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嶋田由紀子プロは四国放送が厳正なる審査をした登録専門家です

「分からない」が分からない―知識の呪いを考える

嶋田由紀子

嶋田由紀子

テーマ:新入社員

前回のコラムで、右手首を骨折した話を書きました。
しかも、よりによって利き手です。
「しばらくは、おとなしくしておこう」
……となればよかったのですが(笑)。

実はそんな中、これまでとはまったく違う分野の
新しい仕事を始めることになりました。

右手首骨折中に、新しい仕事スタート。
なかなかのタイミングです(笑)。

とはいえ、パソコンも使えますし、仕事そのものは何とかできます。
問題は右手ではありませんでした。

とにかく、分からない(笑)。



もちろん、いきなり「はい、やって!」と放り出されたわけではありません。
仕事を始める前には3日間の研修があり
基本的な仕事の流れについても教えていただきました。

そのときは、
「なるほど、なるほど。こういう流れなのね」
と聞いていました。
分かったつもりでした。

ところが、実際に仕事を始めてみると、
一度聞いただけで、全部覚えられるわけがない(笑)。

研修で聞いたのは代表的な仕事の流れ。
実際の仕事では、そこからいろいろなパターンに枝分かれしていきます。
システムの使い方も分からない。
一つの作業が終わった後、次に何をするのかも分からない。
マニュアルのような資料はあるけれど
必要な情報がどこにあるのかを探す方法も分からない。

そんな状態で、一つの作業を終え、
「よし、できた!」と思っていると、
「この後の○○はやりましたか?」と聞かれる。

えっ、この後、まだ何かあったの?
となるわけです。

もしかすると、研修で一度は聞いていたのかもしれません。
でも、実際にその仕事を経験する前に聞いたことと
自分で仕事をしながら理解することは、やはり違います。

そこで、ふと思いました。


「ああ、新入社員や転職してきた人も、こんな感じになることがあるんだろうな」と。

教える側からすると、
「研修で説明した」
「マニュアルもある」
「一度やり方も見せた」
だから、ある程度は分かっているはず。

でも、教わる側の頭の中では、
「聞いた記憶はある。でも、それが今のこれだとは分からない」
なんてことが起こっています。

「教えた」と「できるようになった」の間には、思っている以上に距離があるようです。

心理学には、「知識の呪い(Curse of Knowledge)」という
ちょっと怖い名前の認知バイアスがあります。
自分が何かを知ってしまうと
それを知らなかったときの状態を想像することが難しくなる、というものです。

その仕事に慣れている人にとっては、専門用語も普通の言葉です。
毎日使うシステムなら、どこをクリックするかなんて考えません。
「これが終わったら、次はこれ」という流れも、いちいち意識していません。

だから、教えるときにも、
「ここは分かるよね」
「これは言わなくても大丈夫だよね」
という部分が、どうしても出てきます。

これは、教える人が不親切だからではありません。
その仕事に慣れているからこそ
「分からなかった頃の感覚」を想像することが難しくなっているのです。

まさに「知識の呪い」発動!


長く仕事をして身につけた知識や経験が、
教える場面では少しだけ邪魔をすることもあるわけです。

では、この「分かっている人」と「まだ分からない人」のズレを
どうすれば少し埋められるのでしょう。

今回、実際に「分からない側」になってみて思ったのは、
教える内容だけではなく、お互いの「聞き方」を少し変えることでも
このズレを小さくできるのではないかということです。

一つは、教える側の質問です。
「分からないことはありますか?」ではなく、
「どこで迷いましたか?」と聞く。

これだけで、かなり違います。

「分からないことはありますか?」
と聞かれても、
「うーん……特にありません」
となることがあります。

なぜなら、まだ仕事の全体像が見えていない段階では、
自分でも「何が分かっていないのか」に気づけないことがあるからです。

でも、「今日やってみて、どこで迷いましたか?」
なら答えやすい。

「このボタンを押していいのか迷いました」
「この後、報告するのかどうか迷いました」
「このケースも同じ処理でいいのか迷いました」
という話が出てきます。

完全に「分からなかったこと」だけではなく
「たぶんこれでいいと思うけれど、自信がなかったこと」
まで拾うことができます。
これなら、本人も気づいていなかった理解の曖昧な部分を見つけられるかもしれません。

もう一つは、教わる側。
こちらは、今の私自身も意識していきたいことです。
分からないことが出てきたとき、
「この場合はどうすればいいですか?」
と聞けば、とりあえず目の前の仕事は進みます。
でも、それだけでは次に少し違うケースが出てきたら、また、
「これはどうすればいいですか?」
と聞くことになります。

そこで、答えを教えてもらった後に、もう一つ聞いてみる。
「何を基準に、そう判断したらいいですか?」
たとえば、「今回はAで処理してください」と言われたら、
「分かりました。ちなみに、AにするかBにするかは、何を見て判断すればいいですか?」
と聞いてみる。

そうすると、教えてもらえるのは「今回の正解」だけではありません。
その人が何を見て、どう判断しているのかまで教えてもらえます。

これ、大事だなと思います。

ベテランの人は、経験を積む中で、
「ここを見れば分かる」
「こういう場合はこっち」
という判断基準をたくさん持っています。

ベテランにとっては、判断基準そのものが「当たり前」になっていて
わざわざ言葉にしていないことがあります。
だったら、教わる側から聞いてしまえばいい。

「答え」ではなく、「答えの出し方」を教えてもらう。
そうすれば、次に少し違うケースが出てきても
自分で考えられるようになります。



もちろん、教えてもらったことはメモして、次に生かす。
一度聞いたことをもう一度聞くときには、
「前にも教えていただいたのに申し訳ありません」
と一言添える。
そして、忙しい中で教えてもらったら、
「ありがとうございます」も忘れない。

質問することと、自分で覚えていく努力。
どちらも必要なのだと思います。

教える側が、すべてを察して説明するのは難しい。
教わる側が、何も聞かずにすべてを理解するのも難しい。

だから、お互いに少しだけ聞き方を変えてみる。
教える側は、
「分からないことはある?」ではなく、「どこで迷った?」
教わる側は、
「どうすればいい?」だけではなく、「何を基準に判断すればいい?」

たったこれだけでも、「伝えたつもり」と「分かったつもり」のすれ違いは
少し減らせるのかもしれません。

私は普段、研修講師やキャリアコンサルタントとして
人に何かを伝える側にいます。

新人教育についてお話しすることもありますし
「自分の当たり前は、相手の当たり前ではありません」
なんて話もしています。

でも今回、久しぶりに「分からない側」に立ってみて
頭で知っていることと、自分で経験することはやっぱり違うなと思いました。

今度、私が誰かに何かを教えているとき
「えっ、そこから説明しないと分からないの?」
と思ったら
ちょっと気をつけようと思います。

その「当たり前」は、
私がいつの間にか身につけた「知識の呪い」なのかもしれませんから。

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嶋田由紀子
専門家

嶋田由紀子(キャリアコンサルタント・研修講師)

Office Lale

社員が笑顔になり、コミュニケーション力が向上する研修をオーダーメイドで提供。ハラスメントやメンタルヘルスなど多様な課題解決もサポート。キャリアコンサルタント資格を有し、社員のキャリア相談にも応じます。

嶋田由紀子プロは四国放送が厳正なる審査をした登録専門家です

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