不動産の共有持分権の過半数があれば、賃貸契約が結べる?

松原昌洙

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共有不動産の取り扱いは、その内容によって共有者全員の同意を必要とするものとそうでないものがあります。
物事を決定する時は、共有者の人数による多数決や過半数ではなく、各共有者が持つ持分の権利の数で判断します。

いくつかの事例を紹介します。

不動産の共有持分権の過半数があれば、賃貸契約が結べる?

共有不動産における持分とは?

共有不動産では、1つの不動産について複数の人が所有権を持っています。
若い夫婦がお金を出し合って家を買った時や、遺産相続で相続権を持つ親族が遺産を引き継いだ時に不動産を共有することが多くなっています。

共有関係の権利を示すためには、それぞれの「持分」を用います。
2人でお金を出し合った場合は、その出資割合によって、不動産の持分の権利が夫3分の2、妻3分の1というように決定します。

遺産相続の場合は、遺産分割協議か遺言、または法定で決められた割合によって不動産の所有の権利を分割して相続します。

共有不動産は、物件をそれぞれの持分にバラバラに分けて使用することは不可能なので、持分の大小はあっても、各共有者がその物件を自由に使うことはできる決まりになっています。

しかし、その物件を売却、建て替えるといった大掛かりな変更をする時は、その内容により共有者が持つ持分全員分、あるいは過半数の合意が必要という決まりがあります。

共有不動産で賃貸経営を始めるには

では、ここでどのような場合において持分権利の考え方が用いられるか紹介します。

親が住んでいたマンションを共有不動産名義で4人の子供が相続しました。
その後、この家に住みたいと思う子供はなく、しばらくの間空き家となっていました。都心の駅近の物件ということもあり、賃貸マンションとして運用しようという提案が長男からありました。

上記の例のように、これまで住居用として使っていた家を収益物件として運用する際は、民法の規定に基づき共有者4人が持つ不動産の持分の権利の過半数の同意を得なければなりません。

賃貸経営開始は、共有不動産における「管理」行為

事例は、共有不動産の「管理行為」に該当する行為で、民法では持分価格ベースで過半数の同意なくしては実行できない行為となっています。

「管理行為」とは、不動産を利用したり改良する行為のことで、具体的には、今回の事例のような賃貸借契約の締結や解除、その他には部分的なリフォームなどが該当します。

上記の例では、4人の兄弟が次のような持分の権利を持っていました。

長男:6分の2
次男:6分の2
三男:6分の1
長女:6分の1

今回、賃貸経営を提案した長男が持分6分の2、6分の2を持つ次男、6分の1を持つ長女がこの提案に同意し、持分の権利合計が6分の5となりました。
持分全体の過半数以上の合意が得られたとして、賃貸経営を始めることになりました。

持分の割合

共有不動産の活用で持分の数の割合で決定できることは、この管理のほかに「変更」「保存」行為があります。

共有者による共有不動産の「保存」行為実行のルール

保存行為とは、共有不動産の現状を維持する行為のことをいいます。
これらは、すべての共有者の利益となると考えられているため、他の共有者の合意がなくても共有者1人で単独に行うことができます。

保存の具体例には、次のようなものがあります。

・修繕(雨漏り、水漏れなど)
・共有不動産の侵害に対する妨害排除請求
・不法占拠者に対する返還請求

共有者による共有不動産の「変更」行為実行のルール

変更行為は、不動産に対して物理的に性質や形状を変える行為や法律的な処分行為があります。このような変更には共有者全員の同意が必要です。

変更の具体例は次の通りです。

・山林の伐採
・田から畑へ変える
・建物の大掛かりな改修・改築
・土地に建物を建てる
・共有不動産の売却

共有不動産の活用はトラブルを避けるために専門家に相談を

共有不動産の管理や活用においては、その内容により共有者全員の合意や持分の過半数の合意が必要になります。

ただ賃貸経営を長期にわたってする場合は、土地は5年、建物は3年を過ぎてしまえば、「管理」行為ではなくなり、共有者全員の合意が必要となる「変更」行為になります。

この他にも、賃貸経営においては、共有者間で一度決めた共有物の使用収益方法を後から変更する場合は、共有物の「変更」行為にあたることになり、持分の過半数ではなく共有者全員の同意が必要になります。
これは、少数持分権利者の利益を守る目的があるためです。

またこのような事例もあります。

3人で共有不動産(家)を持分割合3分の1ずつで所有しており、共有者の1人がその家に住んだとします。
これは共有物の管理行為にあたり、過半数の持分で決定される事項ですが、最初にその確認を他の2人にしていなかったために、後に家に住んでいない共有者の一人が返還請求(明け渡し請求)を行っても、実際は認められる可能性は高くないということがあり得ます。

これは、所有権を持つ各共有者には、その不動産を持分に応じて使えるという権利があるためです。

共有不動産として相続した時は、その不動産をどう維持・管理するかということを最初に3人できちんと取り決めをしていないとこのようなトラブルが起こることがあります。

このように実際に共有不動産を持つことになれば、いろいろな状況において共有者間で協議を重ねて物事を決めていくことが多く、共有者1人の勝手な判断で後にトラブルが発生することもよくあります。

共有不動産は、その維持や管理など法律に基づいて常に専門家からアドバイスを受けられるようにしておくことが望まれます。

共有持分の賃貸借契約の締結については、下記記事でも「図解付き」でわかりやすく解説しています。
建物の共有持分権の過半数で締結された賃貸借契約について

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松原昌洙
専門家

松原昌洙(宅地建物取引士)

株式会社中央プロパティー

遺産分割における共有名義不動産の自己持分のみの売買、仲介を取り扱う。複雑な案件でも、これまでの経緯や心情に配慮しながら取引を進める。買取とは異なり、「できるだけ高く売りたい」という要望にも応える。

松原昌洙プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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