ハラスメントはなくならない?
ハラスメント防止研修のご依頼をいただいた際に、私は幹部の方へ必ず確認していることがあります。
「最後まで、一緒に取り組んでいただけますか?」
すると時々、「もちろんです!」と力強いお返事をいただくこともあれば、
「え?最後までって何をするんですか?」と少し不安そうなお顔をされることもあります。
(※こういったことを確認する理由は、2025年8月5日のコラムをご覧ください。)
先日も同じようにお聞きしました。
すると、お一人の方が突然声を荒げてこうおっしゃったのです。
「管理者側の気持ちはどうなるんだ!」
会議室の空気が一瞬で凍り付きました。
おそらくその瞬間、エアコンの設定温度が3度くらい下がったのではないかと思います。
さらに続きます。
「何度言ってもできない!こちらの言うことも聞かない!こんなの逆ハラスメントだろう!!」
実はこの時、私は「誰かがハラスメントをしている」という話をしたわけではありません。
誰かを責めたわけでもありません。
ましてや、「あなたが悪い」という話をしたわけでもありません。
ただ、その場の全員に「最後まで一緒に取り組んでいただけますか」と確認しただけです。
それにもかかわらず、なぜこれほど強い反応が返ってきたのでしょうか。
私は心の中で「なるほど、今日はここに大事なテーマが隠れているな」と思いました。
この方は決して「ハラスメントなんて気にしなくていい」と思っているわけではありません。
むしろ、ハラスメントが良くないことは十分理解されていました。
ただ、その背景にはきっと
・何度指導しても改善しない
・自分には業務への責任がある
・なぜ自分だけが責められるのか分からない
そんな焦りや戸惑い、やり場のない思いが積み重なっていたのだと思います。
皆さんも経験はありませんか?
パソコンの調子が悪い時。
最初はなんでだろうと色々試しつつ
「どうしたのかな?」「大丈夫かな?」
と、とても優しく接しています。
ところが数分後には、「お願いだから動いて!」
さらにその数分後には、「なんで今なの!?」
「昨日まで普通だったじゃない!」
と、まるで長年連れ添った相手に話しかけるようになっています。
もちろんパソコンは返事をしてくれません。
ただ黙ってこちらを見つめている(ように見える)だけです。
それでも私たちは無意識に感情をぶつけてしまいます。
人も追い詰められると、冷静な言葉より感情が先に出てしまうことがあるのです。
ハラスメントを行う人というと、
「怒りっぽい人」「支配欲の強い人」というイメージを持たれがちです。
もちろんそうしたケースもあります。
しかし実際には、
「もうどうしたらいいのか分からない」という無力感を抱えている方も少なくありません。
だからこそ、「部下が悪い」「今の若い人は打たれ弱い」「逆ハラスメントだ」
という言葉が出始めた時は一度立ち止まる必要があります。
問題解決に向かう言葉ではなく、自分を守るための言葉になっている可能性があるからです。
もちろん現実には様々な事情があります。
本当に何度も同じ指導を繰り返しているケースもありますし、管理職だけに負担が集中している職場もあります。
だからこそ、背景を丁寧に聞くことはとても大切です。
ただし、ここで誤解していただきたくないことがあります。
管理職に苦しさがあるように、もしハラスメントを受けて苦しんでいる方がいるのであれば、その苦しみもまた非常に大きなものです。
職場に行くことがつらくなる。
眠れなくなる。
自分に自信が持てなくなる。
仕事そのものを辞めざるを得なくなる。
実際に、そのような状況に追い込まれる方もいらっしゃいます。
だからこそ、
「管理職も大変だから仕方がない」という話ではありません。
被害を受ける人をつくらないために。
そして、指導する側も必要以上に追い詰められないために。
ハラスメント防止研修があるのです。
ハラスメント防止研修は、誰かを悪者にして吊し上げるためのものではありません。
被害者と加害者を対立させることでもありません。
本来の目的は、管理職を責めることでも、被害者に我慢を強いることでもありません。
困った時に相談できる組織をつくること。
そして、働く人がお互いを尊重しながら力を発揮できる職場をつくること。
そのために、私はいつも「最後まで、一緒に取り組んでいただけますか」とお聞きしています。
今回はたまたま管理職の方のお話を書きましたが、
後輩への指導で悩んでいる方、先輩との関わり方に困っている方、
同僚とのコミュニケーションに疲れている方も、この管理職の方と同じような気持ちを抱えているかもしれません。
「分かっているけれど、うまくできない」
実は私たちの日常は、この連続です。
ダイエットもそうです。(自分で書いてて、耳が痛い・・・)
早寝早起きもそうです。
運動もそうです。
分かっているのに、なかなかできない。
だからこそ、人との関わり方も「分かっているはずなのに、なぜできないのか」を考えることが大切なのだと思います。
実はそこに、ハラスメントを防ぎ、より良い職場をつくるための大きなヒントが隠れているのではないでしょうか。


