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学生の「働くのが怖い」発言について

嶋田由紀子

嶋田由紀子

テーマ:新卒採用

5月も本日で終わり。気づけば外はほぼ夏です。
今日も暑かった。
そして学生にとっては、そろそろ本気を出さなければいけない季節でもあります。
とはいえ人間、そんなに簡単に本気は出ません。
「来週からやろう」と思っていたことが、気づけば6月になっている。あるあるです。
そんな中で、学生と話しているとよく聞く言葉があります。
少し申し訳なさそうに、でも正直に。
——「働くの、ちょっと怖いんです」




「やりがいや成長、人に喜んでもらうこと。」
そうしたものを大切にしながら就職活動をしている学生は、今もたくさんいます。
一方で、「働くのが怖い」という言葉を聞く機会も増えています。

「やりがいのある仕事がしたい」
でも、「ブラック企業だったらどうしよう」
「成長したい」
でも、「長時間労働でしんどいのは嫌だ」
そんなふうに、期待と不安が同時に存在している学生は少なくありません。

とっても人間らしい話です。
夢は見たい。でも、できれば傷つかずに進みたい。

それはそうです。誰だって、いきなり「社会」という名のよく分からないものに飛び込むのは怖い。
ゲームですらチュートリアルがあるのに、社会にはそれがない。
そりゃあ、慎重にもなります。

ネットを開けば、「ブラック企業」「長時間労働」といった言葉が目に入る。
家に帰れば、疲れて帰宅した親が仕事の愚痴をこぼしている。
そうした断片が積み重なって、「働くこと」のイメージになっていきます。

しかも多くの学生にとって、会社で働くというのはまだ未経験の世界です。

例えば、メール一つとってもそうです。
働き始めると、メール対応は欠かすことができない業務のひとつになります。
単なる連絡手段ではなく、「誰が・いつ・どう動くか」を左右するものでもあります。
たとえば、確認の返信が遅れるだけで
会議で必要な情報がそろわず話が進まなかったり
取引先の検討スケジュールが後ろにずれてしまったりすることもある。
一通のやり取りが、そのまま仕事の流れに直結しているからです。

一方で、学生生活でもメールは届きます。
提出物の連絡や、教授からの返信依頼など、「確認したり返したりするもの」はもちろんあります。
ただ、それをその日のうちに対応しなかったことで
誰かの仕事が止まるとか、別の誰かの予定が動く、といったことはあまり起こりません。
起こっていたとしても、「あ、ちょっと遅れたな」くらいで済むことがほとんどです。
大学のメールは、タイミングを逃すと静かに既読スルーされることもありますが、仕事のメールはそうもいきません。

“既読スルーで世界が回るのは大学まで”なのです。



だからこそ
「一つのやり取りで仕事全体が前に進む」とか、
「その場の判断が、相手の次の行動にすぐ影響する」といった感覚は
なかなか実感として持ちにくいものです。

何もかもが未知の世界。
そりゃあ、ちょっと腰が引けても無理はありません。

こうした学生に向けて、企業側も以前より“リアル”を語るようになってきました。
リアルを伝えることは、「働くって怖い」「イメージができない」という状態から抜け出すための、大きなヒントになるはずです。
この“リアル”の中では、やりがいだけでなく、大変さも伝えようとする姿勢が確実に広がっています。
ただ、それでもなお学生の「怖さ」が抜けきらないのはなぜでしょうか。
それはおそらく、企業が伝えている“リアル”が、
学生にとってはまだ現実と結びついていないからです。

たとえば
「忙しい時期は残業が増えることもある」
と言われるのと
「月末は3日間くらい、毎日21時前後まで仕事をするイメージです。
その間は、ジムに行ったり友達と夜ごはんに行ったりはほぼできません。
ただ、それが終わると一気に仕事が減って、定時で帰れる日が続きます。
その時期に、平日に映画を観に行ったり、旅行に行くために連休を取る人もいます」
と言われるのとでは、頭に浮かぶ働く姿の具体性がまったく違います。
前者は「忙しいんだな」で終わるけれど、
後者は「今週は夜の予定を入れられないな」と、自分の生活が見えてくる。

人は「忙しいこともある」と言われてもピンと来ないことがありますが、
「今週はごはんの誘いを3回ぐらい断らないとダメな日がある」と言われると、急に現実として考え始めるものです。
少しショックも受けますが、その分、「じゃあ自分はどうするか」をちゃんと考えられるようになります。

けれど、実はこれでもまだ十分ではないのかもしれません。
企業としては、一日の流れを伝えようと「営業職Aさんの一日」といった紹介をよく載せています。
ただ、「9:00 出社」「10:00 メール確認」「13:00 お客様訪問」と並んでいるだけでは、仕事の風景はなかなか浮かびません。
それは“予定表”であって、“働いている実感”ではないからです。
極端に言えば、カレンダーの予定だけ見ても、その日の疲れ具合は分からないのと同じです。
本当に必要なのは、一つひとつの行動の意味まで伝えることです。

たとえば「朝はメールを確認します」ではなく
「昨日見積書を送ったお客様から、社内で比較したいので午前中に違いを教えてほしいという連絡が来る。
今日返さないと、その会社の会議で話が進まず、検討が一週間延びるかもしれない。
だから朝のうちに資料を見直して返信する」
と伝える。
あるいは「午後は営業訪問です」ではなく
「先月導入したサービスが現場で使いにくくないかを確認し、困りごとがあればその場で提案を考える。
短い訪問は状況確認だけで終わるが、長くなる訪問は複数人の話を聞きながら次の提案内容まで相談する」
と伝える。
こうして見ていくと、仕事とは単に“作業をこなすこと”ではなく、
相手の事情があり、タイミングがあり、その場で判断しながら進んでいくものだと分かります。

つまり学生が知りたいのは、業務名ではなく、
その仕事の中で何が起きているのか、そしてそこに自分がいたら何を感じるのかなのです。



企業側からすれば、そこまで細かく伝えるのは難しいと感じるかもしれません。
リアルに伝えれば伝えるほど、マイナスに受け取られるのではないかという不安もあるからです。
人を集めたい、採用したい。
そう思えば思うほど、言葉は少しずつ整っていきます。
少し丸く、少し無難に、少し“いい感じ”に。

気づけばその言葉は、少しずつ“就活でよく聞くあの言葉たち”になっていきます。
「若手が活躍できる環境」
「風通しの良い社風」
「やりがいのある仕事」
どれも間違ってはいないのですが数社続けて聞いていると
「さっきの会社も同じこと言っていたような…?」となることも珍しくありません。
言葉は違うはずなのに、なぜか同じに聞こえる。
そんな不思議な現象が起き始めるのも、だいたいこのあたりです。

学生の不安を和らげるのは、
「成長できる環境」や「やりがいのある仕事」といった言葉そのものではありません。
それらが“どういう一日として存在しているのか”が見えたとき、初めて意味を持ちます。

これからの採用で必要なのは、仕事内容を説明することではなく、
その仕事の一日を、相手が追体験できるように語ることなのかもしれません。

「働くのが怖い」という言葉は、後ろ向きに見えるかもしれません。
でもそれは、仕事を軽く見ていないからこそ出てくる言葉でもあります。
だから企業に求められるのは、夢を語ることでも、安心させることでもなく、
働くことを、ちゃんと分かる形で見せること。

不安をゼロにすることはできなくても、
「分からないから怖い」を「分かるから考えられる」に変えることはできる。
その積み重ねが、「怖い」を「やってみようかな」に変えていく。
そしてその一歩は、
ほんの少し、具体的に話してみることから始まるのだと思います。

そしてできれば、
採用担当の人も“ちゃんと人間であること”を、少しだけ見せてみること。



説明会では完璧に話しているように見えても
きっとどこかでミスをしたこともあれば
「今日ちょっと帰りたいな」と思った日もあるはずです。
そういう話が一つでも入るだけで
学生にとっては「会社の人」ではなく、「あ、自分と同じ人なんだな」と感じられる。
その距離の違いが、
“怖い”をほんの少し小さくするのかもしれません。

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嶋田由紀子
専門家

嶋田由紀子(キャリアコンサルタント・研修講師)

Office Lale

社員が笑顔になり、コミュニケーション力が向上する研修をオーダーメイドで提供。ハラスメントやメンタルヘルスなど多様な課題解決もサポート。キャリアコンサルタント資格を有し、社員のキャリア相談にも応じます。

嶋田由紀子プロは四国放送が厳正なる審査をした登録専門家です

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