危険な5つの過信 富裕層が陥る相続・贈与プランの落とし穴(1)
相続・贈与が発生した時に、専門家に依頼せずに手続きを行い、後悔してしまう事例が多くあります。
約6年前に執筆した記事ですが現在でも通用する内容が多くあると判断したため過去再掲します。
相続・贈与についてはベースとなる知識はあまり変わりないと思われます。
(税務は毎年変わるので、見直しが必要な場合があります)
「毎年110万円ずつ、子供に贈与しているから大丈夫」「もう何年も非課税範囲(贈与税の基礎控除の範囲内の贈与)で贈与を続けている」といった発言を耳にすることがあります。しかし、知らないと将来問題になるかもしれない事柄が存在します。知っておくことであなたが本来意図した贈与の実現に近づきます。
■贈与の落とし穴「定期金贈与」とは?
1年間にもらった財産の合計額が基礎控除額の範囲なら贈与税はかかりません。(2016年9月現在110万円)。この場合贈与税の申告は不要となっています。
しかし、あなたが毎年贈与したつもりでも、当局はそう判断しない事例があるのです。国税庁HP内にある下記の内容をご存知でしょうか。
「10年間にわたって毎年100万円ずつ贈与を受けることが、贈与者との間で約束されている場合には、1年ごとに贈与を受けると考えるのではなく、約束をした年に、定期金に関する権利(10年間にわたり毎年100万円ずつの給付を受ける権利)の贈与を受けたものとして贈与税がかかりますので申告が必要です」
つまり、1000万円非課税と思っていたものが、890万円が贈与税の対象となる可能性があるのです。
110万円ずつ、10年にわたり贈与しているという場合を考えてみます。
税務署から『1100万円を10年に分けて110万円ずつ定期金として贈与したのですね』と言われた場合に、そうではないと立証できるでしょうか。あらかじめ定めた定期金を複数年にわたって贈与することが約束された場合は「定期金贈与」と考えられてしまう。この危険を排除すべきなのです。
■コツ(1)申告することで証拠を残す
非課税範囲内の贈与で、その年の贈与申告手続きをしていない場合は要注意であることは理解していただけたと思います。賢い富裕層はあえて贈与税を支払い「申告書という証拠を残す」方法を採っています。例えば120万円を贈与し、贈与税を実際に納めることで、贈与の事実と申告書を残すわけです。
■コツ(2)定期金贈与疑惑を回避する贈与額の工夫
毎年申告していればそれで良いのとも限りません。毎年120万円を贈与、申告していても、『1200万円を10年に分けて贈与したのですね』と言われるリスクは残るのです。
賢い富裕層の贈与対策は「金額は毎年バラバラ、ラウンド数字を避ける」です。例えば、贈与金額を「112万円、131万円、114万円、119万円、122万円」といった形で毎年異なる金額にします。しかし、合計額でちょうど1000万円になっている場合などは、疑惑を残してしまう可能性があります。本事例の合計は598万円で合計金額もピッタリのラウンド数字で無い(ゼロが並ばない)ものです。
■コツ(3)金融機関の振込を利用する
銀行などの金融機関を利用することには大きなメリットがあります。「誰から振り込まれたか」「金額」「日付」がオフィシャルな形で残されるからです。
金融機関を利用することで贈与の証拠を残そうとしたことは良いことです。しかし、こんな過ちを犯していないでしょうか。
(贈与した)「息子には内緒にしている」「通帳は私が持っている」。これは名義預金と判断されるでしょう。名義にかかわらず、被相続人の財産と認められるものは相続税の課税対象となります。次の項目で対処法を紹介します。
■コツ(4)贈与契約書を作成する
贈与は「当事者の一方が無償で自己の財産を相手方に与える意思を表示し、相手方がこれを受諾することによって成立する契約」(三省堂大辞林)とあります。
受け取った側である受贈者が認識していないと贈与は否認される可能性があるわけです。親は良かれと思って子ども名義の通帳に贈与をしたつもりでも、受贈者である子どもが「知らない。父がやったこと」と言ってしまえば贈与契約を否定される可能性があるわけです。
また、贈与された金額を子どもが知らないと否認されるリスクは更に高まります。贈与を正しく理解させ、贈与契約書を作成して自署捺印をします。子どもの名義で親が書いたものは勿論不可です。贈与の内容を正しく理解させた上で子どもに面前で記載してもらうのです。
■「子ども名義の通帳だから大丈夫」の落とし穴
名義は子どもでも、次の事例は名義預金と判断され課税遺産額に加えられる結果となるリスクがあります。「印鑑は親が親名義の通帳に使っているものと同じ」「通帳の保管は親が行っている」「子どもが銀行名、支店名を知らない」
■コツ(5)通帳は自署で印鑑は子ども専用、名前入りを
金融機関の通帳を作る際も、可能ならば子ども自身に記載させた方が良いでしょう。すでに口座開設時に親が印鑑届を代筆した経緯がある場合は、改めて子ども自身が自分の筆跡の印鑑届を再提出してから、贈与手続きを行う方がベターでしょう。印鑑は親が利用しているものを兼用しないことです。
新たに苗字でない「子どもの下の名前」まで入った印鑑を使用する方が誤解を受けずに贈与を成功させる可能性が高いと思われます。子どもが女性の場合には、結婚で苗字が変わることを想定して「下の名前のみ」の印鑑の使用もコツのひとつです。
贈与契約書を作成し子どもに保管させます。贈与契約書の所在を子どもが知らない場合を避けるためです。子ども名義の通帳を作り保管は子ども自身が行います。親名義から子ども名義の通帳への振込実施し、オフィシャルな贈与日付の証拠を残します。贈与の申告書も子ども自身が自分の印鑑を押印し保管した方が良いでしょう。贈与税の納付手続きも子ども自身で行わせることは金融経済教育の観点からも意義があります。
※本内容は一般的な考え方を示したものであり、本件の実行に関して当社は一切の責任を持ちません。実際にプランを行う場合には税務の専門家にご相談下さい。
2021 おカネ学(株)(2016/09/12)
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