不動産が「時効」により、他人のものになってしまう危険性とは
共有持分のトラブルについては、いま現在のことだけではなく、将来のことを視野に入れる必要があります。今回は相続、売買のトラブルについて見ていきましょう。
共有者が増えると全員の同意を得るのが大変になる
Aさんは東京生れですが、亡くなったお父さんの出身地は地方都市でした。Aさんは、お父さんから生前、その都市の郊外にお父さんが相続した土地があることを聞かされていました。お父さんの妹、Aさんにとっては叔母さんと共有ということも聞いていました。葬儀の際、Aさんは叔母さんから、その土地について相談を受けました。「売却したらどうでしょうか」と答えたところ、叔母さんの返事も「それがいいわね」ということでした。
Aさんは、いずれ叔母さんから連絡があるだろうと考えていましたが、その後、叔母さんからの連絡はありません。Aさんも、特に急ぐこともないだろうとおもっていました。数年後、叔母さんが亡くなりました。そして、Aさんは従兄弟のBさんから意外なことを聞かされました。Bさんは、Aさんの叔母さんの長男です。
Bさんが言うには、
「母が遺した土地、母はいずれ売りたいって言ってたんですが、結局、売却しないまま亡くなってしまいました。Aさんもあの土地は売却したほうがいいと言っていたように聞いています」
「叔母さんから相談があったとき、そう答えました」
「でもね、それは無理でしょう」
「なぜですか。売却には反対ですか?」
「いえ、ぼくは賛成です。弟のCも賛成していますが、下の妹のD子が反対です」
「なぜ?」
Bさんの答えはこうでした。以前、D子さんの結婚に反対したときから兄妹仲がうまくいかなくなったということ。Bさんのお母さん(Aさんにとっては叔母さん)への対し方、とくに晩年の介護のあり方にD子さんが憤慨していたということ。そのため、D子さんには、兄であるBさんがすることに対し、意地でも賛成するものか、という気持ちがあると言うのです。
Aさんのお父さんが遺した土地の共有者は、現在、Aさん、Bさん、Cさん、D子さんです。共有名義の不動産には共有者全員の同意がなければなりません。D子さんが反対であれば、Aさんはお父さんから相続した土地を売却することはできません。
共有者とその「持分」は相続を経ることでさらに複雑化する
共有名義の不動産は、世代を経るごとに共有者が増え、複雑化していくことが考えられます。その点を「持分」という観点から見てみましょう。
親の実家を兄のEさん、弟のFさんが相続したとします。実家は共有ということにしました。兄弟の持分は、それぞれ1/2ずつです。
さて、相続の翌年、兄のEさんが亡くなったとします。ここで再度、相続が発生することになります。(二次相続と言います)。Eさんの法定相続人を、Eさんの奥さん(配偶者)、Eさんの子供2人としましょう。Eさんには相続した実家のほかにめぼしい財産がなかったため、Eさんが持っていた実家の共有持分を、Eさんの奥さん(配偶者)が1/2、子供2人のうち長男が1/4、次男が1/4の割合で相続したとします。
これを実家という1つの不動産に対する持分におきなおすと、それぞれの持分は、弟のFさんが1/2、Eさんの奥さん(配偶者)が1/4、Eさんの長男が1/8、Eさんの次男が1/8ということになります。こうした状況で弟のFさんが亡くなり、Fさんが持っていた共有持分をFさんの子供たち3人が共有したら、持ち分はどんどん複雑化していきます。
共有名義不動産は、世代を経て権利を有する人物が増え、一度トラブルが発生すれば、その解消は難しく、また、複雑化していくおそれがあるのです。また、そうして増えていった共有権者の一人が自分の持分を第三者に売却したなら、複雑さは一層深まります。
親世代の共有不動産トラブルが子供世代に引き継がれる
共有名義不動産ついては、共有によって起こったトラブルを次の世代が引き継ぐことになります。たとえば、ある不動産について、親世代の共有権者の中に第三者が入り、トラブルになっていたとしましょう。その不動産を相続した子世代は、不動産と共にこのトラブルも引き継ぐことになってしまうわけです。
また、別の面で難しい問題が起こる可能性もあります。本来、1/2ずつの持分である土地に対し、親世代の姉妹にトラブルがあったとします。姉のほうが妹に対し、1/2以上の土地を無理に要求し、妹はそのために精神的なストレスを与えられていたとしましょう。さて、姉妹それぞれの子世代がその土地を相続することになったとき、こうしたいきさつを知れば、その土地について淡々と事を進めるのが難しくなる可能性もあるわけです。
共有名義不動産を解消したいと願う人たちの理由は3つあります。理由の第一は「とにかく共有状態を解消したい」ということ。理由の第二は「共有状態を自分の代で終わらせたい」ということです。この二つが全体の8割を占めます。そして、「現金化したい」という第三の理由が続きます。共有名義不動産のトラブルの深刻さを表すものと言えるでしょう。