ビッグモーターの保険金不正請求がおきた本当の理由

並木将央

並木将央

過剰な営業ノルマと不正請求


今回の株式会社ビッグモーター(以下、ビッグモーター)の問題点は主に2つです。
「営業ノルマが高すぎた」
「大手の保険会社と結びついた保険の不正請求」
ここで一番問題なのは、顧客を蔑ろにしてしまったという点です。車を傷つけられ、保険の等級を上げられることを顧客は望んでいるはずがありません。では、なぜビッグモーターはこんな結末を招いてしまったのでしょうか?





成長社会の3つの要素


成長社会でポイントになるのが薄利多売、人海戦術、情報過多です。たくさんの店舗を展開していく場合、大量に顧客を獲得しないといけないので、どうしても人海戦術的な要素が強くなります。そして、どこに行っても同じサービスが受けられるように人員やサービスの質の担保をしなければなりません。また、情報過多の社会で目立つためには、多額の広告費をかけCMを垂れ流して知名度を上げていく必要があります。

しかし、人口減少の際には、この3つの要素(薄利多売、人海戦術、情報過多) が脆くも 崩れ去ります。崩れ去っていくと、営業ノルマが増えたり、自分は誰のために働くか?という意識が顧客から上司に向いてしまったりします。 成長社会型の企業が成熟社会型 へとシフトするときに、気をつけなくてはいけないのは「ビジネスモデルが今の時代にマッチしているか」という点です。マッチしていないのに無理にシフトすると、いろいろ なところで歪みが生じます。今回のビッグモーターの一件も成長社会のビジネスモデルを貫き通しすぎて、問題が生じたのではないかと踏んでおります。

成長社会型の企業が陥りやすいポイント


1.営業ノルマ
営業ノルマは、人口が増えていくときには顧客が増えていくので、ノルマが設定されても達成しやすかったです。しかし、現状では人口が減っていくのにもかかわらず 、ノルマだけは上がっています。走り高跳びのバーのように、飛べたら上がっていき、1000万売ったら、次年度は1100万円、さらに 次年度は、1200万円とノルマは上がり続けます。

2.顧客ロイヤルティの消失
しかし、人口は減少していくので、どこかで必ず差が生まれます。そのうち、ノルマに対して強烈な圧力がかかります。そうすると、営業は顧客を見て営業していたはずなのに、いつの間にか上司の方を向いて、ノルマや過剰な指示に対して一生懸命やろうとしてしまいます。そして、顧客とのリレーションやロイヤリティが消失 していきます。営業が顧客よりも上司を重んじた瞬間に営業としての形は崩れていきます。上司からのノルマを達成するためにどうするかということに注力し、顧客の利益が蔑ろにされていきます。それが今回のように車を傷付けたり、不正保険金請求をしたりというような事態に繋がります。

本来ならば、会社が成長していった先に 、叶えたいビジョンがあったはずです。そのビジョンを叶えるために経営し、ビジネスをして活動資金を得て、それでビジョンを達成していくはずでした。しかし、逆にビジョンを無視してとにかく数字だけ上げるという話になってくると顧客を無視してしまうことになります。

3.危険なアライアンス
顧客のロイヤリティを失い、顧客を傷つけても儲けようとしたときに、手段がなければやりたくてもできません。手段がなければ、しっかりと顧客を見て頑張れたかもしれません。しかし、「顧客の車を傷つけても保険金で直しましょうよ」と、顧客を蔑ろにして上司を満足させる手段が提供されてしまいました。昔で言うと悪代官と越後屋です。悪代官が悪代官になれるのは越後屋がいるからです。

成熟社会への正しいシフト方法


では、成熟社会において、どうすべきだったのでしょうか。まず、営業ノルマについてですが、営業ノルマは会社側が設定しているものです。会社側が何のためにノルマをかけて、その金額を稼ごうとしているのか?その合理性を社員とすり合わせしているのか?がポイントです。社員を追い込んでまで稼いだお金で会社は何をするのか? 経常利益を貯め込んでどうするのか?拡大していきたいということであれば、拡大して会社はどこに向かっているのか?ということを会社が営業にちゃんと伝えなくてはいけません。





会社のビジョンを考えたときのエコシステムには、社員やその家族、取引会社、協力会社、あと顧客もいると思います。全ては、そのエコシステムに集約されます。その中にどういうプレーヤーがいるのかをみんなで想像していればと、その人たちを傷つけることは基本的にないはずです。それがそういった話もせずに、ただ売上 や会社の利益だけ良ければいいという体質では、歪みや差が生じるだけです。

大事なのは共創し合えるエコシステム


1.本当は誰のためのノルマなのか
たくさんお金を稼ぎたい人がいれば、稼いだ金額に見合う給料をあげればいいのです。そして、「そこそこに暮らせていければいい」という人のノルマはその給料を維持するだけのノルマでいいはずなので、上がることはありません。会社がどういうふうになりたいのか、社員をどう幸せにしたいかが明確にないと、営業ノルマだけが浮き彫りになり、会社のためでも社員のためでも顧客のためでもないとなってしまいます。ノルマが悪いとは言いませんが、なぜノルマを設定するのかをちゃんと説明できるようにしておいてください。

2.営業は要らない
当然、エコシステムの中に顧客がいると思います。その顧客が自分の会社を通して、どうなって欲しいのかを考える必要があります。自分の会社のプロセスを考え、どのようなプロセスで顧客がビフォーで入ってきて、どうアフターで出ていくのかっていうところをちゃんと業務フローの中に組み入れておくことが大事です。そうすれば、ビフォーアフターの価値に顧客はお金を払ってくれます。さらに顧客から紹介もされやすくなり、顧客ロイヤリティも上がれば、営業をしなくてもよくなります。

つまりマーケティングだけで顧客がくるようになる可能性が十分にあります。そうなれば、拡大戦略のために人件費も高い営業ノルマも必要なくなるかもしれません。また、CMでマインドシェアが獲得できており、さらに顧客とリレーションが取れていれば、リピートしてくれ、ストックが積み上がってきます。自社のサービスがストックビジネスということを考えてロイヤリティを高めていけば、自社のファンになってくれる人が限界に達するまで増えていくようにビジネス展開をすることが重要です。フロービジネスではなく、ストックビジネスで顧客ロイヤリティ高めていけば、不要な費用をたくさん払う必要ありません。

3.成熟社会では紹介を得ることを意識する
次にアライアンス先です。先ほどのエコシステムの中にも協力会社は欠かせません。協力会社と手を組んで何を実現したいのかっていうところを事前に話をしておくといいです。今回は、協力会社が不純な 動機に対して問題のある手段を提供してしまったことが問題です。はじめから、危険な方法を呼び起こすような発言をしなければ、それを実現する問題のある方法は出てきません。危険なアライアンスを作らないためには、問題発言はしないことが一番のポイントになります。

自分の会社を中心にどういう世界を作りたいかというところをちゃんと意識をして、それで協力会社に協力を仰ぎましょう。「お金を払ったからやってね」という話ではないということを事前にすり合わせておけば、逆に協力会社から仕事を紹介されるかもしれません。営業で取りに行くのではなくて、紹介を得るためにどうしたらいいのかというところに、成熟社会は意識を持っていくことが重要です。





まとめ


今回はビッグモーターを題材にしましたが、成長社会型の企業は、今は危険なこと考えても方法がなかっただけで、危ういところに手を染めないだけかもしれません。悪いことはしないと強い意志を持っていても、魔が差してしまうこともあるかもしれません。だからこそ、今までのやり方を見直して、どういうエコシステムを作りたいかを今一度立ち返ってみましょう。そのうえで新しいビジネスモデルとマーケティング中心に変えていくように、ぜひ意識を向けてみてください。これが成熟社会へのビジネスシフトです。そうすれば、こういう問題が世の中からなくなっていくのではないでしょうか。

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Mybestpro Members

並木将央
専門家

並木将央(経営コンサルタント)

株式会社ロードフロンティア

人口減少に伴う「成長社会」から「成熟社会」という社会の大きな変化に対応した経営変革を支援。人材獲得、人材育成、業務効率化、資金繰り、売上UPなどの課題を同時解決するコンサルティングサービスを提供。

並木将央プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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