「利益至上主義」VS「仕事成果主義」~プロセスに関与する効果~

伊東久

伊東久

テーマ:おもてなし経営のすすめ~働きがいを求めて~

 令和2年4月21日の日経の朝刊に、「『利益至上』見直す契機に」という記事がありました。新型コロナウイルス対策で働き方が大きく変わってきた中、「収益が一時的に落ちても、社員が幸せを感じる働きやすい会社にする。そのために50くらい変えるべき項目を考えた」と日本電産会長永守氏の言葉がありました。まさに、この状況下に利益至上主義からの脱却を図ろうとしています。

「利益至上主義」の罠


 私が組織に所属し営業担当をしていたころ、「目先の売上」だけで仕事をしていました。月末が近づくと部下に「今日はいくら売るんだ」「何時まで活動するんだ」と言って、指示・命令に激を飛ばしていました。「他にできることはないか?」とプレッシャーをかけながら、何とか今月の数字をつくろうと必死に仕事をしていました。部署ごとの活動目標を挙げさせ、その数字を聞き取り、集計フォーマットを作って、またそれに進捗状況を書き込むという、超アナログ的な仕事をしながら数字を追っていました。まさに「電話魔」となり、担当者への電話が主な仕事でした。残業は当たり前で、目標に届くまでは寝られないという猛烈な仕事をしていました。

 そんな中で起こっていたのが、「言われないと動かない」という人たちが育っていたことでした。担当者たちは「どうせ月末にやるから」「また激が飛ぶから今は大人しく」等の声がでていました。上司に評価されるのは普段頑張っていて成果を出している人ではなく、月末に大きな成果を上げてパフォーマンスを見せた人が褒められていました。本来、顧客をつかんで確実な売上を確保できているかどうかで評価されるべきが、上司の指示・命令に素早く反応した人たちが評価されていたのです。いわゆる「目先の売上」が取れた人が褒められたのです。

 また、こんな弊害もありました。どうにかして数字をつくろうと、次の月の売上を前倒しして計上してしまうという悪事を働く人もでてきました。これは、経費節減でも多く発生した経験があります。もちろんこれらは懲罰の対象です。しかし事前にわかっていても、起こさざるを得ないほどの強制力が働いていたのでしょう。

利益至上主義が起こす「負のサイクル」


 目先の売上・利益を追うと、上司は部下指導よりも指示・命令が多くなります。それを受けた部下は、自分の業績だけに目がいき、自己主義になっていきます。隣の人の成果には目もくれず、必死に売ることだけに専念します。顧客の反応にも目がいかず、押し売り的なやり方になっていきます。そんな人たちが増えてくると、顧客からは組織の都合にしかその商品を捉えず、本当の価値を見出せないまま購入することになり、その場限りで終わってしまうことにもなります。組織自体が顧客のためという思考になれなくなってしまうのです。結果としてサービス力が低下し、業績がさらに悪化します。業績が悪くなるとまた無理なノルマが課せられ、教育よりも目先の売上が優先されるのです。

 これを、利益至上主義が生んだ「負のサイクル」と呼んでいます。このサイクルに陥って不祥事が発生した企業はたくさんあり、社会問題にもなっています。

「仕事の成果主義」の利点


 利益至上主義に代わって、仕事成果主義とはどういうことなのでしょうか。
 組織論から入ると、会社の存在意義には2つあって、まず一つ目は「利益」、もう一つは「社会貢献」です。もちろん利益がなければ会社の存在意義はありませんが、社会に存在価値を見出せないと意義はないということです。すなわち、商品価値が社会の発展、豊かさに貢献し顧客から支持されていなければならないのです。もちろんそこには、働く人たちの健康や働きがいも入るでしょう。ところが、先ほどの例、売上操作の不祥事まで起こして社会的信用は急降下してしまいました。仕事の成果主義は、利益だけではない社会貢献に必ず紐づいていくのです。

仕事成果主義が生む「組織活性化サイクル」


 もう少し踏み込んで仕事成果主義についてお話ししましょう。
 働く人たちが仕事の成果に目を向けると思わぬ効果が出てきます。成果とはもちろん売上でもあり、販売努力、経費節減や働き方など、どんなことでも成果として公表する場を設定すると良いでしょう。すると、どんな小さなことでも褒める文化が生まれます。誰がどんな活動をしているのか興味を持ち始めます。結果、我もが先に事例を提供するようになり、各担当者が自律していきます。上司はそれを応援する立場に変わっていきます。そこから益々やる気が生まれ、人の成長が促されます。結果として成果の出やすいサイクルになっていくのです。これを私は「組織活性化サイクル」と呼んでいます。

 令和2年4月7日のことです。スターバックスでコーヒーを飲んでいました。私を知っている店員さんが声をかけてきました。「実は、明日からしばらく休業になりました。その間、お身体を大切にしてください」ということでした。突然のことでこちらもびっくりしましたが、「お互いに頑張りましょう」と返事をしました。実はその後になって、首都圏の店舗で9日から5月6日まで休業するというプレスリリースがありました。理由は、「お客様の安全を第一に考え、また全国の店舗、オフィスで働くパートナー(従業員)が安心して働けるよう・・・」とのことです。いち早くこの企業はお客様の安全を第一にという考え方を打ち出し、既にその前から店舗内の客席のショーシャル・ディスタンスに取り組んでいました。これこそ、意義ある社会貢献ではないでしょうか。
 この企業は、働く一人ひとりの主体性を重んじ、マニュアルにこだわらないサービスを心がけ、日々働く人たちの動機付けをしているとのことです。だからこそのお客様への声掛けだったのかも知れません。こんなところから、仕事の成果主義が生まれてくるのだと思います。

人を成長させる組織活性化サイクル


 昔は「おれの背中を見て覚えろ!」と言って、部下に真似をさせていました。それをすることが成長につながると勘違いしていました。今思えば、その部下がたとえ成長したとしましょう、「誰のおかげで成長しましたか?」と質問すると「自分で努力して頑張りました」と言っていることでしょう。上司や職場環境が成長させたのではなく、自分で勝手に真似した成果だったのです。ですから、落ちこぼれる人がでて、「もう私はついていけません」と言って辞めていく人も多くいました。これでは、組織というより個人の戦いの場ですね。
 
 人の成功への手助けができる組織環境が、これからはとても重要になってきます。売上と利益は過去の産物によってでるものではなく、新しい発想と知恵、考える努力によって生まれてきます。それは、「私たちは何のために社会に存在しているのか」をしっかりと見極め、目的意識を持つことがとても大切です。その中で、一つひとつの成果にこだわり褒める文化をつくりながら、自律を促していくことが、結果として売上・利益につながっていきます。この一連のサイクルこそ組織活性化サイクルではないでしょうか。

エンゲージメント=働きがい

 
 私は、エンゲージメントのことを「働きがい」と表しています。組織活性化サイクルを上手く回すには、管理職の皆さんの意識改革がとても重要になってきます。「指示型」から「支援型」に変革するべき仕事上の会話ややり取りを細かく見直して、「働きがい」を高める人が多くなっていくことが、人を成長させ社会に貢献できる組織になっていきます。

 おもてなし経営とは組織活性化サイクルをつくり出し、働きがいのある人の集団をつくっていくことです。私たちはエンゲージメントを高める組織づくりのお手伝いをしています。
こちらからどうぞご確認ください。→エンゲージメントを高める組織づくり

 また、エンゲージメント・サーベイプログラムも用意しています。働くメンバーの「働きがい」の評価を確認してみませんか?
 モバイルで簡単にアンケート調査に答えるだけで調査ができます。
プログラムについてはこちらで確認してください。調査プログラム/ESプログラム(エンゲージメント・サーベイ)

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伊東久
専門家

伊東久(経営コンサルタント)

株式会社おもてなし経営研究所

現場での接客と、組織マネジメントの経験を併せ持った視点から、顧客に愛され支持される「おもてなし経営」を目指した組織づくりを支援。従業員の力を引き出すコンサルティングと豊富な経験談を交えた研修が好評。

伊東久プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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