「安いニッポン」、資産運用は「高いニッポン」が実情
日本を代表する有名企業の株価が2018年7月21日頃から下がり始めました。日経平均株価に対する影響が大きな株式の中に、一部同様の傾向が見られました。背景には、日本銀行(日銀)が購入するETFの指数変更への思惑があります。インデックス運用の投資家にとって今後TOPIXに注目が集まる可能性を解説します。
(7/30 ZUU Online掲載原稿、一部加筆、改題)
■黒田バズーカ 日銀のETF買い、年6兆円、時価25兆円
2013年の黒田日銀総裁就任早々に打ち出された「量的・質的金融緩和」は黒田バズーカ砲の炸裂と評されました。日銀が日本のETF(上場投資信託)とJ-REIT(不動産投信)の買い入れ額を大きく増やす方針を用いました。当初ETFは1兆円/年の購入規模でありましたが、現在では6兆円/年の規模にまで拡大し、日銀のETF保有残高は約25兆円にも達しています。
中央銀行がマーケットに介入する「歪み」を懸念する声は当初から存在しました。しかし、アベノミクスによるデフレ脱却、経済成長を優先する姿勢は必要という背景もありました。
■ETF購入、TOPIXのウエイト増加に
日銀は日本の株式を購入するにあたり、いくつかのインデックス(指数、指標)を用いていると推察されます。一般的に馴染み深いのは「日経平均株価」です。「日経平均株価」は日本の株価の上昇・下落を計る指標として毎日報道されています。日本を代表する225銘柄から算出した指標=インデックスです。日経平均株価とは、日本経済新聞社が算出する東京証券取引所市場第一部に上場している225銘柄の平均株価指数です。
しかし、日銀がより多くの比率で購入している指数は「TOPIX」です。「TOPIX」は東証株価指数のことで、東証市場第一部に上場する普通株全銘柄を対象とするものです。2018年6月末の銘柄数は2090銘柄となっています。
日銀の年間購入6兆円のうち、約4兆円が「TOPIX」というインデックスに連動するETFの購入、約1.5兆円が「日経平均株価」インデックスに連動するETFの購入に充てられているとされていました。この比率の見直しを行い、日経平均株価の購入の割合を減少させ、TOPIXの購入の割合を増加させるのではないかとの思惑が7月21日あたりから出始めました。7月31日の日銀の金融政策決定会合で、ETFの買い入れ比率の見直しが発表されるのでは、との観測です。直接的に「TOPIXを買う」とのコメントはありませんでしたが、購入の配分に変化があるというのが、マーケット関係者の見方です。
■買われ過ぎた銘柄が修正・下落へ
日本を代表する、有名企業A社の株価が7月21日頃から下がり始めました。夏場の不快な汗を感じさせない衣料品や、冬場用に薄いのに暖かい衣料品など高品質の衣料品を安い価格で提供、コストパフォーマンスが高いと日本中でファンが多い銘柄です。しかし日銀のETF買いの結果、この銘柄については数年前から「買われ過ぎ」という評価がありました。その理由は以下の通りです。
① 日経平均株価に対する寄与度(影響力)が大きく、日経平均を買うと、多くの割合でA社の株式を買う形となるため
② 日経平均株価に採用されているものは、TOPIXと重複して買われる TOPIXでA社の株式を買っていますが、さらに日経225にもA社は含まれていることから重複して買う結果となるため
日銀によるETF購入の際のA社の購入額が大幅に減少するとのある試算がありました。仮に日銀のETF買いを1回700億円でTOPIXを約78%、日経平均を約22%との割合から、「TOPIX 100%」とした場合には、A社の購入額は1回あたりで約12億円の減少となります。
また、別のインデックスである 「JPX400」にも資金が流入するとの見方もあるようです。
海外のメディアが「資産買い入れ手法の柔軟化などが選択肢になるもよう」と伝え、日銀のETF購入の割合が変わるのではと7月21日に報じ、思惑でA社の株価は4日連続で下落しました。思惑での売買は、今後の相場見通しを予測し、出来事の前に先に動きたいというヘッジファンドなどの動きも一因ではないかと私見では考えています。
■推奨銘柄には注意も必要
本件と直接関連するものではありませんが、ヘッジファンドの一押し銘柄については注意をすべきとハーバード大学の学生の論文での指摘がありました。
その内容は、ヘッジファンド運用者が講演などで「投資アイデア」を披露する場合、買いの推奨をしてから3カ月程度で、ヘッジファンドはそのポジションを閉じている傾向があるのではないか?という内容です。投資アイデアが古くなり、ポジション変更をするにあたり「戦略を宣伝」し、自身は売り抜けるということが懸念されるということです。
また、証券会社などの販売者は「売り、買い」が頻繁に起こると手数料を得ることができるため、頻繁な売買を促すセールストークを展開しやすい傾向があることも付記しておきます。事前に動いたことが吉となるのか、そうでないかは正式な発表の後に明らかになるでしょう。
※注:今回採り上げた個別の株式に対して売買推奨や、今後の株価の見通しを述べたものではありません。また特定の証券会社との取引を勧めるものではありません。
安東隆司 著書に『個人型確定拠出年金iDeCo プロの運用教えてあげる!』等がある。