成熟社会における企業が確保したい心理的安全性

最近、心理的安全性が非常に注目されていますが、心理的安全性が何かをご存知でしょうか？「優しい上司がいて、メンバー同士の仲が良くて、居心地いい職場」と誤った認識をされている人たちが一定数いるようですが残念ながら、違います。

心理的安全性の定義が曖昧なままだと、ただ「コミュニケーションが取れている＝心理的安全性が高い」と思いがちです。しかし、単に日常会話や報告・連絡・相談（ほうれんそう）が行われているだけでは、真のコミュニケーション（コミュニケーションについては、こちらのコラムで紹介）とは言えません。心理的安全性を正しく理解し、その環境を整えることが、今の社会で重要です。

心理的安全性とは何か？

心理的安全性とは、社員が自分の考えや意見を恐れずに発言できる環境のことを指します。この安全性が担保されている組織では、メンバーが他者の批判や報復を恐れることなく、率直な意見を共有することが可能です。心理的安全性が高いと、メンバーは新しいアイデアを提案しやすくなり、結果として組織全体のパフォーマンス向上が期待できます。

特に、現代の複雑化したビジネス環境においては、単一の視点では問題解決が難しくなっています。そのため、異なる意見やアイデアを持ち寄り、建設的な議論を行うことが重要です。心理的安全性は、これを可能にする土台となります。ただし、心理的安全性の確保は簡単ではありません。繰り返しになりますが、ただ「コミュニケーションを取る」だけでは、十分ではありません。単なる報告や連絡、相談が行われているだけでは、社員の意見や感情が本当に反映されているとは限りません。心理的安全性が確保されていない職場では、社員が自らの意見を抑制し、組織内での沈黙が常態化してしまう危険性があります。

心理的安全性の確保は、特効薬のように一つの方法で全ての人に効果をもたらすものではありません。社員一人一人が異なる価値観や働き方を持っているため、個々に適した対応が求められます。ある社員には率直なフィードバックが効果的であっても、別の社員には同じアプローチがストレスとなる場合があります。このように、個々に応じた対応が心理的安全性の向上に不可欠です。

成熟社会では、一律のアプローチでは通用しません。かつては「家族を持ち、定年まで働くことが幸せ」とされた時代がありましたが、今はそうではありません。個人ごとに異なる幸せの形があり、企業もそれに応じた対応が求められます。特に成熟社会では、心理的安全性を確保するために、同調よりも意見交換が重要です。かつては派閥や年功序列が重視されていましたが、今では個々の意見が尊重され、柔軟な対応が求められます。

心理的安全性が高い組織の特徴

心理的安全性が高い組織には、以下のような特徴があります。
自由に意見を言える環境
心理的安全性が高い組織では、社員が年齢や役職に関わらず、自分の意見やアイデアを表現できる文化が根付いています。社員は他者の反応を気にせず、思ったことを率直に伝えることができ、組織の改善や成長に貢献します。

失敗を学びに変える文化
心理的安全性が高い組織では、失敗を責めるのではなく、学びの機会と捉えます。これにより、リスクを恐れず挑戦することができ、イノベーションが促進されます。挑戦が推奨される環境では、新しいアイデアや解決策が生まれやすくなります。

透明な意思決定プロセス
意思決定がどのように行われたのか、その背景や理由が明確にされているため、社員は納得感を持って業務に取り組むことができます。透明なプロセスによって、組織の方向性に安心感を持ち、自分の役割を理解しやすくなります。

建設的なフィードバック
フィードバックが正直かつ建設的に行われ、社員の成長を促進します。上司からのフィードバックだけでなく、部下から上司へのフィードバックも行われることで、双方向のコミュニケーションが生まれます。

多様性を尊重する文化
心理的安全性が高い組織では、異なるバックグラウンドや価値観を持つメンバーが尊重され、組織全体で多様な意見が活かされます。多様な視点が問題解決や革新に繋がるため、社員は個々の意見を率直に表明できます。

心理的安全性を高めるために企業が取るべき施策

次に、企業が心理的安全性を高めるために具体的にどのような施策を取るべきかについて説明します。
1.フィードバックを定期的に行う
心理的安全性を高めるためには、定期的なフィードバックが不可欠です。上司は社員の成果や行動に対して正直なフィードバックを行い、建設的な意見を提供します。特に重要なのは、単なる称賛だけではなく、改善点や次に取り組むべき課題を具体的に伝えることです。これにより、社員は自身の成長を実感し、次にどう進むべきかを明確に理解します。

また、フィードバックは一方通行ではなく、双方向のコミュニケーションを促進することも重要です。部下から上司へのフィードバックの機会を設けることで、全員が安心して意見を述べられる環境が整います。

2.失敗を許容し、挑戦を奨励する文化を育てる
心理的安全性を高めるには、失敗を恐れない文化を育てることが重要です。失敗を過度に恐れる環境では、社員はリスクを避け、新しい挑戦に消極的になります。企業が「失敗は学びである」と認識し、そのメッセージを明確に示すことで、社員は積極的に挑戦する姿勢を持つようになります。

例えば、リーダーが「失敗を恐れず挑戦しよう」と明言することで、社員は自信を持って新しいプロジェクトやアイデアに取り組むことができます。このような文化が組織全体に浸透することで、イノベーションが促進され、企業の成長に繋がります。

3.透明なコミュニケーションを推進する
透明なコミュニケーションも、心理的安全性の確保において非常に重要な要素です。企業の意思決定プロセスが不透明だと、社員は不信感や不安を抱くことがあります。これを防ぐためには、リーダーが意思決定の過程や理由を社員にしっかりと説明することが必要です。透明性が高いと、社員は納得感を持って組織の方針に従い、自身の役割を明確に理解できます。

また、社員が自由に意見や質問を述べられるコミュニケーションチャネルを整備することで、信頼関係が深まります。

4.共通の目的とビジョンを共有する
共通の目的やビジョンを明確にすることも、心理的安全性を高めるためには欠かせません。企業が持つビジョンやミッションが明確であり、全社員がそれに向けて一致団結できる環境を整えることで、意見の違いや対立があっても、それらは建設的な議論に繋がります。
組織の目的が共有されていれば、対立意見が出たとしても、全員が同じ方向に進んでいるという意識があり、議論が深まります。これにより、社員は自由に意見を表明しやすくなり、建設的な議論が行われるようになります。

5.多様な意見を尊重する文化の醸成
多様な意見を尊重する文化も、心理的安全性を高める重要な要素です。企業がイノベーションを推進するためには、多様性が尊重され、異なる視点や価値観が組織全体で活かされる必要があります。リーダーが異なる意見を歓迎する姿勢を示すことで、メンバーは安心して自分の意見を述べられるようになります。
異なる視点が積極的に取り入れられることで、問題解決のための創造的なアプローチが生まれ、組織全体の成長が促進されます。

まとめ

心理的安全性は、企業が持続的に成長し、安心して働ける環境を提供するための重要な要素です。フィードバックの文化を育て、失敗を学びに変え、透明なコミュニケーションを推進することで、企業は心理的安全性を高めることができます。

また、共通の目的やビジョンを共有し、多様な意見を尊重する文化を育てることで、自由に意見を述べることができ、組織全体の活力が向上します。このような取り組みを通じて、企業は心理的安全性を確保し、長期的な成功を収めることができるのです。