社員の感情の管理の仕方

並木将央

並木将央

なぜ、感情の管理が必要なのか

成長社会では、社員に「年功序列・終身雇用・組合」という3つの神器を与えてさえいれば、忠誠心を持ち、顧客ファーストで働いてくれていたので感情の管理は必要ありませんでした。しかし、成熟社会では、年功序列・終身雇用・組合という3つの神器が崩れ、転職が当たり前になり、社員は仕事に自己実現を求め、社員ファーストとなります。企業に求められているのは、社員に自己実現の場を提供できているかです。成熟社会では、社員の感情の管理がモチベーションやパフォーマンスを上げることにつながるのでとても重要です。
そこで今回は、社員の感情管理の仕方についてお伝えいたします。

そもそも感情とは

感情とは、物事に感じて起こる気持ちです。外界の刺激の感覚や観念によって引き起こされたり、ある対象に対する態度や価値づけだったりします。快・不快を主とする意識のもっとも主観的な側面で感情にはさまざまな種類があります。下記に記載した感情は似たように感じる感情もあるかもしれませんが、すべて違う感情です。下記の感情を一つずつ思い出して、その感情をスムーズに感じられるかどうか確認をしてみましょう。



みなさんは、感情を表す言葉の定義づけはできていますか?言葉の定義づけが曖昧だと、同じ感情ばかりを使ってしまいます。部下の気持ちも、適切につかめません。言葉は大脳皮質前頭連合野のコントロールを受けて感情が決まるので、言葉の定義があればその感情を感じることができますが、言葉の定義がないと感じることができません。

感情管理に必要な3つの要素

成熟時代では、社員の価値観がバラバラとなっています。社員の感情を大切にするためには、相手の価値観や信念に共感することが大切です。そのために以下の3つの要素が整うようにしていくことが求められます。
1.仕事に見合った報酬(感情的報酬・金銭的報酬)
日本ではまだまだ、年次や勤続年数などによって昇給する“定期昇給”が主流というところが多いと思います。しかし、同じ年次の社員が同じことを短時間で行った場合、短時間でできた社員を評価しないといけません。さらに、何か難しいプロジェクトを成し遂げた時や難題を解決できた際に、社内に知れ渡るように評価することは大事です。そうすることでモチベーションの高い社員を増やし、最大限のパフォーマンスを引き出せるようになります。

2.仕事をするのに幸せな環境(人間関係・労働条件)
コロナ以降、リモートワークが定着し、社員の働く環境も大きく変わりました。オフィス、リモート、ハイブリッドなど、社員は仕事をするのに幸せな環境を自由に選ぶことが可能となりました。それに合わせて、企業側は「インフラ」「場所」「制度」など、これまでの当たり前を見直していく必要があります。必要であればこれまでの慣習を変更し、社員が仕事をするのに幸せな環境を整えましょう。そうすることによって、離職を防ぐことにもつながります。

3.共感・やりがいを感じられる仕事(自己実現・目的意識)
やりたくない仕事を社員にやらせるわけにはいきません。社員が明るくイキイキと働ける環境で自己実現ができる場を提供しなければなりません。そのため、やりたくないけどやらなくていけない仕事は、ITを使いシステム化する、AIを駆使して仕事を無人化するといいでしょう。そうすれば社員はやりたいことができ、幸せな仕事をしていると幸福感が高まり、結果として企業価値を高めてくれます。

働く意欲の高め方

みなさんは、1on1をご存知でしょうか?1on1ミーティングとは、定期的に上司と部下が1対1で話し合うことを言い、人材育成の手法として世界的に注目を集めています。その特長は、上司が部下の成長のために時間をつかうということです。成熟社会となり社員ファーストとなったからこそ、1on1が日本でも注目されるようになりました。日本企業の導入で早かったのはYahoo!で2012年、経営陣の刷新のタイミングで1on1を導入しています。上司から「ちょっといい?」は言えるが、部下から「ちょっといいですか?」と自分のお願いを聞いてもらうためのことは言いづらいので、定期的な場があるのは好ましいです。1on1では個人と業務と組織の距離を離れさせないことが重要です。

部下から話を聴くことが大切で、話を引き出していくと良いです。業務だから聞いているという態度を取ったり、相手へ誤った把握をして知ったかぶりをしたりすると、部下の心は閉ざされていきます。顕在化していない部分も理解しようと努めることが重要です。1on1で共感が生まれると、次第に働く意識が高まります。

感情管理に欠かせないは、コミュニケーション

1on1は良い手法ではあるのですが、対話レベルで済ませてしまい、コミュニケーションとならない上司が多いのが現状です。感情管理にはコミュニケーションが欠かせません。では、目指すべき、コミュニケーションとはそもそも何でしょうか?コミュニケーションとはつながっている状態のことをいい、コード(記号)やコンテキスト(雰囲気)を使って、意思疎通や情報交換ができるようになるということです。例えば、上司が「あの資料出来ている?」と言って、思ったとおりに〇〇社の資料が出てくれば、コードとしての言葉が不明確にもかかわらずコミュニケーションができていると言えます。

上司と部下の間で重要なのは、まず、仕事内容や作業の進め方が、筋道の通ったやりとりで相手に適切に伝わることです。これがコードに当たります。さらに上司は、部下の楽しい、面白いといった感情を引き出し、情緒的に心地良いコンテキスト、つまり心理的安全性を作り出すことが大事です。そして、お互いに価値観や希望、ビジョンをすり合わせて納得して、仕事の中身に対して合意形成をし、お互いが責任を持って関わることを決めるとコミュニケーションが完成します。日常を振り返ってみてください。みなさんは、コミュニケーション取れていますか?一方的な指示になっていませんか?



感情を重んじるために使えるテクニック

人間を知るには、心理学はとても役に立ち、言葉の選び方一つを取ってみても、相手に与える印象は大きく変わるということを理解することができます。感情を重んじるためには、仕事の話以外でもトークを弾ませられるように会話力を高めることも重要です。心理学、言葉選び、会話力の3点から明日から使えるテクニックをお伝えします。

1.人は見られていると頑張る
見られていると感じると、人は「能力が低いと思われたくない」という無意識の心理が働いて、見守ってくれている相手の期待に答えたいという心理(ホーソン効果)が働きます。期待されていないと知ると、人は楽な方向に進む傾向にあるので、手を抜きやすくなります。そのため、一部の企業では、テレワークを実施している社員のパフォーマンスを評価するために、モニタリングソフトウェアを使用しています。モニタリングされることで一生懸命働くかもしれませんが、同時にプレッシャーやストレスとなり得ることもあります。適度な距離をお互いにすり合わせ、互いに心地がよいインフラを整えましょう。

2.アドバイスはほどほどに
見られていると人は頑張ると言いましたが、良かれと思って行うアドバイスが時としては相手を否定してしまうこともあります。敢えて悪く言うと、アドバイスは相手のやり方へのダメ出しなので、求められていないアドバイスはやめましょう。とは言え、聞かれないからと言って何も教えないのは違います。放置のし過ぎは無関心と捉えられてしまうので、気をつけましょう。加減としては、全30回のうち、6回に1回が最も効率が良くなったというデータもあります(ルーリーの実験)。



3.集団になると生まれるフリーライダー
働きアリのうち、積極的に働くのは2割だけで、6割は普通に働き、残りの2割は働かないという2:6:2の法則を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。人も同じだとよく言われています。また、人は集団となると、「自分がしなくても誰かがしてくれるだろう」という心理が無意識に働きます(リンゲルマン効果/社会的手抜き)。一人一人を「全体の何分の一」と捉えるのではなく、「個×○○人」と注目することが集団の力を強めます。

4.自分が発する言葉の力
無意識に使っている言葉が、あなたの印象を創っています。ついつい感じたり、思ったりしたことを口から発してしまいがちですが、同じ気持ちで発しても、言葉一つで相手に与える印象は大きく異なります。例えば、「顔が疲れているね」とストレートに伝えるより、「最近、ゆっくり休めていますか?」の方が相手を思いやる言葉に聞こえませんか。自分が発する言葉の力を理解して、より相手を慮った言葉選びをできるようになりましょう。

5.会話力を高める
人間にとって一番興味があるのは、自分自身です。だからこそ、相手に焦点を当てた会話を繰り広げられる人は人気を集めます。「目は口程に物を言う」ということわざがあるように、人は表情からさまざまなことを判断します。 「あなたと話せて楽しい」ということを表情で表現できているか?が重要です。無表情よりも笑顔の方が20倍注目されるという実験結果も出ているほど、笑顔には人を惹きつける効果があります。また、意見が異なったときは、反論することなく、無理に合わせることもなく、相手に興味を持って質問していきましょう。

まとめ

成熟社会の全社員に必要なのは、自分が必要とされ、自分がやりたいことをやるのができているといった肯定感であり、快適な環境です。これからの企業は、経済的な豊かさだけでなく、社員が心地良く過ごす精神的環境を提供できることが重要になります。今日、ご紹介した方法を用いて、感情の管理を始めてみてください。

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並木将央
専門家

並木将央(経営コンサルタント)

株式会社ロードフロンティア

人口減少に伴う「成長社会」から「成熟社会」という社会の大きな変化に対応した経営変革を支援。人材獲得、人材育成、業務効率化、資金繰り、売上UPなどの課題を同時解決するコンサルティングサービスを提供。

並木将央プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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