幻覚

加藤武範

加藤武範

テーマ:高齢者 介護 問題

施設に入居している身元保証人として関わりのあるAさんの話です。Aさんは、ひどい幻覚に悩まされています。
夜22時に施設の職員さんから電話がありました。Aさんがバットを持って廊下をウロウロしていて困っていますとの事。急いで施設に向かいAさんが起こした問題行動の経緯と、その引き金となった幻覚の具体的な内容を確認しました。
Aさんは、ドアの向こうに複数の人がいる気配を感じ、驚いてドアを2回蹴ったそうです。この騒動により、他の入居者さんから1階事務所に連絡があり、駆けつけた職員さんも「Aさんの表情がすごい怖かった」と証言するほどの状況だった様です。私がAさんの自室を確認したところ、ドアはダンボールで隠され、物理的に向こう側は見えない状態でした。Aさんは「たくさんの人に襲われる」という幻覚を頻繁に見ており、その相手は男女の区別がつかない多数の人間であると教えてくれ、部屋の扉を蹴ってその人たちを追い出そうとしたと私に教えてくれました。これらの「人」や「襲撃」は実際には起きておらず、Aさんの頭の中で生み出された幻覚なんですよ…と私はAさんに繰り返し伝えます。
さらにAさんに病識を持たせるため、具体的な幻覚の例を挙げて論理的に説得を試みてみます。部屋に存在しないはずのテレビが見えること、4階の部屋から見える景色について、実際には田んぼしかない場所から山や宗教団体が見えるとAさんが主張していること、さらに周囲の職員には虫の音しか聞こえない状況で、Aさんにだけは音楽が聞こえていることなどを指摘し、これらの現実との食い違いは、すべて脳の病気によって引き起こされる「幻覚」および「幻聴」であると説明しました。自身のリアルな体験に「こんな苦しいもんかな」「見えちゃうんだよ」とAさんは混乱と葛藤を示しました。私は、それらの現象は病気によるもので仕方ないと冷静に受け止め、脳の病気と付き合っていく必要がありますよ…とAさんを諭しました。
幻覚症状が深刻であると判断した私は、具体的な解決策としてメンタル専門病院での受診を強く勧めました。このままでは、バットを持ってうろつくなどの問題行動が原因で、現在の施設を退去させられる可能性や、将来的に家を貸してくれる先がなくなるリスクを伝え、さらに、次に同様の騒動を起こせば警察沙汰になり逮捕される危険性も指摘し、治療の緊急性を訴えました。
バットと木刀
最後は、職員さんから「幻覚がひどいから1回病院行きましょう。それに、ここしか生活できる場所がないでしょ?」と諭されると、「そうしないかんね」と返答し、Aさんは最終的に病院へ行くことに同意しました。Aさんの部屋から出る時、部屋の隅にあったバットと木刀は「危ないので、預かります」と伝え、施設をあとにしました。

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加藤武範
専門家

加藤武範(ケアマネジャー)

合同会社福寿想

リハビリ病院で医療ソーシャルワーカーをしていた経験から、地域のネットワークとも連携。従来の福祉的な視点に捕らわれない柔軟な発想で、介護を必要としている方やその家族にとって本当に必要な介護を提案します。

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