最愛の母親との死別「母ロス」から立ち直るためのポイント
死別の悲しみから立ち直るには時間を要します。しかし、1年が経過してもあまり回復していないと感じることもあります。
社会的な立場や経済状況の変化、故人の誕生日や命日によって悲しみが再び訪れる場合もあります。まずは悲しみが長期化している原因を探りましょう。
乗り越えられるまで悲しみは蓄積される
大切な人を失った時には、誰もが悲しみを感じます。その悲しみの深さは個人との関係や愛情の深さによって変わります。同様に、悲しみから立ち直るために必要な時間や方法も人それぞれです。悲嘆の中で故人へ思いをはせ、しばしの時を過ごし、時間の経過とともにゆっくりと立ち上がっていくものです。
傷ついた皮膚は、風が吹いただけでも濡れただけでも痛くてたまりません。やさしくふれることさえも拒みます。けれども、時が経つにつれて次第にかさぶたができます。ついにはかさぶたが剥がれ新しい皮膚が顔を出します。死別の悲しみが癒えていく過程も似ています。
通常は、時間が悲しみを癒してくれます。しかし、体の傷も対応がまずければ化膿してしまうことがあります。そうなれば、自然に任せて治ることは難しくなります。心の傷も誤った対応で悪化し長引いてしまうことがあるのです。
悲しみが長引く反応にはいくつかパターンがあります。
まずは悲しみが長期にわたって続くものです。あまりにも慢性的になってしまうと、悲しみを乗り越えようという気力すら湧いてこなくなってしまいます。
ほかには、遅れてくる悲しみがあります。死別してすぐは事実を受け入れられなかったり、感情を表現することができなかったり、こういった場合は衝撃を心の奥に閉じ込めてしまいます。そして、本人も忘れたころになって突然感情が吹き出してくるのです。
悲しみから回復するためには、いったん感情をすべて吐き出すことが必要です。辛さから逃げようとしても、現実からは逃れることはできません。悲しみから目をそらしていても、いつかは対面することになってしまいます。
しっかりと悲しんで死を乗り越えることなく、悲しみを押さえつけてやり過ごすことは良いことではありません。表面的には元気に見えても、水面下では行き場のない悲しみが蓄積されて、思わぬ時にあふれ出してしまいます。
二次的な悲しみが長引かせる原因にも
悲しみが長引く原因には、二次的な状況も影響します。遺された人を囲む社会的な立場は、死別後で変化することがあります。
例えば、長年妻として暮らしてきた人は他人から「奥さん」と呼ばれています。夫が亡くなったときには、自分自身が何者なのか分からなくなってしまうことがあります。子どもを亡くして「お母さん」でなくなってしまった時も同じように混乱が起こります。
身近な人間関係の中で、傷つき悲しみが深まるケースもあります。
死別の悲しみの中にある人は、感性が敏感になっています。言った方には悪気がなかったとしても、「もう高齢だから」「兄弟がいてよかったじゃない」「いつまでも悲しんでいたら成仏できないよ」などという言葉は、傷ついた人の心をさらにえぐることになります。
場合によっては経済的な問題が生じることもあります。妻が専業主婦で大黒柱の夫を亡くすと生活が困難になるのは珍しいことではありません。
外に働きに出てもすぐには適応できずにストレスを感じたり、子どもの面倒をみきれなかったりと、新たな悩みが出てきます。環境が変わることでそれまでのライフスタイルが一変し、友人や親族との関係が悪くなってしまうこともあります。
子どもを亡くして数年経って、ランドセルや通信教育のダイレクトメールが舞い込んでくることもあります。亡くなった子の年齢に合わせて届く、学習塾や成人式の着物などの案内に癒されかけた気持ちを逆なでされてしまいます。いつ、どこから来るとも分からないので、社会とかかわりを持つことすら辛くなります。
記念日を避けるのは
何とか悲しみが癒えてきて、通常の暮らしに戻ることができても、ふいに死の悲しみが湧き起こってくることがあります。
それは大切な人が亡くなった命日や月命日、誕生日、記念日など一年のうちでも何度もやってきます。このような日に亡くなった方を思い出し、さみしさや悲しさが募るのはごく自然なことです。何年経過していても、悲しみが薄れない場合もあります。
さらに、日本は四季がはっきりしているために、こうした反応が起こりやすくなっています。例えば「子どもと一緒に作った雪だるま」「妻(夫)と眺めた桜」というように、四季折々の情景と相まって一緒に過ごした記憶が思い起こされるのです。
子どもを亡くした人では「入学するはず」「卒業するはず」「就職するはず」だった頃。生きていれば起きるはずのライフイベントのたびに心がかき乱されます。
ほかにも、クリスマスやお正月などの家族が集うイベントでは、世間がにぎやかに盛り上がるほど孤独感が深まります。まわりが幸せそうな雰囲気であればあるほど、遺族にとっては辛い時期になります。避けたくなる気持ちが生じるのは、おかしいことではありません。突然湧き起こる悲しみの感情も、こうした記念日によってもたらされるものだということを理解しておきましょう。
グリーフケアカウンセラー 日高りえ