起業にセンスは関係なかった。「平凡な自分」こそが最大の武器になる理由
自由に動ける人ほど最初に決めるお金の線
――新井さん、独身で扶養家族がいない会社員は、起業準備で少し大胆に動いてもよいのでしょうか?
新井:動ける幅は確かにあります。家族の生活費を背負っている人より、時間もお金も自分で決めやすいですからね。ただ、自由がある人ほど最初に決めるべきなのは、攻め方ではなく絶対に使わない生活防衛資金です。ここを決めないまま講座、外注、ツールにお金を使うと、身軽さが不安に変わります。
――守るものが少ないから、多少のリスクは取れると思ってしまいそうです。
新井:そこが落とし穴ですね。守るものが少ないというより、困ったときに自分で立て直す責任が大きいという見方もできます。一人暮らしなら、家賃も食費も通信費も、止まった瞬間に自分へ返ってきます。だから「失敗しても大丈夫」ではなく、「失敗しても準備を続けられる線」を先に作るのですよ。
生活費の半年分は手を付けない
――具体的には、どれくらい残しておけば安心ですか?
新井:会社員のまま準備するなら、まず生活費の半年分を別口座に置く。これが現実的です。半年分を貯めてから動くという意味ではありません。今あるお金を、生活防衛資金と準備資金に分けるということです。混ぜると、貯金があるように見えて、実は全部使えるお金だと勘違いしてしまいます。
――起業準備用のお金は、その残りで考えるのですね。
新井:そうです。たとえば月の生活費が20万円なら、120万円は触らない。残った範囲で勉強会、道具、試作品、サイト制作を考える。これだけで判断がかなり落ち着きます。高額なものを買う前に、「これを払っても半年分は残るか」と確認できるからです。
――数字にすると、怖さも少し扱いやすくなりますね。
新井:不安は根性では消えません。数字にして、置き場所を分けると扱えるようになります。
自由は支出ではなく試行回数に使う
――独身の強みは、どこに使うのがよいのでしょう?
新井:お金を大きく使う自由ではなく、試す回数を増やす自由に使うのがいいですよ。平日の夜に1時間だけ作業する。土曜の午前に1人へ話を聞く。日曜に小さな案内文を書く。家族の予定を調整しなくてよい人は、この小さな試行回数を増やしやすい。
――外注や講座より、先に自分で試すのですか?
新井:はい。最初から完成品を作る必要はありません。むしろ、完成品を先に作ると、誰も求めていないものにお金を使うことがある。まずは「この困りごとを整理できます」「1時間だけ相談に乗れます」のような小さい形で反応を見る。自由は、立派な準備へ使うより、何度も小さく試す時間へ使ったほうが強いです。
頼れる人がいない不安は仕組みに変える
――一人で準備していると、相談相手がいない不安もあります。
新井:ありますね。だからこそ、毎週1回だけ判断メモを作ることをすすめます。今週試したこと、分かったこと、来週やめること。この3つだけで十分です。誰かに相談する前に、自分の迷いを言葉にしておくと、相談の質も上がります。
――人脈を増やすより、先に自分の判断を整理するのですね。
新井:その通りです。仲間探しから始めると、安心は増えても行動が増えないことがあります。独身で身軽な人は、動けるぶんだけ迷いも増えます。判断メモを残すと、自分が何にお金と時間を使っているかが見える。これは地味ですが、かなり効きます。
リスクを大きくするより長く続けられる形にする
――最後に、独身会社員の起業準備で一番大事なことを教えてください。
新井:リスクを大きく取ることではなく、続けられる形にすることです。生活費の半年分を守る。準備資金を分ける。自由な時間を試行回数に使う。週1回の判断メモを残す。この4つがあれば、頼れる人が少なくても、不安に飲まれずに前へ進めます。
――身軽さを、無謀さではなく継続力に変えるということですね。
新井:そうです。会社員のまま準備できる時期は、収入がある貴重な実験期間です。焦って退路を断つ必要はありません。小さく試して、手応えが出たところだけ育てる。それで十分ですよ。
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。
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