5つのコツ 富裕層が陥る相続・贈与プランの落とし穴(2)
相続税率の変化から贈与手続きに関心を持っている富裕層は多くいます。最高税率を回避することができない超富裕層にとっては、贈与の活用は相続税の減少など事業承継プランに欠かせないものになっています。しかし、手続きの不備や知識不足などが招く相続・贈与の失敗事例から、注意すべき相続・贈与手続きへの過信の事柄を紹介します。
■過信(1)「贈与申告完了はオールマイティ」ではない
実際に贈与の手続きを行い、贈与の申告を完了していればもう安心と思っている富裕層も多くいます。しかし贈与対策の効果が無く、後日相続税を納める必要が発生する可能性もゼロではありません。
国税局が調査で自宅に来る(臨宅調査の)場合には、世間話と思っている内容の中にも細心の注意が必要です。税務当局は「見解の相違」による過少申告が無いか、レーダーを張り巡らせているのです。
■過信(2)「入念な準備をしたから今後は大丈夫」ではない
富裕層の中には資産承継、事業承継について様々なスキームを駆使したプランを念入りに検討し、贈与プランに着手しているケースがあります。贈与する側と贈与を受ける側の合意があって贈与は成立します。
しかし、贈与を受けた側(受贈者)がそのスキームをきちんと理解していないと安心とは言えません。受贈者側の子どもが「知らない。父が勝手にやったこと」と発言してしまえば、贈与手続きが否定される可能性があります。そんな事態が発生すると、「相続税額>贈与税額」である場合は、贈与税対策の効果がなくなり、後日相続税を納める可能性もでてきます。
受贈者にもスキームをきちんと理解してもらう教育が必要なのです。継続的に変化に対応しサポートする体制や相続発生後に対応する信頼できる番頭役・執事役がいた方が良いことはいうまでもありません。
■過信(3)「全ての弁護士が顧客志向」とは限らない
超富裕層で遺言を残さずに相続発生、兄弟で共に弁護士を立てて争っているケースを目の当たりにしたことがあります。このケースは残念ながら10年以上争っていました。
「かかった時間×報酬単価」のタイムチャージであった場合、弁護士費用がいくらになったのかがとても心配です。兄弟間の意地の張り合いを終結させる仲介役を、担当弁護士に期待することが難しい場合を以下に想定します。
あくまで仮定の話ですが、1、争いが長引くことが弁護士のインセンティブに繋がるタイムチャージ採用 2、裁判の長期化をこの担当弁護士が望んでいた
忠実に顧客志向の仕事のため情熱を傾ける弁護士がいる一方で、自らの利益を追求する弁護士がいても不思議ではないとの考え方もあります。
■過信(4)「ウチに限って争いは無い」は相続後に夢破れる
影響力の強い創業者やカリスマ経営者の言うことは家族全員が聞き、逆らう事がないために「ウチに限って相続争いは無い」「兄弟姉妹みな、仲が良いので相続でもめることはまず無い」「自分が死んだら仲良く分けてくれ」といった考え方は一般的には極めて危険です。
相続後に家族仲を壊す結果に繋がることもあります。亡くなった後に配偶者や事業承継者の言うことを他の相続人全員が聞くとは限りません。相続人に、偉大な創業者・経営者と同じ影響力を期待すること自体が無理でしょう。争いは死亡後、相続発生時に始まるからです。
■過信(5)「税理士に任せておけば大丈夫」とは限らない
あなたの会社の決算、個人の確定申告を長年担当してきた税理士が相続のスペシャリストであるとは限りません。
医師の中でも、特定分野のスペシャリストやゴッドハンドが存在する様に、長年相続案件に向き合っている税理士に任せる方が無難でしょう。相続税の申告をした被相続人は5万6239名(データ:国税庁平成27年12月発表平成26年分)、税理士の登録者数は7万5627名(データ:日本税理士会連合会平成28年7月末現在)です。
税理士ひとりあたりでは相続税の申告は0.74人/年となります。1年間に1件も相続案件を担当していない税理士がいても不思議ではないのです。あなたの顧問税理士が相続に詳しいと過信しないことが重要です。
■相続・贈与プランは争族を防ぐ「個人資産の決算書」
相続・贈与プランを作らないことは「相続手続きの意思決定の先送り」であるといえます。自分の死亡後のことを考えることは誰もが回避したい事柄なのですが、富裕層には残された家族ができるだけ争いを起こさないという目的での、「自分自身の個人資産の決算書」としての相続・遺言プランを準備することを強く勧めます。
※本内容は一般的な考え方を示したものであり、本件の実行に関して当社は一切の責任を持ちません。実際にプランを行う場合には税務の専門家にご相談下さい。
監修 オリオン税理士法人
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