利に働くメカニズムが備わっている可能性が大きいうえに、産まれてくる子どもへの影響もある可能性がわかってきたんです。
性交回数が必要な本当の理由
アメリカ生殖医学会は学会見解として、妊娠する力に最も影響を及ぼすのが「女性の年齢」。
その次が「性交回数」なんです。
毎日性交することで周期あたりの妊娠率が最も高くなるという研究結果があります。
性交回数が妊娠率を上げるのはタイミングが合いやすいということだけではないんです。
このことは意外に知られていないこと。
今回、ご紹介するエビデンスは人工授精や体外受精でも性交回数が多いほうが妊娠率が高くなるという内容です。
まずは、不妊治療中、性交回数が多いほど妊娠しやすくなるということを憶えておいてください。
理由は「性交には妊娠への障害を取り除く効果がある」からです。
性交が妊娠率に影響するのは、自然妊娠だけではありません。
病院での不妊治療である人工授精や体外受精、顕微授精を受けていても、同じことが言えます。
さらに性交は、妊娠率だけでなく、妊娠、出産の合併症リスクの低下や胎児の健康にまで影響するかもしれないという報告さえあります。
引用文献
精液は着床環境を免疫的に整えるスイッチをオンにする
The effect of intercourse on pregnancy rates during assisted human reproduction
The role of seminal plasma for improved outcomes during in vitro fertilization treatment: review of the literature and meta-analysis
Hum Reprod.
オーストラリアとスペインで体外受精の移植日前後の性交と妊娠率を調べた研究報告です。
移植直後の性交は子宮の収縮を招き、着床の障害になったり、感染の原因になったりする可能性があることから、移植後の性交は控えたほうがよいという考え方もあります。
ところが、その一方で射精された精液が子宮や卵管などの女性の生殖器官に触れることで、女性側の着床環境が免疫的に整うことが動物実験でわかったんです。
そもそも、女性にとって受精卵は「異物」と認識されます。
本来は免疫機能が働くため排除されるのですが妊娠時には不思議なことに「異物」を排除しないで受け入れるように免疫が働きます。
この受け入れるスイッチをオンにする役割が精液にあることが動物で確かめられたんです。
この理論から、アデレード大学の研究グループは人間にも同じようなメカニズムが働くのかもしれないと考え、478周期の体外受精の1343個の胚移植で、移植時期の性交の有無による治療成績を比較したんです。
その結果、治療周期あたりの妊娠率には差はありませんでしたが、妊娠に至った胚の割合は移植時期に性交があったほうが高いことがわかったんです。
もう1つ、性交や精液の注入と妊娠率の関係を調べたメタ解析(過去の複数の研究のデータを収集、統合し、統計的方法による解析)があります。
トータルで7つの無作為比較対象試験(被験者総数2,204名)では、性交があった、もしくは、精液を注入したカップルのほうが妊娠の確率が23%高かったと報告されています。
人間においても、精液は女性の生殖器官で着床に有利な免疫的働きを促すスイッチをオンにしているような結果になっていますね。
不妊治療で最高のコスパがSEX
私も不妊治療を経験しました。
当時、少しでも妊娠率を上げる方法を探しました。
そして、コスパが良いことも。
不妊治療は、治療費だけでも、それなりに目に見えない部分でも出費があります。
少しでも、予算を抑えたい。
だけど、妊娠率は、上げたい。
そう思うのならSEX、性交渉。
回数が多いほど妊娠しやすいことがわかってきています。
もちろん、不妊治療の妊娠率もアップ。
引用文献
妊娠しやすい体作りはSEXから
性交そのものが着床環境を免疫的に整えるように促す
Links among inflammation, sexual activity and ovulation: Evolutionary trade-offs and clinical implications
Oxford University Press
インディアナ大学のキンゼイ研究所で、精液だけでなく、性行為そのものも免疫システムに影響を及ぼしているのではないかと考え、そのことを確かめた研究があります。
30名の女性に、月経サイクル中の月経期、卵胞期、排卵期、黄体期の4回、唾液を提供してもらい、唾液中の生殖ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)や2種類のヘルパーT細胞(Th1、Th2)が放出するサイトカイン(IFN-γ、IL-4)を測定し、それぞれの値の月経サイクル内の変動と性交との関係を解析しました。
その結果、性交のあった女性では、黄体期に妊娠に有利に働くサイトカインが優勢。
性交のなかった女性ではみられないと言う結果に。
つまい、性交渉があった女性は妊娠しやすい状態になっていたということ。
個人的に、一番、驚いたことはコンドームの使用の有無に影響を受けなかったということ。
つまり、性交という行為そのものが月経周期中の免疫反応が妊娠に有利に働いているようなのです。
引用文献
精液は妊娠合併症のリスクや胎児の健康にも影響するかもしれない
Duration of sexual relationship and its effect on preeclampsia and small for gestational age perinatal outcome
National Library of Medicine
カップルの性的な関係のあった期間と妊娠後の子癇前症やSGA(子宮内発育遅延)との関係をニュージーランドとオーストラリアで調べた研究があります。
2,507名の初産の妊婦を対象にパートナーとの性的な関係の期間と子癇前症やSGAの発症との関係を調べたところ、期間が短いカップルほど子癇前症やSGAの発症リスクが高いことがわかったんです。
これは、女性の生殖器官がパートナーの精液に触れる頻度が高くなるほど、女性の生殖器官が妊娠合併症のリスク低減や子宮内の胎児の成育に有利な状態になることによるのではないのでは、と考えられています。
性交の頻度は「妊娠しやすさ」だけでなく「妊娠合併症のリスク低減」や「胎児の成長」にも影響があるのではないでしょうか。
考察
自然妊娠では性交回数が多くなるほど妊娠の確率が高くなるのは誰もが理解できることです。
しかし不妊治療、特に人工授精や体外受精、顕微授精では、性交は不要と考えてしまいます。
実際には、私たちには、「膣内射精で精液が女性の生殖器官に触れること」や「性交そのもの」が女性の身体が妊娠や出産に有利に働くメカニズムが備わっている可能性が大きいということです。
夫婦という関係です。
妊娠のためだけの性交渉というのは、逆に妊娠しにくい状態なのかもしれません。
排卵期以外にも性交すること、そして、生殖補助医療を受けていても性交することは「いいこと」に。
ただし、くれぐれも誤解しないでいただきたいのは、不妊治療を受けている場合、「性交」は妊娠、出産に有利に働くようですが「性交」は必要条件ではないということ。 つまり、ここでも、性交は「義務」ではないけれども、多少なりとも、妊娠、出産のサポートになるかもしれないということです。
それにしても、新しい命の誕生に際しての人間の身体のつくりの精巧さ、奥深さ、そして、神秘さに、驚かされます。