超高齢化社会はなぜ起きた?社会をどう変えた?老後はいくら必要?注意点は?
令和4年5月、経済産業省から「未来人事ビジョン」が公表されました。
この「未来人事ビジョン」は、日本の未来を支える人材を育成・確保するための大きな方向性と、今後取り組むべき具体策を示したものです。経済産業省は、2030年と2050年の産業構造の転換を見越して、今後の日本の人材政策について検討するための「未来人材会議」を設置し、雇用、人材育成から教育システムに至る問題について総合的に議論してきました。これらの議論を踏まえ、公表された資料には様々なデータが示されており、その内容からは日本の人材に関する実態が浮き彫りにされています。
この記事では、特に「教育」の観点から、「学び手」と「企業及び教育機関」に焦点を当て、資料に示された内容を考察してみたいと思います。
1.「未来人材ビジョン」で求められる人材とは
まず、未来人材ビジョンにおける求められる人材とは、どのような人材像なのか。資料では、次の社会を切り開く若い世代に対して、基礎能力や高度な専門知識だけではなく、下記の4つの能力を身につけて欲しいと挙げています。
①常識や前提にとらわれず、ゼロからイチを生み出す能力
②夢中を手放さず一つのことを掘り下げていく姿勢
③グローバルな社会課題を解決する意欲
④多様性を受容し他者と協働する能力
※引用:「未来人材ビジョン」(経済産業省)
これらは与えられた学習や仕事をこなすだけでは獲得することが難しく、根源的な意識・行動面に至る能力や姿勢が求められていることが読み取れます。
2.好きなことに夢中になる
では、「学び手」としての視点から考えてみましょう。資料によれば、新たな未来を拓くために必要な人材として、「好きなことにのめり込んで豊かな発想や専門性を身につけ、多様な他者と共同しながら、新たなビジョンを創造し、社会課題や生活課題に『新しい解』を生みだせる人材」が求められると記されています。では、「学び手」はどのような意識を持つべきでしょうか。
2-1. 自分の将来をいつ決定するべきか?
この記事を読んでいる皆さんは、将来の働き方をいつ、どのような基準で選択しましたか。
現在、大学進学率が高まっています。このような時代において、多くの学生が「大学生後期」に進路を決定する割合が高いと資料には記されています。しかし、これは多くの学生は目標が 定まらない状態で大学生活の大部分を過ごしていることを意味します。このような状態が適切と言えるでしょうか。進路決定のためならば 大学ではなく、専門学校や高等専門学校 で手に職を身につけ、早期に社会と結びつき、経験を積み、その後、更に学ぶ必要が生じた時に、目的を持って大学への進学を志す選択の方が有意義かもしれません。
ただし、そのような選択をするためには進路決定が「大学生後期」では遅く、可能であれば中学生、遅くとも高校生の段階で出口を明確にした進路選択が必要になります。また、日本の雇用システムや転職がジョブ型採用の諸外国に比べ、賃金増加やキャリアアップなどに繋がらない実態も考慮しながら、企業側も雇用と人材育成の改革を進める必要があります。
2-2.「育てられる」のではなく「自ら育つ」という視点
学生は学業が本分です。では、社会人はどうでしょう。学ぶことに対しての意識はどの程度持っているのでしょうか。今後の社会の学び手には、「『知識』の習得と、『探究力』の鍛錬、という2つのレイヤーの間をらせん状に循環しながら、自らの能力・スキルを高める」ことが求められます。教育機関を卒業してからも、「就職」を最終目的にするのではなく、必要な時に上級学校へ入学して学び直し、キャリアやスキルの向上・転換の機会を自ら模索し学び続ける姿勢を持つことが大切です。
【出典:未来人材ビジョン(経済産業省)】
3.企業にできること
次に「企業及び教育機関」の視点から考えてみましょう。日本の人口が減少の一途のなか、生産年齢人口は2020年の約7,400万人から2050年には約5,300万人と現在の2/3 に減少 すると見込まれています。更に、2030年には外国人労働者においても、日本の至るところで不足するとの予測もあります。今の日本は、高度外国人にとって魅力的とは言えず、選ばれない国となっているのです。このことから、少ない人口で社会を維持するのと同時に、社会システム全体の見直しが迫られています。企業はそれらを理解し、雇用・人材育成と教育を一体的に捉えた行動を起こす必要があります。
3-1.教育機関だけに押し付けてはいけない
現代の社会はVUCA時代と呼ばれており、資料にも「一律・一斉で画一的な知識を詰め込めば対処できる時代は終わり、 今は『目指す社会に向けて何を実現すべきか』という到達地点を考える時代 」と記されています。そのような時代を生き抜ける人間を育てるために、教育機関は大きな変革の岐路に立たされています。
高等学校においては、各教科の中で、教科書レベルの知識と身につけた知識を 社会課題に結びつけ往復することで探求的な学習になるように工夫する取り組みが行われています。
しかし、学校の教員の負担は、国際的にも高い水準にあることから、教育機関だけに多くの役割を求めるのは現実的ではありません。そこで、デジタルを活かすことで、場所、時間、年齢を問わず、誰であっても世界に広がる「本物」の社会課題に向き合い、探究学習を始められる環境や、家庭や学校の外で多様な才能を開花させる「サードプレイス」を広げることが求められています。それにより、一人ひとりの認知特性・興味関心・家庭環境の多様性を大事にしながら、知識と探究の往復による思考力を深める学習が実現できるのではないでしょうか。
3-2.「教育」への主体的な参画
これからの「教育」は黒板に向かって先生の話を聞くだけの授業ではなく、学び手が積極的に挑戦したくなる機会を増やす必要があります。
現行の学習指導要領で言う「総合的な探求の時間」では、地域や企業と連携し、地域課題の解決策提案や新商品の開発などに取り組むことが試みられています。それらは、唯一絶対の答えのない「問い」や「社会課題」に対して、生徒が探求的に学習に取り組む活動として試行錯誤されています。
このような活動の実現のために、高等学校は外部との繋がりに積極的になり、各学校の特徴に合った連携先を探している状況にあります。また、一部企業の中には、大学経営への参画、高等専門学校 の設立などの動きが出てきており、大学・高専等における企業による共同講座の設置や、自社の人材育成に資するためのコース・学科等の設置を促進することが求められているのです。
このように、企業側からも教育に参画することで、教員と企業のプロフェッショナルが繋がり、子ども達の教育に貢献できます。その結果、子ども達が様々なプロフェッショナルから学ぶことができ、サードプレイスとは違う教育機関内部に活動を広げることで、格差を最小限にしたうえで、多様な才能を開花させる社会の実現が期待できます。
4.残された時間は多くない
これまでの内容には、今すぐに取り組みを実現できるものと、10年がかりでしか実現しないものがあります。難しいがゆえに、時間軸を意識した具体的な変革に着手することが必要です。しかし、「教育」は投資に対する費用対効果が見えにくく、長期的なスパンでようやく効果が表れてくるものであるため、企業側も当事者として積極的な取り組みに踏み出しにくいのも事実です。ところが、経済産業省が見越す2030年と2050年の産業構造の転換まで、あと数年しか残されておらず、2030年代の教育が変わるためには、今から大きな変化を起こす必要があります。
そのため企業側は、自らの会社の人間だけを育てるだけでなく、時間・空間・教材・コーチの組み合わせの自由度を高め、社会全体の変革へ向けた教育システムの改革に参画する意識を持つことが重要です。
まとめ
この記事では、「未来人事ビジョン」の中で「教育」に焦点を当て、学習者側と企業及び教育機関側の視点から議論しました。学び手と企業及び教育機関どちらか一方に問題があるのではなく、双方が問題意識を持つことが重要です。この記事を見て、興味を持ってもらえたのであれば、「未来人材ビジョン」と検索して資料を一読してみてください。その中で、自らのできることは何かを考え、最初の一歩を踏み出していただけたら幸いです。