免疫介在性壊死性筋症(ミオパチー)が漢方で軽快 (2)
「林修の今でしょ! 講座3時間スペシャル」をみて、漢方の専門家の立場として気になることがありました。
夏風邪には夏風邪用の漢方薬がある
夏風邪にも葛根湯を推奨していることがひっかかります。もちろん状況によって夏にも葛根湯は使うことはあるのですが、冬よりずっと少ないのです。葛根湯は体を温めて汗を出させる働きのある漢方薬なのだが、夏という気候を考えると発汗力が強すぎるのです。葛根湯は汗が出ていない時に使うべきなのだが、夏はじっとしていても汗が自然に出やすい。だから、かぜの引き初めから汗が出ている事が多いです。
私自身、3年前に夏風邪をひいてしまいました。あまりに夜暑いのでクーラーをかけて寝たら、翌朝、喉が痛み、軽い頭痛がして、体がだるい。食欲もあまりない。こんな症状は、東洋医学の専門用語で、陰暑(いんしょ)と言います。夏暑いのに、涼しいところに居て、さらに冷たいものを飲んだりして、胃腸も冷えて、体調が不良になっておきるカゼのような症状のことで、冬の風邪とは異なったものです。
冬に寒気があるような風邪をひいた場合、麻黄湯や葛根湯など、体を温めて汗を出すような漢方薬が適合する事が多いです。しかし、夏は汗をかきやすいので、麻黄のような強力な発汗剤を使うと、汗をかきすぎて具合が悪いことが多い。だから、私のお店では、夏に葛根湯や麻黄湯を買いに来る方には、その点、注意喚起しています。
昔の人は、冬に麻黄、夏は香需(こうじゅ:需にはくさかんむりが付く)といって、夏に香需を使うのは冬に麻黄を用いるようなものである、と言っています。香需は温めて汗を出す力はあるが、発汗力は麻黄のように強くはない。なので、夏のカゼには、香需飲(こうじゅいん)という漢方薬を基本に、症状にあわせて加減して使うのが一番良いのです。
香需飲(こうじゅいん)
組成: 香需、白扁豆、厚朴
夏、暑い時期に、身体を冷やしたり冷たいものを摂りすぎて生じる、悪寒、発熱、頭痛、身体痛、無汗の症状と、悪心、嘔吐、体が重い、場合によって腹痛、下痢を伴うような症状に適合する。夏の感冒、急性胃腸炎、インフルエンザなどに応用されます。
おかしいなと思った朝、香需4g、白扁豆6g、厚朴6g、青蒿4g、連翹4g、薄荷3gという処方を自分で煎じてのんでみました。香需飲に青蒿4g、連翹4g、薄荷3gを加えたのは、若干喉の痛みがあるのと、寒気だけでなく暖かくしていると体が少しあつくなり、自然に汗が出て口も渇くから工夫しました。この煎じ薬は、煎じてすぐ熱いままのんではいけません。すこし冷めてぬるくなってから飲むべき薬です。飲んでしばらくしたら、だるさと頭痛が軽くなり、気持ちの悪さが無くなってきたのを覚えています。そして幸いなことに、この日1日だけで完治してしまいました。
この漢方薬は一般には日本国内で手に入りません。では、入手容易なエキス顆粒剤などではどうすれば良いかというと、かっ香正気散に少量の銀翹散を加えれば良いと思います。でも、かっ香正気散も銀翹散も薬価には収載されておらず、病院では処方されません。だから、テレビでは本来は冬に適した葛根湯を紹介したのでしょうが、葛根湯を飲んだ場合、くれぐれも汗のかき過ぎに注意すべきで、最悪、高齢者や虚弱者は脱水症状が起きます。だから、保険が使える漢方薬なら最初から汗が出ている時に使う桂枝湯とか、穏やかな発汗作用があり胃腸の調子を整えるような働きも持っている五積散のような処方の方が安全で良いと思うのですが。
7月1日の放映時には、漢方は何十年間も新しい薬が全く出来ていないとおっしゃっていましたが、それは間違いです。確かに、保険の範囲内で病院で処方される漢方薬は全く増えていませんが、20世紀に開発された新しい漢方薬もあるほどで、薬局薬店で販売できる漢方薬は最近も増えています。