「気候と気分の関係」の心理学
「うつとは何か4~うつの原因」について、エフエムいみず(79.3MHz) の私の番組、「心に元気
を!大人のメンタルヘルス」(11月30日水曜)で話しています。
今回は、うつの原因についてです。なお、次回は「うつとは何か」の最終回として、うつの対処
法についてお話しします。
毎回言っていますが、うつに対する私の基本的な考え方は、「うつは誰でもなり得る。だから、うつになっても特に驚かない。逆に、うつの経験を今後の自分の人生にどう生かすかを考える。」です。
○うつの原因
結論からいうと色々な要因があるということです。
ただ、大きく分けると、身体的要因・遺伝的要因・心理的要因及び環境的要因にまとめられ
ます。
1.身体的要因
(1)身体の化学物質の異常
身体の化学物質の異常がうつの発現に関係していることが分かってきています。
特に、脳内のある種の神経伝達物質(セロトニンやドーパミンなど)の不足がうつを引き起こすことが分かっています。このことから、新しい抗うつ薬が開発されてきています。
また、甲状腺ホルモンの機能低下がうつの発現に影響していることも分かっています。
女性にうつが多い理由の一つとして、女性ホルモンの影響も挙げられています。
(2)身体のリズムの異常
睡眠の障害とうつの関係も研究されています。広くいえば、いわゆる体内時計の異常と
うつの発現との関係が指摘されています。日照時間の短い冬場にうつになりやすいなどの
「季節性のうつ」も、この身体のリズムの異常と関係しているといえます。
その他、CTやMRIを使って脳の映像を調べる研究もなされていますが、今のところ決定的な関係は発見されていないようです。
2.遺伝的要因
一卵性双生児の研究などから、うつの親の子供はうつになりやすいといった結果が得られています。しかしながら、現在のところ、特定の遺伝子がうつの発現に関係しているとまでは分かっていません。
3.心理的要因
うつの発現に特定の性格や気質が関係していることは発見されていません。逆にいえば、
どんな性格・気質の人でも、つまり誰でも、状況次第ではうつになり得るということです。
(1)認知理論による考え方
ただし、認知理論の立場から、うつになりやすいものの考え方というのは指摘されています。それは、①自分を否定的に見る、②周りの環境を敵意に満ちていると見る、及び③将来を
常に悲観的に見る、です。
言い換えれば、同じ経験をしてもそれをどう意味づけるかは人によって違い、ものごとを殊更
深刻に受け取りがちな人はうつになりやすい、ということです。
(2)行動理論による考え方
行動は条件付けなどの学習によって形成されるという立場の行動理論からは、うつは
「学習された無力感(learned helplessness)」によるといいうことが提唱されています。
つまり、人は何度も解決困難な状況に経験すると自信を無くしてしまい、状況は自分で変える
ことができないと思い込んでしまいうつに陥る、というものです。
男性に比べて女性にうつが多い理由の一つとして、男性優位の社会で、女性はこの自分だけではどうしようもない無力感を学習したからだ、ということが挙げられています。
4.環境的要因
いわゆるストレスがうつの引き金になるということです。特に、人生における色々な困難な
できごとがうつのきっかけになっていることは一般的に観察されています。特にうつの発現に
関係の深いストレス因としては、幼少時の親の死、妻や夫の死や失業が挙げられています。
また、女性にうつが多い理由の一つとして、女性が男性に比べてより多くの役割を担わされて
おり(母親・妻・外での仕事・そして主婦)、それだけストレスを感じやすいからだ、という
ことが指摘されています。
学者によっては、強い心理的ストレスが、脳内の神経伝達物質の機能に長く続く変化を及ぼす
のではないか、そのため、一度うつになると、その後ちょっとしたことでもうつを再発しやすい
のではないか、と考える人もいます。
5.まとめ
多方面の研究から、様々な要因とうつの発現との関係が分かってきていますが、どれか特定
の要因から100%うつになるということは発見されていません。言い換えれば、うつの発現規制
は複雑であり、単独の要因ではなく二つ以上の要因が関係するのではないか、ということです。
うつ心理相談センター所長 村田 晃
心理学博士(PhD University of Denver USA)
臨床心理士、富山県スクールカウンセラー