最愛の母親との死別「母ロス」から立ち直るためのポイント
自死は遺された人間に大きな心の傷を残します。気づいてあげられなかった、助けてあげられなかったという自分を責める気持ちは、死後の悲しみを増幅します。また、自死を恥と感じ周囲に話すことができないことも孤立を深める要因となります。
自分の気持ちに蓋をすることなく、支援団体やカウンセラーに話を聞いてもらうことからケアは始まります。
何もしてあげられなかったと後悔してしまう
身近な人の死は大きな衝撃ですが、それが自死によるものであれば、それはなおさら強烈なものとなります。
自死が他の死よりも遺された人が痛みを強く感じる原因はいくつかあります。最も大きな要因はやはり罪悪感です。そして、自殺は許されないことだという社会的な偏見、恥に思う気持ちです。
自死をした人の家族は、亡くなった人から想いを伝えられることなく一方的にこの世から去られてしまうわけです。拒絶されたような気持ちに陥ってしまいます。どんなに本当の気持ちを訊きたくても、もうその願いは叶うことがありません。
また、周囲の人は遺族にどのように接したらよいのか戸惑いを覚えます。不用意な慰め方をして、さらに悲しませることになってはいけないと距離を置いてしまいます。
こうしたことが重なり、遺族は孤立を深めていくのです。
自死をまわりに伝えることができない苦悩
世間体から本当の死因を伝えることができないこともあります。
自死と知られれば好奇の目にさらされます。近隣の人々は遠巻きにして好奇の目で見たり噂話をしたり、子どもが学校でいじめられたりする恐れもあります。そんな状況に陥れば、外出することさえ恐怖となります。近所の人に会わないか、亡くなった人の知り合いに出くわさないかとおびえてしまいます。
実際に何か批判されることがなかったとしても、自死を公表することは家庭内に深刻な問題があったと公言するようなものです。模範的な家庭だと思われていた遺族ほど、周囲からの見られ方が気になりがちです。
死の原因を伝えられないことが負い目になることも
死の原因を秘密にしなければならないことも、悲しみからの回復を困難にします。心の内を話すこともできず、感情を押し殺して罪の意識を抱えてしまえば、さらに孤立してしまうのです。
このような負い目を感じる環境では、遺族は自分を責めやすくなります。
「自分が気づいていれば…」「もっと話を聞いてあげていれば…」。
自死の原因が分からないからこそ、生前のちょっとした言動を自分と結び付けてしまいがちです。後悔する気持ちはもっともです。
しかし、死を選んだ理由や気持ちは今となっては誰にも分かりません。最終的に死を選ぶ理由は単純なものではありません。最終的に自死に至るには、偶発的なタイミングの悪さとめぐり合わせた悪い出来事が重なってのことです。
本人の気質やさまざまな因果関係が複雑に絡み合って起きることで、誰かただ一人の発言や行動だけで死を選ぶことはありません。もし、あなたが悪意の言葉を投げつけていたとしても、それ1つだけであれば、人は乗り越えていく力があるのです。
たまたま、悪いことが複数重なり合って、乗り越えられない困難な壁となってしまったのです。これは人知の及ぶところではありません。
回避できない出来事と捉え一人で抱え込まない
もし、あなたが励ましたり相談に乗ろうとしたりしたとしても、死を回避できなかった可能性の方が大きいかもしれません。自死の兆候は、経験豊富な専門家でも見抜くことは非常に困難だからです。
自死をする人は何らかのサインを出すという考え方もあります。ですが、本人が意思を固めてしまったならば、もう周囲がどうすることもできなかったという例もあるのです。
本人にとっては、もう死しか選択肢が残されていなかったのかもしれません。残念ながら、あなたたった一人の力ではどうすることもできなかったのです。つまり、あなたが一人で責任を背負い込むことはないのです。
あなたのせいではない
自死によって大切な人と別れることになったのは辛いことです。しかし、それであなたはどれだけ苦しんだことでしょうか。
助けてあげられなかった、助けになってあげたかったという気持ちは亡くなった人を想っていた証です。この想いが死別の体験を乗り越える糧となるはずです。
大切な人の死についても、自死ということを話せない。隠してしまう。それは当然のことです。
後ろめたく思うことはありません。欧米ほどではありませんが、日本にも自死を恥ずべきものとする風習はまだ残っています。ためらいや抵抗を感じるのは当然です。
家庭内ですら、自死のことを話題にすればいつの間にか原因追及になってしまいがちです。ついには、どうして気づけなかったのかと犯人探しにまで発展することがあります。
それでなくても罪悪感でいっぱいの家族の間で、お互いを傷つけることは避けたいものです。
自死遺族は自分自身が幸せになることや、人生を楽しむことにまで後ろめたさを感じる傾向があります。しかし、遺された方は亡くなった人の分まで生きなければなりません。
悲しみの感情は時が経ったとしても、ふとした瞬間に生々しくよみがえってくることもあります。悲しみの感情はいつまでも消えることはないかもしれません。それでも、亡くなった人の分まで命を全うすることが、遺されたものの勤めのように思えます。
自分の気持ちを押し込めてしまいがちになりますが、話を聞いてもらうことで気持ちは楽になります。
自死遺族に関しては各自治体や自助グループが設けられ支援の手が差し伸べられています。多くの人の前で大切な人の死についてまだ話すことは難しいと感じるのならば、カウンセラーの手を借りるのも良い選択肢です。心の内に静かに耳を傾けてくれる援助者を見付け、心の整理をしていきましょう。
グリーフケアカウンセラー 日高りえ