正しい共有持分の範囲と共有持分の決め方!
「共有名義不動産」を分割するには「①現物分割」「②代金分割」「③代償分割」という3つの選択肢があります。今回は、これらの3つの選択肢について詳しく解説します。
①現物分割について
Aさん、B子さん兄妹に、遺産として親が所有していた土地(更地)が残されたとします。兄妹仲の良いAさんたちは、この土地を2人の「共有」にすることにしました。共有者である2人の持分は、それぞれ1/2ずつになります。
しかし、兄のAさんが「いつまでも土地を遊ばせておいてもしょうがない。自分の持分だけは売ってしまいたいから、土地を分割しよう」と提案し、妹のB子さんも承諾したとします。そこでこの土地を半分に分け、それぞれの単独名義に変更します。これが共有名義不動産の現物分割です。現物分割とは、共有物を持分に応じてそれぞれの共有者が分け合うことを言います。
②代金分割について
上のケースでAさん、B子さん兄妹が親の自宅(実家)を共有していた場合はどうでしょう。一つの家と土地を半分にするのは物理的に不可能ですから、この場合、選択肢は「②代金分割」か「③代償分割」になります。
まず、代金分割について見てみましょう。代金分割とは、共有物を売却してその代金を共有者に分配することを言います。この例では、共有名義にした実家(家と土地)を売却し、その代金を兄のAさん、妹のB子さんで1/2ずつに分けることになります。
③代償分割について
代償分割は、共有者の1人が共有物を取得し、他の共有者に持分に応じた金銭を支払うことを言います。
上のケースで、仮にAさん兄妹が共有している家と土地が時価2000万円としましょう。その家と土地を兄のAさんが取得するため、妹のB子さんの持分にあたる「2000万円×1/2=1000万円」を代償金としてB子さんに支払うということです。
共有によるトラブル
共有不動産の分割について3つ選択肢を紹介しましたが、説明を分かりやすくするため、いずれも共有者の同意が得られたケースにしました。しかし、共有不動産の分割については、共有者の同意が得られず大変な思いをするケースが多いのです。
「②代金分割」で解説した例で言えば、兄のAさんが親の家と土地を売却したいと希望しても、妹のB子さんに「思い出の多い家を売りたくはない」という気持ちがあり売却に同意しなければ、兄のAさんは家を売ることはできません。
また、B子さんが売却に同意したとしても、売値が問題になることもあります。時価2000万円くらいはすると考えていたのに、実際はその半分1000万円程度でしかないという場合、「思い出の多い家をそんなに安く売りたくはない。それではお父さんたちに申し訳ない」。そうした気持ちがB子さんに生じ、売却に応じず、いわゆる塩漬け状態になるケースも少なくないのです。
しかし、もし、兄のAさんにまとまったお金、たとえば時価1000万円の1/2、500万円がぜひ必要な事態が生じていた場合、「なぜ妹はこっちの苦しい状況を分かってくれないのか」と怒りを覚えるかもしれません。そして、売却への同意を強く迫れば、B子さんはB子さんで「兄さんは自分のことばかり言って、お父さんたちのことを少しも考えない」と、兄妹間に感情的なトラブルが生じる可能性があります。
共有名義不動産の分割においては、現実問題として、共有者同士に感情的なトラブル、不満、憎しみが生じ、お互いが傷つく事態になるケースがしばしば起こりうるのです。
代償分割についても、兄のAさんに代償金を支払う金銭的余裕があればいいですが、その余裕がない場合は、選択することができません。また、代償金の支払いについては、支払う側が一括で払えない場合、分割払いにすることも可能ですが、もし支払いが滞った場合には、問題が複雑化してしまいます。
協議が整わないときは裁判になることもある
共有名義不動産の分割請求を行う場合は、まず、共有者全員で協議します。しかし、その協議が整わない場合は裁判所に共有物分割訴訟を提起することになります。
親族同士、今回お話している例では仲の良い兄妹同士が裁判で争うことになります。悲しいことですが現実によくあるケースです。
共有物分割訴訟を提起するということは、裁判所の力を借りて分割方法を決めてもらうということです。裁判所は、現物分割や、代償分割などの判決を出すこともあり、また、競売を命じることもあります。
仮に「競売(けいばい)」になったとしたら、その決定に従うことになりますが、競売による売却価格は市場価格よりもかなり安くなってしまうことが多いのです。市場価格の3~4割、場合によっては5割以上安くなることもあります。当然、共有者同士の協議によって代金分割した場合にくらべ、共有者が手にする売却代金も3~4割、場合によっては5割以上低い金額になってしまいます。その一方、共有者同士が抱いた不満、憎しみ、恨みは消え去ることなく残るのが実情なのです。
共有状態の解消については、下記の記事でも詳しく解説しています。ぜひご覧ください。
共有名義の8つ解消方法