~ 士衛塾空手を通して、伝えたいこと 46 ~
士衛塾山梨の門下生に向けた、私からのメッセージを過去のニュースより転載します。
2020年1月、2020年鏡開きのあいさつより
昨年は、士衛塾山梨へのご理解、ご協力、誠にありがとうございました。ご協力いただいた全ての皆様に、心より感謝と御礼を申し上げます。
昨年も門下生のみなさんひとりひとりに空手を通したドラマがあったことでしょう。行動すればするほど、それはたくさんのドラマとなり、人生の肥やしとなります。成功とは失敗の先にあります。失敗せずに成功した人はいません。失敗を恐れて一歩も踏み出すことができずに立ち止まっていることは無駄です。人は失敗の中から多くのことを学びます。負けを恐れて試合に出ないことは、その先の勝利を逃します。
苦手なことを克服するためには、得意なことだけやっていれば良いはずはなく、苦手なことに挑戦するしかないです。苦手から逃げ、得意なことしか行わないならば、それは大変なことになります。この社会生活で、好きなことだけをしていて生活はできません。大なり小なり、我慢や苦手なことをしなければなりません。また、苦手だから、下手だから、好きじゃないからという「魔の暗示」を無くすことです。「この料理、苦手!」と思って食べる料理は相変わらず美味しくないけれど「苦手だけど食べてみよう!」と思って食べる料理は意外とイケるかもしれません。
士衛塾では、空手の技術を教え、武道を教え、社会を教え、ルールを教えていきます。学校生活や家庭では教えきれない、社会に出てから大事なことを空手という実践を通して身に着けていきます。それはスポーツではできません。武道だからこそできるのです。
この現代社会でいま「武道」が見直されています。それは、身体の動きや精神面です。空手の技も同様で、技術面は出尽くした感が否めません。ですから原点に戻って武道的な動き(型やフィジカル、部位鍛錬)が見直されています。
例えば「帯」。着物や浴衣、相撲のまわしのように日本人にはなじみ深いものです。頭に「はちまき」をすると気が引き締められます。それよりも効果的なのが、へその奥にある「丹田」という場所の付近を締める「帯」です。帯はとても緩みやすい締め方をします。今では「帯止め」をしていただいて緩まないようにしていますが、帯止めがなくても、稽古中など緩んだ帯を締めなおして気を引き締める効果があります。また、「抵抗」となることによって力を引き出すものでもあります。「自由」とは「まったく制約や抵抗がない状態が最高の自由であり、もっとも人間の力が発揮される状態」という自由感に対して「自由は、適切な制約や抵抗があった方がより充実するもの」というのが帯にはあります。
大正時代に発刊された「学習原論」という本のなかで大正自由教育の中心人物である木下竹次氏はこう書いています。「人は自由を欲するとともに束縛を欲する。自由を許されると自由に悲哀を感ずるものである。ことに学習者が自由学習をする時は非常にたよりなく感じて自ら進んで教師の意見で束縛されんことをねがうことがある。これは自由学習よりも容易な学習法をとろうとするのである。思うに自由と束縛とは相対的なもので絶対に束縛もなければ自由もないはずである。鳥も空気の抵抗がなくては飛ばれない。釘も木片の反対がなくてはきかない。学者は自説が黙殺されることを苦にする。政治家は善悪がないようになれば生命がなくなる。束縛は自由を激成し束縛打破は自由行動者の愉快とするところである。自由行動がその束縛そのものに感謝することのすくないのは遺憾である。これを要するに縛解一如でなくてはならぬ。帯は身体を束縛する。しかし帯がなくては腹力がなくて活動自在にならぬことがある。縛即解・解即縛・学習もこの境地に達しなくてはならぬ。」帯による制約によって肚(はら)の感覚がより実感できます。
「自由」をより価値の高いものにするために、必要かつレベルを上げた束縛や制約を価値あるものとして受け入れていきましょう。
さて、2019年の私自身の振り返りとしては、試合に12回出場したことが大きかったです。これは、自分自身で「平均して毎月一回は試合に出る」と目標を決め取り組んだものです。台風で行けなかった試合を含めると13試合申し込みました。思って行動すれば「やっぱり、やればできるんだ」と改めて思いました。これを達成させるためには、練習でケガをしないこともテーマとして取り組んできました。試合では仕方ないにしても、練習でケガをしてしまったら練習の意味がなくなります。それから、日常の体のケアも大事にしています。
これは生徒の皆さんにも当てはまることで、大人の身体になってくる中高生はケアもしっかりすると良いです。また、身長が伸びることによって身体が固くなってくるので、柔軟体操をこまめにすると良いです。
黒帯以上の空手衣の左足には「百錬剛(ひゃくれんごう)」の刺繍が入っています。何度も鍛え上げられた強さ、動じない意思を表しています。まさに黒帯がすべき刺繍ですね。人は弱い生き物です。時には弱さを見せることも必要でしょう。しかし、ただ甘えてばかりでは成長がありません。目標に向かって鍛錬を積み重ね、挫折を味わいながら創り上げたものは人の心を動かす強さを秘めています。ただ強いだけではなく、人を引き付ける強さを手に入れましょう。また、山梨で販売している手ぬぐいは「原点回帰」ですが、新潟の本部で販売している手ぬぐいには「頂門眼(ちょうもんがん)」と書いてあります。これは頭のてっぺんにある目。心眼のような目のことを指します。目で見えることだけで左右されることなく、この目で物事の道理をはっきり見通すことをしたいです。心の目で相手を感じ、周りの人の心を読むことができるようになると、それは「気づかい」につながってきます。また、組手で相手の心を読むのはとても大事ですね。
今回KWU世界大会に出場した選手たちは、2年後に向けて既に始動しています。門下生の皆様それぞれが目標を掲げ、掲げた目標が達成できるようにするのが私の役目であり、目標です。そのために日々勉強と努力を怠りません。
空手を通して、心の強さと優しさを手に入れ、ルールや社会を学びましょう。
ともに頑張りましょう!