「心を見つめるカウンセリング心理学」講座開講のご案内(たかおか学遊塾)
「カウンセリングの実際」のその5として、今回はグループ・カウンセリングのうち、私が米国滞在中に自分で行った時の経験についてお話しいたします。
私はデンバー大学大学院(コロラド州)博士課程在学中だった2002年から2010年の間に、デンバー市の
拘置所で、そこの収容者に対し私だけでグループ・カウンセリングを実施する機会を得ました。
私が選んだグループ・カウンセリングの方法は、瞑想とリラクセーションを中心としたものです。
これを選んだ理由は、他にもいろいろなグループ・カウンセリングが既に行われている中で(例えば薬物
依存やDVに対するものなど)、他と重複せず、拘禁生活の中での息抜きとなり、しかも自己への内省を深めるのに役立つこと、ということからです。
ちなみに、「息抜きとなる」ということは、拘禁施設でグループ・カウンセリングを行う場合に、参加者に参加の意欲を持ってもらうためにも重要なことです。
このことは、米国の拘禁施設では特に重要といえます。なぜなら、米国の拘禁施設は日本の拘禁施設よりもストレスが高い環境にあるからです。
というのは、米国では多くの拘禁施設は過剰収容に悩まされています。私が実習したデンバー拘置所でも、収容者は一人部屋に二人収容されたり、広い大部屋でずらっと並んだ3段ベッドで寝たりといった状態です。(それ以前に実習したウイスコンシン州マディソン市の拘置所ではベッドも足りないで、溢れた収容者はコンクリートの床に直接マットレスをひいて寝ていました。)
また、トイレには囲いがなく、外から丸見えです(日本の刑務所のトイレでは、ちゃんと腰が隠れるくらいの仕切りがついています)。その理由は、トイレ内で収容者が他の収容者から暴力などの危害を受けることがよく起きることから、警備上の死角を無くす目的からです。言い換えれば、米国の拘禁施設での生活はそれだけ危険だということです。
また、収容者がわめいたり叫んだりといったことがよくあります。
このような強いストレス下にある収容者に短時間でもリラックスする機会を与え、彼らの日々の精神的な
健康に寄与しようというのが、いってみれば私のグループ・カウンセリングの独自性であり、主要な目的でした。
私のグループ・カウンセリングの構成は次のようなものです。
1.導入(心と体が相互に関係していることの説明)
2.ストレッチ
3.笑いのヨガ
4.腹式深呼吸(不安感を減少させるため)
5.瞑想
6.まとめ(感想を聞く)
この中で私が特に力を入れたのは「笑いのヨガ」です。
笑いのヨガといってもいろいろあると思いますが、私がやったのは非常に簡単なものです。
それは、お互いに大声で「笑う」ことを練習する、それだけです。
これにはもちろん理論的背景があり、それは心身相関、もっと具体的にいえば、行動が気分に影響を与えるという考え(行動療法)に基づいています。
つまり、笑いが健康(気分)にいいというのは分かっているが、だからと言って日常生活でおかしくて「笑える」ことがそんなにある訳でもない。そうした時に、おかしくなくても無理矢理にでも笑っていれば、そのうちに本当に気分もよくなる、ということです。
私がやったのは、3つの基本的な笑いをまず練習することです。一つは口を丸くして笑う(英語でOの発音)、二つ目は口を横に大きく広げて笑う(英語でEの発音)、三つ目は口を全体に大きくあけて笑う(英語でHaの発音)です。
ただ、これだけでは単純なので、後には自由に自分で笑いを作り出してもいいことにしました。
具体的には、皆なで丸く輪になって立ち、エクササイズボールを持った人がまず大声で笑い、後の人も
真似して一緒に大声で笑います。次にボールを誰かに投げ、ボールを受け取った人は、また大声で笑い、残りの人はまた一緒に真似して笑います。そしてボールを次々に渡していく中で、それぞれの人が次々に新しい笑いを大声でやっていきます。
この笑いのヨガは10分位の短いエクササイズでしたが、男性のグループにも女性のグループにも好評
でした。
このグループ・カウンセリングを実施して私が学んだことは、カウンセリングは言葉(言語)だけでなされる
ものではない、行動(非言語)でもできる、ということです。
大事なのは、相手の置かれた状況や求めていることに合わせて方法を選ぶことだ、ということです。
うつ心理相談センター所長
心理学博士(PhD University of Denver USA)
村田 晃