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井上昇哉

子どもたちの思考力を高め、未来の選択肢を広げるプロ

井上昇哉(いのうえしょうや) / 塾講師

学習塾「与一」/合同会社 あたまをたがやす

コラム

『“話せる英語”信仰の間違い』〈大学入試改革・小学校の英語教育への疑問〉

2020年3月11日 公開 / 2020年12月1日更新

テーマ:教育 受験 進路

コラムカテゴリ:出産・子育て・教育

コラムキーワード: 高校受験 勉強法大学受験 対策中学英語 勉強法

こんにちは。与一の井上です。

今回は大変長くなりますので多くの方に読んでいただけるかどうか不安ではありますが
“話せる英語”が本当に重要なのか、これについてお話させて頂きます。

“話せる英語”という言葉の元、大学入試改革、小学校への英語の導入と
英語教育の在り方は今まさに過渡期にあると言えます。

「6年も英語を勉強しているのに日本人は英語が話せない」
“話せる英語”を訴える人は決まってこう言います。
ですが私はそうした人にこうお伝えしたいのです。
「10年も理科を勉強しているのに日常生活に役立っていない、と何故言わないのか」と。
または「12年も国語を勉強しているのに何故日本の学生には読解力が足りないといわれることに疑問を持たないのか」と。

私は“話せる英語”の必要性に関して非常に強く疑問を持っていますが、
今日の本筋はそこではないので多くは申し上げません。

今回一番申し上げたいのは「日本人の英語教育において絶対的に必要なものは他にある」
ということです。

先にも述べました大学入試における英語の共通テストでの方針変換を受け、様々な識者がコメントを発表しました。特に鳥飼玖美子氏のコメントにまさに「我が意を得たり」との思いを持ちましたので紹介させて頂きます。
長くなりますので、読むのが面倒な方は次の小見出しまで読み飛ばして下さい。

朝日新聞
2019.11.18

2020年度から始まる大学入学共通テストで、英語民間試験の活用が見送られた。
文部科学省は今後、新しい学習指導要領で学んだ受験生らが受ける24年度をめざし、
1年かけて検討する。問題点はどこにあり、議論する上で大事な視点は何なのか、識者に聞いた。

「話す」技能、公正公平には測れない

立教大学名誉教授・鳥飼玖美子さん

「見送り」は当然です。以前から英語民間試験導入の制度には深刻な問題があると指摘してきました。仕組みそのものが、構造的欠陥を多く抱えており、英語力がつく制度だとも思わなかったからです。遅きに失しましたが、受験生に甚大な被害を与えるのは避けられました。

「読む、聞く、書く、話すの4技能を測ることはいいが、制度がまずかった」という意見を見聞きします。それには異論があります。
4技能の土台は読解力、つまり「読む」ことです。読むことによって、単語の使い方や文章の組み立てを学び、それをもとに書くことを学ぶと、聞いて分かるようになる。そして話せるようになるのです。
日本では多くの人が自己紹介や道案内などが「話す」ことだと勘違いしているようです。日常会話は決まり文句を覚えてしまえばいい。残念ながら、英語民間試験の一部はこの部分しか測れていません。でも「話す」ことは、自分の考えや主張を英語で発信できるか、英語の論理で伝え理解しあえるかなのです。そのためには、英語という言語のルールを知らなければなりません。それが文法です。不要論を言う人もいますが、赤ちゃんが自然に言葉を獲得する母語と、意識して学ぶ必要のある外国語は違うのです。高校までは英語の基礎を作り、その上で高校卒業後に、大学や社会で話す力を磨けばいいと考えます。そのためには、中学校の英語教育に資源を投入すべきです。中学生は記憶力や吸収力が抜群で、母語を土台に分析的に学ぶこともできます。少人数クラスにして、教員の質と数を確保すれば、成果は出るはずです。
「話す」教育が必要ないと言っているわけではありません。高校まででも、読んだことについて討論したり、発表したりして4技能を総合的に学習すればいい。ただ、「話す」というのは、相手や状況、文化などの影響を大きく受けるので、50万人が受ける共通テストで公正公平には測れるものではないと思います。検討会議で1年かけて議論するとのこと。なぜ「4技能」をバラバラにして「話す」力を測定する必要があるのか。課題山積なのに英語民間試験を共通テストに入れる必要があるのか。1年と区切らず、「話す力」とは何か、教育と入試のあり方を含め、根本部分から再検討してほしいと思います。

(聞き手・山下知子)
     
*東京生まれ。専門は英語教育論、言語コミュニケーション論。英サウサンプトン大学大学院博士課程修了。
 著書に「英語教育の危機」(ちくま新書)など。


日本人の英語教育において、必要なのは“読む力と文法力である”


鳥飼氏は大学入試への4技能を測るテストの見送りを受け、「最も重視すべきは読む力である」と述べ、さらに文法の重要性に触れながら、小学生ではなく中学生に対し重点的に教育すべきであると仰っています。これはまさに私が生徒たちに対して常に述べてきた考えと同一であり、それゆえにここで私の意見を改めて述べる必要はすでにありません。

反論も確実にあると思いますが、小学生からの英語導入を受け、闇雲に保護者の方に対し早期英語教育への不安を煽り、「だから小学校から英語も塾へ通うべき」と謳う塾など、ただのビジネスとしてしか捉えておらず、害悪でしかないと個人的には強い憤りを感じています。
(勿論昔からある英会話を目的としたスクールなどは大きな意義があり、そこには全く疑問を持っていません。あくまで「この機に乗じて」と始めたような塾に対してです)

これが与一では「小学生には英語を教えない」と明確に定めている理由です。

不確かな情報に惑わされず、中学校から学習する文法を正しく身に付ける。
大学入試まで続く英語の学習において成果を焦らず地道に読む・書くといった従来通りの勉強を続け、いずれ“話す”につながるための土台を着実に築くこと。
これ以上に英語の学習における確実な道はないと私は心から信じています。

生徒・保護者の方には英語教育において本当に必要なものを正しく知っておいてほしい、
塾業界の方には目先の利益ではなく本当に大事なことを考え、伝えてほしい、そう心から願っています。

今回は私の個人的な意見を識者の方の意見を用いてお伝えしました。
他にも同様の意見を述べられている方が多くいらっしゃいますので、ご紹介しておきます。興味のある方は是非ご一読下さい。

子どもの英語力を削ぐ「会話力重視」教育、入試改革よりも深刻!
https://diamond.jp/articles/-/219125
シンガポールのマイクロソフトでリーゼントマネジャーとして活躍する岡田氏の「会話力重視」「英語と英会話を別物だととらえること」そして前回の私の意見と同様「国語力の欠如を問題点として指摘する意見を掲載しています。

日本人と英語(1):慢性的英語教育改革が招いた危機
https://www.nippon.com/ja/currents/d00412/
鳥飼氏が上記同様読む力の重要性を伝え、コミュニケーションに重要なものについて述べられています。

元外交官が嘆く、英語教育改革の愚 センター試験の「読み」重点は正しい 
NHKラジオ英語講座で磨ける能力とは
https://dot.asahi.com/wa/2019121900095.html
外交官として長年活躍し、現在は大学教授をされている多賀氏が、大学入試改革の失敗、伝統的な文法中心の英語教育によって使える英語は身に付くと述べられています。

この記事を書いたプロ

井上昇哉

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井上昇哉(学習塾「与一」/合同会社 あたまをたがやす)

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