夫に先立たれ死別した苦しみ悲しみをどう乗り越えていくか
大切なペットは家族であり、時には子ども以上に大切な存在です。つねに行動を共にし、家族の中心でもあったペットを亡くすことは、体にも心にも多大なショックを与えます。後を追いたくなるほど悲しむこともあるかもしれません。
無理に我慢をして自分を押し殺さず、思う存分悲しむことが回復につながります。悲しければ泣くという、素直に感情を表現することはペットへの愛情を示すことにもなるでしょう。
自殺を考えるほどの悲しみとは
大事なパートナーであるペットを亡くして悲しむことは、おかしいことでも恥ずかしいことでもありません。
一昔前までは犬といえば番犬が一般的で外で飼っていたものでした。猫も自由に外を歩き回っていました。それが、今ではペットは冷暖房の完備された屋内で大切に飼われ、寿命もはるかに延びています。
動物に対する愛情は昔も今も一緒ですが、飼い主とペットが接する時間は格段に今の方が伸びています。それだけに、ペットも大切な家族としてとらえています。大きくなれば独立してしまう子どもよりも、いつまでもそばにいてくれるペットに愛情を感じる人がいても不思議ではありません。
近年、ペットロスという言葉が広く知られるようになりつつあります。
つねに行動を共にし、家族の中心でもあったペットを亡くすことは、体にも心にも多大なショックを与えます。長年連れ添った犬や猫を失い、精神的な落ち込みが長期間続き倦怠感や不眠といった不調が現れることもあります。
食欲もなく何もやる気が出ない、そもそも何をやっても楽しいと思えない…。このような症状があり、時間が経過しても改善の兆しが見られないようならば注意が必要です。何の改善策もとらなければうつ病や幻覚、幻聴などを引き起こす可能性もあります。
大半の飼い主は、辛く苦しい悲しみを何とか乗り越えて回復していきます。ですが、悲しみの淵から抜け出せない人もでてきます。
死後3~4週間経っても悲しみが癒えず、生きていても意味がないと無常観にさいなまれる。死にたいと口に出すようになり、自分で自分のことを傷つけたりする。ペットに対する罪悪感でいたたまれない。外に出るのが嫌になり引きこもっている…。
ペットを飼ったことがない人、もしくはそこまでペットに愛情を注いだことがない人には、死んでしまいたいとまで考えるのは信じられないことかもしれません。ですが、ペットは家族であり我が子同然です。自分を信じ切っている大切な仲間です。
大切に育て一緒に暮してきた子を失うのですから、その衝撃たるや他人にたやすく理解できるものではありません。最愛の存在がいなくなってしまった時、生きる意味さえ見つからなくなってしまうのも無理はありません。
それでも、亡くなったペットは飼い主に死んでほしいと願うはずはありません。親でもある飼い主さんの目を通して世界を見て、一緒に歩いていきたいと思っているのではないでしょうか。
段階を追って悲しみと向き合っていく必要がある
このような状態にまで陥ってしまったのならば、自分だけで立ち直ることは難しいかもしれません。ペットロスに精通する医師や臨床心理士、カウンセラーに手助けしてもらうことも考えにいれながら、回復を目指しましょう。
ペットを亡くしたことで病院やカウンセラーのお世話になるには抵抗感があるかもしれません。それでも、放っておいて心身の症状が悪化していくことを亡きペットは望んでいません。
ペットロスの悲しみには5つの段階があります。
これは「否認」「怒り」「取引」「抑うつ」「受容」に分けられ、各段階にとどまる期間や症状の度合いは個人差があります。
「否認」ではペットの死を受け入れられない状況です。
「怒り」では家族や獣医、自分などを責めて怒ります。
「取引」はペットを失ったことを何かと引き換えたいと思う時期です。生き返らせてくれるのなら何でもする、というような思いがこれにあたります。
「抑うつ」ではネガティブなことが頭から離れない状況です。何に対してもやる気が起きず無気力になります。
「受容」の段階では、時間の経過とともに悲しみが薄れていき段々と死を受け入れられるようになります。
一番注意すべきなのが「抑うつ」の段階です。この時期に周囲から不用意な言葉で傷つけられることによって、状態が長引き心身に多種多少な不調をきたすことがあります。周囲の人間はその心中を思いやりあたたかく見守る姿勢が必要です。
「否認」「怒り」「取引」「抑うつ」の悲しみの段階を、それぞれに経験していくことで悲しみや後悔といった感情がしだいに和らいでいきます。ペットとの関係や死因などにより、受け入れられるようになるまでの時間は様々です。それでも、各段階を行きつ戻りつしながら、時間をかけて「受容」の段階に進むことでようやく前を向けるようになるのです。
この時気を付けたいのが、早く立ち直らなければと無理をしないことです。家族でもペットへの思いは異なっているので回復するスピードも違います。ほかの家族に合わせようと、がんばって立ち直ろうとするのは早まった考えです。無茶をすればほころびが出ます。結局は余計に落ち込むことになってしまいます。
悲しむことはペットとの別離を嘆くとともに、飼い主自身を癒し回復させることでもあります。つまり、周りに心配させまいと悲嘆を押し殺すことは回復を遠ざけることになります。周りに何と思われようとも、悲しみが押し寄せてきたならば感情のままに泣いて気持ちを出してしまいましょう。それが、亡くなったペットへの愛を伝えることにもなるのではないでしょうか。
グリーフケアカウンセラー 日高りえ