光と風を共有する二世帯住宅

津野恵美子

津野恵美子

テーマ:作品紹介

最近二世帯住宅が増えていますが、どのお宅でも必ず問題になるのが、何を共有して何を専有するかという線引きです。 せっかく一つ屋根の下に一緒に住むのならば、よいものは共有したいけれど、それぞれの世帯の独立性は保ちたい。土地に余裕のない都市型住宅ではとても難しい課題です。このご家族は、共有と専有の線引きをどこに設定することで、心地よい距離感を実現したのでしょうか。

黒い壁に開けられた高い入口を共有する

共有と聞くと、玄関や水回りなどの機能をイメージする方が多いかと思いますが、この家では「窓」を共有しました。

黒と白の外観が特徴的な家ですが、こちら完全分離型の二世帯住宅です。


黒い艶のある外壁に鉄錆色が重厚な門扉。一軒の邸宅としての顔を持っています。

屋外の共有玄関

ですが、黒い壁に開けられた大開口をくぐると、一転して白い壁と木の床に、メインツリーという、親しみやすいスケール感の細長い中庭が現れます。

ここは二世帯共有の「玄関」です。 でもあくまでも屋外の空間なので、延べ面積には入らず、内部空間はそれぞれの世帯の専有空間として有効に使えます。 門を閉じれば半中庭空間にもなるので、季候のよい時期は、一階で飼っているわんちゃんが自由に出入りできる、お気に入りスペースにもなっています。

共有の大開口とはずれた位置にある専有の窓

黒い壁に開けられた大開口は、町に対してこの二世帯の家族が共有する窓ですが、黒い壁の内側の白い壁に開けられた室内の窓は、あえて共有の大開口とはずらした位置にあります。

外の開口とはずらすことで、プライバシーは保ちつつ、光や風は十分に取り込めます。


一階の親世帯からの眺めです。右下の窓は愛犬が中庭を見るための窓ですが、低い位置の開口なので、気持ちのよい風を取り込むこともできます。 左上の大窓だけは外の開口とぴったり位置が合っていますが、ここは地元にご友人が多いお父様が、遊びに来たお仲間を出迎えるための窓です。 手前に植えられたエゴノキのメインツリーが、外と柔らかく遮断しています。

南側の大窓を共有する

敷地の南側は隣地のアパート駐車場です。将来的に建物が建つ可能性もありますが、現状では貴重な南採光です。

ここでも黒い壁に開けられた大きな窓が力を発揮します。この大きな窓は2.7m×2.7m。一般的なバルコニー下のスペースと同じよう大きさですが、この家では、上下階の中央に、二世帯が開口を共有する高さで開けました。真ん中の位置にある二階のバルコニーの床は、グレーチングなので、一階への採光を邪魔しません。

二階の子世帯から外を見たところです。

こちらの窓は、外の大開口とは半分ずれた高さにあるため、適度に外の景色を遮りつつ、白い壁に光が反射して明るい面を作って、落ち着いた室内風景となっています。


上の写真は、一階の親世帯から外を見たところ。ちょうど視線の高さに壁が回っていることで、外の人と目が合ってしまうようなことなく、上半分に開いた大窓から十分な光を取り入れられます。
フェンスと同じ高さの下窓の外側は花壇になっており、家庭菜園も楽しめます。

まとめ

親世帯と子世帯。生活時間や習慣も異なる二家族なので、機能は完全分離ですが、町に対する大窓を共有することで、一軒の家に住んでいる感覚が強く表れています。 外側の大窓と室内の中間スペースを共有していることで、日常的に自然なコミュニケーションも生まれるため、トラブルの元になりやすい生活音なども、ほとんど気にならないそうです。
二つの家族で光と風を共有する家です。

光と風を共有する家

この家の他の写真は、ギャラリー内の「光と風を共有する家」でもご覧頂けます。

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津野恵美子
専門家

津野恵美子(一級建築士)

一級建築士事務所/津野建築設計室

人がもともと持っている心地よさを感じる「寸法感覚」を利用し、外部環境や家族との関係を踏まえながら、心地よさという漠たる感覚を数値化して、空間や暮らしに適切な寸法を与え、家族ごとに暮らしやすい家を実現。

津野恵美子プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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