大学も資産運用で生き残る時代——東京科学大CIOが語った「25年の長期運用」

安東隆司

安東隆司

テーマ:所長解説のおカネ学♫

「大学も、資産運用で生き残る時代に入った」。少し意外に思われるかもしれません。

特に、欧米の主要大学は数兆円規模のファンドの運用益を活用することで、機動的な先行投資を可能とし、研究基盤や若手研究者への投資を拡大しています

出所:文部科学省 国際卓越研究大学 制度概要

日本の大学も自ら稼ぐ仕組みづくりに本格的に動き出しています。
国は2022年3月、10兆円規模の「大学ファンド」を創設しました。
科学技術振興機構(JST)が運用し、その運用益から、世界最高水準の研究を目指す「国際卓越研究大学」へ年間3,000億円を上限に助成されます。

大学ファンドは2025年度、当期純利益3,158億円(過去最高)を計上しました。
運用資産額は12兆2,542億円に達しています。
同じ2025年度には、東北大学に169億円、東京科学大学に124億円が助成されています。

この制度のもと、2026年1月23日付で認定され、2月27日付で計画が認可されて、4月1日から事業を開始したのが東京科学大学です。
同学の最高投資責任者(CIO)に5月1日付で就任したのが土岐大介氏です。
そのインタビュー記事(QUICK Money World 2026年8月21日)での土岐氏の長期運用の考え方に、RIA JAPANは強く共感を覚えました。

東京科学大学の体制

大学側には、外部資金の獲得と並んで、自前で運用する力が必要になるのです。
体制を見てみましょう。
土岐氏は1990年にゴールドマン・サックス証券に入社。
同アセット・マネジメント代表取締役社長、ドイチェ・アセット・マネジメント代表取締役社長、BNPパリバ・アセット・マネジメントCEOを歴任された人物です(外資系金融機関30年、うち資産運用会社3社でCEO通算17年)。
2026年4月に非常勤理事(資産戦略担当)として着任し、5月にCIOに就任しました。

CFOは、国際卓越研究大学計画を統括する井上光太郎理事。
資金運用管理委員会の委員長は、元GPIF経営委員の加藤康之氏(外部有識者)が務め、運用執行に関与しない立場からけん制する3線防衛を敷いています。
運用額は、リスク運用136億円と安全性重視の84億円、合計220億円からのスタートとのことです。
「CIO個人の力量に頼りすぎないか」という懸念に対し、組織の仕組みを先に整えている点が重要です。

土岐氏が挙げた3つのキーワード

土岐氏はこう語っています。

『もちろんパフォーマンスは重要ですが、私たちが取り組むのは「25年の長期運用」です。
過去の3年や5年のパフォーマンスで選ぶべきではありません。
特にゼロ金利時代のパフォーマンスが、今後のインフレ・金利環境下で同じように再現される保証はどこにもありません』

そして、選定の基準として挙げたのが次の3点です。

『本質的に重要なのは「運用哲学」「リターンの源泉」「再現性」の3点で、これを組織対組織として深く理解し合えるかが鍵です。
属人的なキーパーソンリスクを避け、25年という時間軸の中で担当メンバーが変わっても、その組織体制が持続するかどうか。
ですから、私の中には「どう選定するか」という表現はありません。
「どうお手伝いしていただけるか」、本学と長く一緒に汗をかいていただける運用会社と信頼関係を作っていくという発想です』

なぜ、この3つが重要なのか

筆者なりの考察でこの3点についてコメントします。
まず「運用哲学」です。
これは、長期にわたって持続できるものかどうかを問うものです。
日本の金融業界は長らく、販売者が売りやすいテーマで新商品をつくり、強力な販売網で売って収益を上げる体制を続けてきました。
そして2〜3年経つと「今の流行りはこちらです」と、別のテーマへ乗り換えを促す。
これは金融庁が問題視してきた回転営業スタイルそのものです。
次に「リターンの源泉」です。
これは、その商品の中身からリターンが生まれる仕組みになっているかどうか、ということです。
販売の勢いではなく、投資対象そのものが収益の源になっているかを見ているのです。
そして「再現性」は、長期運用の核心です。
たまたま投資した為替が当たったからといって、今後も同じ収益が得られるとは限りません。
ブームが去った後のリターンは振るわない、テーマ商品が多数存在しています。
3つはいずれも「短期の成績で判断しない」という一点に通じるものと考えられます。

「狩猟型」ではなく、パートナーとして

土岐氏の姿勢は、短期の成果を追う狩猟型とは対極にあると筆者は感じました。
残念な狩猟型のスタンスの人は、短期で成果を出して賞与を得て、古巣の商品を導入して顔を立てる。
土岐氏の考え方はそうした短期の発想では無いと感じたのです。
25年という時間軸で、組織同士が信頼を積み上げていくという発想と考えられました。
これはヨーロッパのプライベートバンカーの姿勢に近いものを感じます。
彼らは世代を超えて顧客ファミリーと取引を続けており、顧客もまた彼らを「仕事を発注する下請け」ではなく、資産運用のパートナーとして扱います。
土岐氏の「選定する」ではなく「どうお手伝いしていただけるか」という言葉は、まさにこの関係性です。

なお、土岐氏と筆者は面識がありません。
利害のない立場からこの姿勢に共感するものを感じています。

RIA JAPANの「運用哲学」「リターンの源泉」「再現性」

筆者が経営する投資助言会社である、RIA JAPANにとっての3つのキーワードを記載します。
まず「運用哲学」です。
お客様の運用が成功すること、低コスト運用が実現すること、そして長期にわたって安定した運用が続くことです。
親に勧められるものしか勧めませんし、販売者からキックバックを受けることもありません。
お客様とWIN-WINの関係を築くことを大切にしています。
メガバンクに勤めている人が必ず良い商品を勧めるとは限りません。
自社で扱う商品の中からの選択にならざるを得ないからです。
RIA JAPANは独立系ですので、系列に配慮する必要がありません。
一般の販売者が勧めない海外ETFを助言ツールとしているのも、お客様の運用の成功のために低コストの商品を選んでいるからです。

次に「リターンの源泉」です。
RIA JAPANは低コストの商品を選択し、海外ETFの日本での第一人者としての研究成果を活かしています。
マーケット情報の収集と分析を行い、長年の投資家としての経験から資産配分を導きます。
キャッシュアウトを考慮した運用や、インカム戦略を含むマルチアセット戦略で臨みます。
世界の多くのファンドは株式100%のポジションを取っており、上昇相場では良好なリターンをもたらしますが、下落局面では大きな元本割れも考えられます。
「転ばぬ先の杖」として、あらかじめ株式以外でリターンに寄与できる分野に資産を配分しておくのです。
株式100%のファンドより、リターンが見劣りする局面もあるでしょう。
しかし、資産運用のゴールは長期で安定的な運用だと考えます。

そして「再現性」です。
低コスト運用と流動性の高い商品の選択、伝統的資産への配分を基本としています。
新ジャンルや新商品には慎重な姿勢をとり、レバレッジやデリバティブ取引のような高リスクは原則として採用しません。
情報収集は長期スタンスで行います。
ただし、先進性を排除しているわけではありません。
RIA JAPANが半導体セクターへの資産配分を検討したのは、世間での半導体の重要性や投資配分がまだ高くない時期でした。
RIA JAPANにとっては「新ジャンル」ではなく、十分にリサーチを行った結果での資産配分でしたが、世の中から見ると新ジャンルと映るほど、先進的な取り組みだったのかもしれません。
大きなリターンの可能性があっても、実現可能性や裏付けがはっきりしない場合の助言は控えています。
テーマ型の流行りIPOに対して助言を控えるのも同じ理由です。
一方で、RIA JAPANの地道なリサーチの努力はお客様に見えにくいというデメリットも事実です。

おわりに

大学は、「自ら稼ぐ仕組み」に歩み始めました。
そして、今回東京科学大学のCIOが語った3つのキーワードは、RIA JAPANがお客様と向き合う姿勢と重なっています。
筆者は、東京科学大学の挑戦に(勝手に)共感を覚え、敬意を表します。
そして、このような思想で運用に取り組む大学が、今後さらに増加することを期待しています。

※本コラムは信頼できると判断された資料を基に作成しておりますが、正確性、完全性を保証するものではありません。
※過去の実績は将来の運用成果を示唆・保証するものではありません。
※本コラムは特定の金融商品の勧誘を目的としたものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。運用により元本を割り込む可能性があります。
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安東隆司
専門家

安東隆司(投資顧問)

おカネ学株式会社 Reliable Investment Advisors Japan Co.,Ltd(英文名称 略称 RIA JAPAN)

富裕層の資産の管理や運用、承継などを行う。売買手数料0などお客様と利益相反の少ないサービスを追求。また、海外ETFを中心とした資産形成の知識・経験が豊富。テーラーメードの投資助言を大切にしている。

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