「ゴールデンウィークの憂鬱」について
前回「人は心の悩みをどう解決するか」では、心の悩みを持ったときに、心理カウン
セリングの他に対応策はいろいろある、と述べました。
そして、大部分の場合は、専門家の心理カウンセリングを受けなくても、今までの自分
の人生の中で培ってきた個人的資源(過去の経験から学んだこと)や、社会的資源(家族
関係・友達関係・宗教など)を利用して問題解決に至っている、ということです。
ですから、心理専門家(心理カウンセラー)に相談するというのは、いわば最後の手段
ともいえます。
誰だって、見も知らない第三者に、自分の個人的な事柄を打ち明けるのは抵抗があり
躊躇するはずです。
第一に気になるのは、秘密が本当に守られるのか、第二には費用がかかること、そして
第三そして最も大きな懸念は、仮に相談しても本当に納得のいく解決策が得られるのか、
だと思います。
私は、これらの懸念はどれも当然だと思います。
そこで、以下はそれらの懸念への私の回答です(なお、これらはあくまでも私個人の考え
です。心理カウンセラーによっては違う考え方があると思います)。
まず、第一の秘密保持の懸念については、私はそれを守るのは心理カウンセラーとしての
基本的な倫理と考えています。
なぜなら、相談者は、抱えている非常に個人的な悩みを、大きな決心をして他人である心理
カウンセラーに打ち明けているはずですから、その信頼に答えるのが心理カウンセラーの
基本的な責務と考えるからです。
また、カウンセリングの技術的な観点から言っても、カウンセラーと相談者の間に基本的な
信頼関係が存在しない限り効果が期待できないことは、各種研究によって明らかになって
いるからです。
ですから、私自身は、私が担当した相談者のことについては、本人の了解がない限り口外
しません。
心理カウンセラーによっては、自分の担当した相談者のことを気軽に「事例(ケース)紹介」
と称して、講演で話したり、本で紹介しているのを見かけますが、私はどれだけ当の本人の
了解を得ているのか、と疑問に思うことがあります。仮に、名前や年齢・経歴などを変えても
、当事者にとっては必ず自分のことと分かるはずと思います。
第二に費用の件ですが、確かに、無料で心理相談が受けられればそれに越したことはない
気持ちは、私も理解できます。
ただ、自分の悩みの解決のためにそれ相応の費用を払う決心をすること自体が、ある意味で
それだけ真剣に問題解決のために前向きになっていること(問題解決への意欲の強さ)を示す
指標になる、ともいえます。
また、カウンセラーとしてもそれ相当のお金を貰っている限り、それに答えようとして努力
するということにもなります。
実は、無料のカウンセリングよりも有料のカウンセリングの方が効果があったとする研究結果
もあるのです。
それでも、現に無料カウンセリングが存在するのですから、経済的な事情などで有料のカウン
セリングはちょっと無理という人は、もちろん無料のものを利用されたらいいと思います。
第三として最後に、相談しても本当に納得のいける解決策が得られるかどうかの疑問・
不安ですが、これについて私自身は、「問題解決の100%の確約はできないが、それに向け
最大限努力する」、としか言えません。
お金を取りながら何か無責任のように聞こえるでしょうが、私としてはこれ以上のことは
言えません。なぜなら、万能のカウンセリング技法というものは存在しないというのが、
各種の実証的なカウンセリング効果測定の研究結果の結論だからです。
ただ研究の結果明らかになっていることは、ある特定の対象者に対して、特定の場面で
特定な時に一番効果のあるカウンセリング技法というものはある、ということです。
言い換えれば、同じカウンセリング技法を使っても、相談者それぞれの各種の個人的要因
(遺伝的要因・生育環境など)や場面・置かれた状況によってその効果は異なり、一般的に
効果をいうのは難しい、ということです。
ですから私は、どの相談者に対しても、私のカウンセリングによって問題が必ず解決する
(例えば認知行動療法によってうつが必ず良くなるとか)といった約束はしません。
何故なら、それは現状でのカウンセリング心理学の研究で得られている事実と反するからです。
以上述べたことは、私としての、カウンセリングにおける事前の告知事項(インフォームド・
コンセント)です。
ですから後は、カウンセリングの利用者である相談者が、以上述べたカウンセリングの限界
とリスクを踏まえてどう判断するかだと思います。
次回は、実際にカウンセリングに至った場合の初回面接について述べます。
うつ心理相談センター所長
心理学博士(PhD University of Denver USA)
村田 晃