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≪連載≫ おカネ学 ∼知っておくと得するパーソナル・ファイナンス∼
第4回
あなたの相談している方は専門家ですか?
相続について
2010年1月 社団法人企業研究会「Business Research」原稿 再掲載
データはあえて2010年1月当時の税制のまま掲載、一部2018年加筆しております。控除の縮小など現在では2010年当時よりも相続税は増えている事実を比較頂ければと思います。
1.相続税が心配で……
相続は全ての人に避けて通れない問題です。なぜならば、亡くならない人はいないからです。
ここで相続税についてクイズを出してみたいと思います。
次の事例で相続税はいくらかかるでしょうか?
例1)自宅(70坪)4,000万円、預貯金2,000万円、生命保険金5,000万円。(計1億1,000万円)
家族構成:(配偶者は既に死亡)、子供2名。
相続税で近いのは次のどれでしょう?
①1,000万円 ②3,000万円 ③6,000万円
2.遺産に係わる基礎控除
相続が発生するとその財産を計算するのですが全財産が相続税の対象とはなりません。
財産の種類や家族構成によって、財産額を少なくすることのできる“控除”などが受けられるからです。
まず最初に説明する基礎控除の計算式は
5,000万円+(法定相続人の人数×1,000万円)(注1)(*2010年当時)
となります。事例では子供2名は法定相続人となりますので、
5,000万円+(2名×1,000万円)=7,000万円(A)となります。(*2010年当時)
(H27年1月の変更で2018年現在は以下です)
3,000万円+(2名×600万円)=4,800万円(A‘)となります。
3.生命保険金
受取保険金−(法定相続人×500万円)が生命保険の控除額です。
事例では、2名×500万円=1,000万円(B)となります。
4.小規模宅地の特例
相続が発生した後もその自宅に住み続ける場合も多いと思います。生活の維持のために特定居住用宅地に該当する自宅はなんと80%の評価減額が受けられます。事例では4,000万円×80%=3,200万円(C)となります。
(適用には申告が必要です)
設例の控除や評価減を合計すると、
(A)7,000万円+(B)1,000万円+(C)3,200万円=1億1,200万円となり、
遺産額1億1,000万円を超過するために相続税は一切かからないという結果になります。
(*2010年当時)
【注2018年現在
(A‘)4,800万円+(B)1,000万円+(C)3,200万円=9,000万円となり、遺産額との差額で相続税がかかるようになっています。】
ちなみに相続税を収めた人数/相続発生人数の比率から考慮すると約4∼5%(*2010年当時)の人だけが相続税を納めていると言われています。相続税の理解を深めることで、相続税対策が奏功し、相続税が不要となるケースがあれば幸いです。以下でこれ以外の相続の評価減の事例を紹介します。
5.貸家建付地の評価方法
相続対策といえばという位にアパート建築は対策として重用されています。建物の建っていない更地にアパートを建築すると、どれだけ効果があるのかを検証してみます。
例2)土地5,000万円に、現金5,000万円を使ってアパートを建築する。
(借地権割合60%、借家権割合30%、賃貸割合100%、建物固定資産評価額は3,000万円であったと仮定します)
土地の評価:更地からアパート用地である、貸家建付地に変わると評価は、5,000万円×(1−借地権
割合:60%×借家権割合:30%となり、5,000万円×(1−0.18)=4,100万円。
土地は何ら変わっていないのに900万円(D)の評価減となります。
建物の評価は、3,000万円×(1−借家権割合:30%)となり、
3,000万円×(1−0.3)=2,100万円、評価減は建築費5,000万円に対して
2,900万円(E)となります。例2)
の土地、建物の評価減は(D)900万円+(E)2,900万円=3,800万円となります。
対策後:現金0+貸家建付地4,100万円+建物2,100万円=遺産額6,200万円
対策前:現金5,000万円+更地5,000万円=1億円と比べて3,800万円もの評価減を得ることができます(注2)。
6.年金受給権評価
こちらも相続対策として有名ですが、財産を年金の形で残すと、残存期間により評価減が得られるというものです。
例3)1億円を25年の年金形式で、毎年400万円ずつ確定年金で受け取る。
受給権評価:15年超25年以下は40%の評価割合となるので、1億円×40%=4,000万円、評価減はなんと6,000万円(F)となります(注3)。(*2010年当時)
(注2018年現在)
H26年9月の確定判決により評価方法の変更があり課税対象が拡大しました。
国税庁 taxアンサー
https://www.nta.go.jp/m/taxanswer/4123.htm
7.退職金控除
生命保険金同様、受取退職金−(法定相続人×500万円)の控除があります。
8.相続税対策と都会の自宅
小規模宅地の特例を積極的に使用して相続税の対策を行うのであれば、路線価(注4)が低い広大な田舎の自宅の土地を売却、路線価の高い都心に自宅を構えるという方法も考えられます。都心の評価減は極めて大きくなります。(240㎡まで)(*2010年当時)【→ 2018年現在 330㎡まで:緩和された部分】
例4)坪単価800万円×70坪=5億6,000万円の自宅では、全敷地の80%、4億4,800万円の評価減が見込めるのに対し、坪単価100万円×560坪の自宅では、
(上限240㎡≒)約72坪×100万円×80%の評価減、約5,760万円しか受けることができません。(*2010年当時)
【→ 2018年現在 330㎡まで=約100坪
約100坪×100万円×80%の評価減 約8,000万円しか受けることができません。】
これは制度上面積の上限が決まっているために起こる差異となります。
9.低い税金=ゴール?
相続税を減らすという事は重要なゴールであるかとは思いますが、全てではないでしょう。田舎で暮らすおばあちゃんが近所の友達から離れて孤独な都心のマンションで暮らす、というようなケースでは、相続税軽減というゴールは充足できても、おばあちゃんの生きがいという数字に表れないゴールは満たせないかもしれません。トータルなプランニングが必要な理由はここにあると思います。
10.遺留分減殺請求権への配慮
遺言を書くことによって財産を「長男に全て、次男にはゼロ」ということも有効にはできます。しかし法定相続分の半分(注5)をもらう権利として遺留分が存在します。次男は「遺留分減殺請求」の訴えを起こすことにより、もらうべき遺産の半分を手に入れることができると思われます。しかし裁判にかかった費用等は子供たちが負担しなければならず、結果として手元に残る資金は減少するでしょう。裁判にかかる時間もかかるでしょうし、感情的なしこりを残す可能性もあります。遺言を作成するのであれば、遺留分に配慮した遺言をはじめから作る方がベターであると思います。
11.共有物件の罠
「土地○○は兄弟で仲良く分けてくれ」。このような遺言は後日に問題が発生する可能性が高いでしょう。
長男の子どもが3人、次男の子供が……というように相続で所有者が増えてしまい、所有者が20数名の土地を見たことがあります。売却するにも、賃貸するにも、アパート建築するにも所有者20名の印鑑証明付きの同意が必要、と聞けば処分に苦労が伴うことは想像にたやすいことでしょう。各自で処分できるように共有にはせず、単独所有の方がベターと思います。
12.先生は専門家?
とある弁護士と税理士が作った遺言書に大きな欠点がありました。財産のみの遺言で、借金についての記載のない遺言だったのです。簡易な例で説明します。
例5)アパート、1億円、借金5,000万円、ネット財産5,000万円を長男に。
預金5,000万円を次男に。しかし遺言には借金を長男に相続させると記載していない遺言を作ってしまった場合、借金5,000万円は兄弟で相続するためにもめてしまうと、次男は半分の2,500万円の借金を相続しネット2,500万円しか受け取れないということになる可能性があります。
依頼する先生は肩書きや知り合いというだけで判断せず、事例を何例扱った経歴があるかという専門性で判断するべきと思います。
付き合いのある先生がその道の専門家とは限りません。足の骨折でわざわざ産婦人科を訪
れることは通常ないと思います。法務や税務もその道の専門家に任せた方が後日のトラブルを避けられると思います。
注1)内容、計算式は説明を分かりやすくするために簡略化したり、例外の規定などについて全てを網羅しておりません。具体的な手続きを行うに際しては専門家にご相談下さい。
注2)アパート経営固有のリスクが存在します。
注3)相続税法の変更リスクが存在します。
注4)相続税を計算する時の土地は路線価を使用。
注5)原則としては半分。遺留分のない例外規定もあります。
当初原稿作成 2010.1、2018年一部加筆
安東隆司 著書に『個人型確定拠出年金iDeCo プロの運用教えてあげる!』等がある。