農林中金2025年3月期 連結純損失 約1.8兆円 CLO投資は大丈夫か

安東隆司

安東隆司

テーマ:所長解説のおカネ学♫

農林中央金庫は2025/05/22、2025年3月期 連結純損失が▼1兆8078億円の赤字になったと発表しました。
農林中央金庫の市場運用資産は米欧国債への依存度が高く、
2022年からのFRB(米連邦準備制度理事会)の利上げなどで外貨調達コストが急激に上昇しました。
収益性が悪化し、2025年3月に低利回りな米欧国債など17兆3000億円を売却しました。
2025年3月末時点の保有債券の評価損は▼約1兆2350億円でした。

図表引用:2025/05/22 Bloomberg『農林中金、今期純損益は最大700億円の黒字見通し-巨額損失から回復』

追加投資のCLO(ローン担保証券)はサブプライムローン全盛期を思い起こさせる


いわゆるリーマンショックの大罪のひとつはCDO商品(サブプライムローン)でした。
筆者は米系の大手証券で業務をする中で、どうしてもこの商品に投資する意味を見出せませんでした。
「住宅ローンを借りられない層への融資をまとめて、上位の階層分けするとAAA格になる」
金融工学を駆使し、確率的には正しいのだと思います。
しかし、ドロ水はドロ水のままです。表層のキレイな部分であっても、バイ菌がいるかもしれないのです。
(*理解を優先した例えで、科学的に正しいかどうかを保証するものではありません)

商品部門の担当者、責任者に何度も話を聞き、私が当時出した結論は
サブプライムローンには自分では投資しない。
自分の親に勧めらる商品とも思わない。
だからお客様にも勧めない


サブプライムローンがその後どうなったかは皆さんがご存知のとおりです。
投資するべきでなかったと後悔する投資家が続出したのです。

CLO投資を増やして大丈夫なのか

農林中央金庫のCLO(ローン担保証券)への投資が増えています。
CLOとは信用力(≒返済能力)がそれほど高くない複数の企業への融資をまとめて証券化した金融商品です。
農林中央金庫のCLO保有残高は2025年3月末時点で約8兆3000億円であり、
2024年12月末時点から約1000億円増加しています。
(2025年3月末時点の合計市場運用資産残高は約40兆3000億円)
今回、農林中金が追加投資しているCLOとCDOは、共に証券化商品です。
組成者はリスクを、投資家に移転させることができる商品なのです。
商品組成し、販売で利益を得たら、後のリスクは投資家が負うことになるのです。

日銀や金融庁は慎重なリスク管理の必要性を説く

日銀や金融庁は、CLOなどの商品投資に警戒が必要だとかつて呼びかけを行っています。

「二番底のリスクも十分に意識した慎重な検討が求められる」との考えを示した。

さらに、CLOは同じ格付けであっても運用担当者によって運用の巧拙や資産の選定などで差異が生じることなどから、過度に外部格付けに依存せず個々のケースに応じたリスク管理態勢を整えることが重要だと強調した。

2020年3月末時点で約7兆7000億円相当のCLOを保有する農林中央金庫の奥和登理事長は5月27日の決算会見で、「金融市場のボラティリティなどから今年度は非常に不確実性が高い」と述べる一方、「CLOと同じようなリターンを得られる投資はなかなかない」として、デフォルト率と回収率などリスクを見極めるモニタリングをしていくと述べた。

出所 2020/06/02 Bloomberg『日銀と金融庁、CLO投資などで慎重姿勢呼びかけー二番底リスク警戒』

セールストークに踊らない判断が重要

販売者は、専門的な用語を説明に用います。
「特別な方々に」「富裕層やプロが用いている」「高度な分析」といったセールストークを駆使して「さも洗練されているような雰囲気」で商品を販売するのです。
運用決定者は、「わからない事はわからないと言う」「セールスを鵜呑みにしない」ことが必要だと思います。

農林中金が再び日本の農業事業者の期待に応える組織となることを期待しています。

※本コラムは特定の有価証券又は金融商品を勧誘するものではありません。また、特定の資産クラスに対する今後の方向性や判断を保証するものではありません。


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