投信の手数料打ち切りも 米国投資家に学ぶべきコト
資産運用には市場を見渡す視点ももちろん大事ですが、運用益を発生させても運用にかかったコストでマイナスになってしまうことがあります。
本日は2009年に執筆したコラム「知っておくと得するパーソナルファイナンス」シリーズより資産運用のコストについてお話ししたいと考えております。執筆は11年ほど前ですが、内容は現在の市場においても変わらずに重要な内容だと考えております。
資産運用のコストについて
1.日経平均株価と分散効果
日本の株価の指標として代表的なものに「日経平均株価」が挙げられます。これは日本を代表する225銘柄の選別を日本経済新聞社が行っているもので「日経225」とも呼ばれています。
新聞やTVのニュースで今日の株価を紹介する時に使われているので、皆さんにもおなじみであろうかと思います。
この指標(インデックス)は日本だけでなく世界中の投資家からも注目されており、信頼度も高いインデックスといえるでしょう。
さてあなたが日本の経済が今後伸び、日本全体に勢いがある・上昇相場になると考えて、日本の株式に投資をしたいと考えているとします。あるA社の株式を購入したのですが、結果的にA社の株式は値下がり、日経平均株価は上がっているといった現象は十分起こり得ます。
業界全体が不況であるという状況はある程度判断できるかもしれませんが、A社が違法な贈収賄に関与している、消費期限の不正な付け替えを行っている、オーナー社長の体調が悪く後継者に現在ほど期待ができない、といった情報は予想ができないものとも言えます。
日本全体の株価が上昇するチャンスに投資をするのであればA社1社に投資をするのでなく、日経225に投資を行うという方法もあるわけです。
いわば225社に分散して投資を行っているのですから、A社1社が不調でも、好調な多くの会社の株価が投資した株価を支えるケースもあるでしょう。しかし日経平均株価の225銘柄を1社ずつ購入するためには膨大な投資金額が必要になります。
B社1社の株式を購入するためには最低200万円、といった株式もあるわけですから全部買うためにはいったいいくら必要なのか?と思われるでしょう。この必要資金に対する回答のひとつが投資信託です。例えば1万円から日経225に投資ができるわけです。
2.ETFとは?
ETF(イーティーエフ)とはExchange Traded Fundの略で、上場投資信託と呼ばれています。
株式市場に上場していますので、リアルタイムに値段が変わります。投信と異なり「この値段で売却したい」という指値での注文も可能になっています。
分かりやすい例で言えば、「日経平均株価」に連動するETFは大阪証券取引所で3銘柄、東京証券取引所で2銘柄あります。(2009年6月28日現在。海外ETFとETFの投資テーマについては次稿以後にて紹介します)
3.ETFと投信のコストは?
日本の金融グループであるC社グループ傘下の投資信託、「C社日本株オープン投信」なる商品があったとします。
購入時に手数料2.0%を支払い年間の信託報酬を0.5%払ったとします。1年間の運用コストは2.5%となります。ETFのコストは販売手数料ナシ、信託報酬0.22%だけです。(これ以外に株式購入の手数料は証券会社によりかかります)。
ではC社オープンの投資方針はというと、「日経225の動きに連動する投資成果を目指す」のですから、日経225連動ETFの運用方針と何ら変わらないといえるでしょう。
1年で保有コストは2.50%と0.22%の差である2.28%、また翌年以後も0.50%と0.22%の差、0.28%ずつの差が出てくるわけです。仮に毎年約+1%で10年の運用を行い、コストの削除前ベースで10%の運用成果があがったとします。同じ10%でもコストの違いによって実際のリターンは異なります。ETFでは7.8%(+10%−2.2%)、投信では3.0%(+
10%−7.0%)、10年間での差は4.80%の差になるわけです。
4.販売者のモラルと販売ノルマ
余談ですが、筆者は日本のメガバンクに18年弱在籍していました。その中で違和感を覚えたもののひとつが「販売者のモラルと販売ノルマ」でした。
例えば銀行での投資信託販売が解禁になるや、銀行の預金を投資信託にシフトするという方針が多くの金融機関でとられました。それは預金を投信に乗り換えることで、約3%の販売手数料が金融機関の収益につながるという理由が大きかったのではと思います。
あるD社の投信は当時の経済・マーケット環境から考えて筆者は全く魅力を感じませんでした。しかしながら販売額のノルマがあるゆえに顧客のニーズや投資経験、置かれている経済状況に合っていない商品を販売する営業員もあったのではないかと危惧しております。(もちろんすべての営業員ではありません)
「顧客」「企業」「自分」という3者のニーズへの満足で言えば「企業」と「自分」の満足に主眼が置かれ、肝心の「顧客」のニーズや立場がともすれば軽視されたのではとの心配をしました。
仲の良い高齢者に対してリスクを十分に説明せずに「銀行の売るものだから間違いない」と誤った認識を持たせてニーズに合わない商品を販売してしまう消費者を軽視した販売があったか否かは定かではありません。
しかし金融機関に対する苦情が金融庁や消費者センターなどに数多く見られた事実がありました。銀行の立場で若干補足するならば、適正な利益を得ることは株式会社である銀行にとってもちろん必要です。
またETFのない時代には日経225に連動する投信に当時は十分メリットがあったと思います。筆者は「自分の親に勧められない商品は顧客に勧めない」というポリシーが販売者すべてに行きわたり、まず顧客志向が優先されるべき、と考えております。
5.レモンとリテラシー
―レモンを販売する生産者はそのレモンが実は中身が腐っていることに気付いている―
見かけが厚い皮で覆われているレモンは外見から中身の状態はわかりません。
このように保有する情報の量に差異がある事象については「情報の非対称性」とも表現されます。買手、消費者は無知であるとプロに騙されてしまうケースも発生するわけです。これを回避するための2つのケースを考えてみました。
・周りの販売員(プロ)がすべて良心的なモラルを持ち合わせていることを期待する
・自分自身で騙されないように判断できる力を持つ
金融リテラシーという言葉があります。「金融や経済に対してその情報を使いこなす能力」と筆者は定義をしています。
このおカネ学のコラムを通じてパーソナル・ファイナンスについて知ることで、読者の方の金融リテラシーが向上する機会になることの一助になれば幸いです。
原文 2009.10 一部表現修正
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