「やりがいって何ですか?」と聞かれた日
最近、雨の日が多いですね。
外出先から戻ってきた人が、少し濡れながら職場に入ってくる。
「雨、大丈夫だった?」
そんな一言をかける場面があります。
たった一言です。
特別な気遣いでもなければ、仕事上、絶対に必要な言葉でもありません。
でも先日、この「ちょっとした一言」が意外と難しくてね、というお話を聞きました。
「仲のいい人同士では話しているんだけど、それ以外はあまり話さないんだよね。なんとなく、何でも話せる雰囲気じゃないのが気になっていて。どうにかできないかなと思っているんだよね」と。
確かに。
仲のいい人が帰ってきたら、
「雨、すごかった?」
「濡れなかった?」
と自然に声をかける。
でも、それが入社したばかりの人だったらどうでしょう。
いつも話をする人には声をかけるけれど、あまり話したことのない人には何も言わない。
自分に余裕があるときには話しかけるけれど、忙しかったり、機嫌が悪かったりすると、誰かが戻ってきても顔を上げない。
そんなこともあるかもしれません。
考えてみれば、
「行ってきます」
「いってらっしゃい」
「戻りました」
「おかえりなさい」
そんな何気ない言葉も、あまり交わさない職場があります。
もちろん、言わなくても仕事はできます。
「おかえりなさい」がなくてもパソコンは動きますし、売上が突然下がるわけでもありません。
でも、こういう一言って、意外と侮れません。
まだ職場に慣れていない新人にとっては
何気ない声かけが周りの人と話すきっかけになるからです。
「雨、大丈夫だった?」
と聞かれれば、
「すごかったです。駅から来るだけで濡れちゃいました」
と返せます。
天気の話は便利です。
年齢も役職もあまり関係ない。
プライベートに踏み込みすぎる心配も少ない。
しかも、その日そこにいる人の多くが共有できる話題です。
「おかえりなさい」
と言われれば、
「戻りました」
と返せます。
自分から会話を始めるのは難しくても、声をかけてもらえば、そこからなら話せる人もいます。
人見知りの人なら、なおさらでしょう。
そんな小さなやり取りを繰り返すうちに、少しずつ
「この人には話しかけても大丈夫」
「ここでは自分から声をかけてもいい」
と思えるようになっていくのではないでしょうか。
逆に、普段ほとんど言葉を交わさない相手には、
「今、話しかけても大丈夫かな」
「忙しそうだな」
「何て声をかけようかな」
と、ちょっとした一言でもためらってしまうことがあります。
これは、仕事の場面でも同じです。
聞きたいことがある。
確認したいことがある。
ちょっと困っている。
そんなとき、普段から何気なく言葉を交わしている相手と
ほとんど会話をしたことがない相手では
声をかけるときの気持ちは少し違うのではないでしょうか。
「分からなかったら、いつでも聞いてね」
そう伝えることも、もちろん大切です。
でも、その言葉だけで「聞きやすい関係」ができるわけではありません。
「おはよう」
「いってらっしゃい」
「おかえりなさい」
「雨、大丈夫だった?」
そんな、仕事とは直接関係のない小さなやり取りの積み重ねが、いざというときの
「ちょっと聞いてもいいですか?」
につながっていくのかもしれません。
では、こうした声かけが少ない職場では、どうすればいいのでしょう。
「もっとコミュニケーションを取りましょう!」
と言われて、明日から突然みんなが話し始めたら苦労はありません。
ましてや、人見知りの新人に
「あなたから積極的にコミュニケーションを取って」
と言っても、なかなか難しい。
だったら、もっと簡単なところから始めてみる。
朝、顔を合わせたら
「おはようございます」。
誰かが出かけるときには
「いってらっしゃい」。
戻ってきたら
「おかえりなさい」。
帰るときには
「お疲れさまでした」。
これなら、話題を探す必要もありません。
気の利いたことを言う必要もありません。
高いコミュニケーション能力も、たぶん必要ありません。
まずは、それを「いつものこと」にしてみる。
そして大切なのは、仲のいい人だけではなく、誰に対しても声をかけることです。
新人にも、あまり話したことのない人にも。
挨拶が自然に交わされるようになったら、そこにほんの一言を足してみる。
「雨、大丈夫だった?」
「外、暑かったでしょう」
「今日は道、混んでた?」
挨拶が、次の一言への入口になります。
そして、新人に「自分から声をかけて」と求める前に
まずは先にいる人から声をかけてみることも大切です。
入社したばかりの人は、まだその職場の「普通」を知りません。
どのくらい雑談していいのか。
忙しそうな人に話しかけてもいいのか。
誰にどんなふうに声をかければいいのか。
職場によって、意外と違います。
だから、先にいる人がやって見せる。
何度も「おはよう」と言ってもらう。
「いってらっしゃい」と言ってもらう。
戻ってきたら「おかえり」と迎えてもらう。
そうしているうちに、新人からも
「おはようございます」
「いってらっしゃい」
が自然に出てくるようになるかもしれません。
これも、その職場でのコミュニケーションの仕方を伝える、一つの人材育成ではないでしょうか。
もちろん、全員がおしゃべりになる必要はありません。
雑談が得意な人もいれば、苦手な人もいます。
無理にプライベートなことを聞く必要もありません。
大切なのは、たくさん話すことではなく
必要なときに声をかけ合える関係を、普段から少しずつつくっておくことです。
そして、もう一つ気をつけたいのが「機嫌」です。
「あの人、今日は機嫌が悪そうだから聞くのをやめておこう」
もし、新人がそんなふうに相手の顔色を見ながら質問するタイミングを決めるようになっていたら
少し気にしてみてもいいかもしれません。
天気予報だけならまだしも、上司や先輩の「機嫌予報」まで
毎朝確認しなければならない職場は、なかなか大変です。
誰にでも忙しい日や余裕のない日はあります。
いつも笑顔でいる必要もありません。
それでも、挨拶をされたら返す。
質問されたときに今は手が離せないなら、
「あとで聞くね」と伝える。
自分の機嫌と、相手への対応をできるだけ切り離す。
それも、安心して声をかけられる職場をつくるために大切なことだと思います。
人材育成というと、
「どう教えるか」
「どう指導するか」
に目が向きがちです。
コミュニケーションというと、
話し方や聞き方のスキルを考えます。
ハラスメント防止というと、
「何を言ってはいけないか」を考えることも多いでしょう。
でも、そのもっと手前にある、毎日の小さなやり取りも大切なのではないでしょうか。
今日、誰かが外から帰ってきたら、
「雨、大丈夫だった?」
まずは、そんな一言から。
明日の天気は変えられませんが、
職場の空気は、こんな一言で少し変えられるかもしれません。


