日本企業における最新のメンタルヘルス事情
ストレスチェック義務化を「職場環境の改善」へ
「うちは50人未満だから関係ない」
これまでストレスチェックについて、そのように考えていた経営者の方も多いのではないでしょうか。
しかし2025年5月の労働安全衛生法の改正により、その前提は変わりました。これまでは努力義務とされていた労働者数50人未満の事業場(小規模事業場)においても、ストレスチェックの実施が義務化されることが決まったのです。施行時期は「公布後3年以内に政令で定める日」とされており、遅くとも2028年5月までには、小規模事業場でもストレスチェックを実施する必要があります(令和7年5月14日公布)。
これまで「関係ない」で済んでいたストレスチェック制度とは、どのようなものなのでしょうか。 また、具体的に何をしなければならないのでしょうか。 本コラムでは、ストレスチェック制度についての理解を深めていきます。
ストレスチェック制度とは
ストレスチェック制度は、労働者のメンタルヘルス不調の未然防止を主な目的とした制度です。定期的に質問票を用いて労働者のストレスの状況を把握することによって
- 自らのストレス状態への気づきを促すこと
- 高ストレス者を早期に発見し、医師による面接指導につなげること
- 結果を集団ごとに集計・分析し、職場環境の改善に活かすこと
これらの行動に繋げるものです。
この制度は労働安全衛生法に基づき2015年に導入され、 労働者50人以上の事業場では義務化、50人未満の事業場については当面の間、努力義務とされてきました。
ストレスチェックの実施状況
制度導入以降、その効果や運用上の課題についても継続的に議論が行われてきました。まず実施状況を見ると、事業規模によって大きな差があることが分かります。 令和6年「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、
- 労働者数50人以上の事業所:実施率 89.8%
- 労働者数30〜49人の事業所:57.8%
- 労働者数10〜29人の事業所:58.1%
となっており、小規模事業場では実施が進んでいない実態が明らかになっています。
このような状況なども含めて、厚生労働省では2024年3月より 「ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会」を開催し、50人未満の事業場における制度のあり方についても検討が進められてきました。
小規模事業場向けマニュアルの公表
上記の検討会を踏まえて作成され、2026年2月に公表されたのが「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」です。このマニュアルでは、制度導入にあたり小規模事業者が直面しやすい課題に対して、具体的な対応方法が示されています。ポイントは
- 労働者のプライバシー保護への配慮
- 実施体制の整備方法
- 具体的な実施手順の整理
以上の点を含めて、小規模事業場でも現実的に実施できる形で解説されています。
小規模企業にこそ求められるストレスチェックへの対応
制度開始から約10年が経過し、運用上の課題も明らかになってきました。 そうした中で、小規模事業場向けのマニュアルが公表されたことは、制度の次の段階に入ったことを示しています。これまで努力義務であることを理由に導入を見送ってきた事業者も、今後はストレスチェック制度と向き合うことが求められます。この変化を「負担が増えた」と捉えることもできますが、 見方を変えれば、小規模事業者にとって重要なリスクに向き合う機会とも言えます。小規模事業場では、
- 人員に余裕がない
- 一人ひとりの影響が大きい
といった特徴があります。そのため、 一人が本来の能力を発揮できない、あるいは休業するだけでも、 事業全体への影響は大きくなります。
メンタルヘルス不調のリスク
労働者が仕事で抱えるストレスの主な要因は
- 仕事の量
- 仕事の質
- 人間関係
などとされていますが、これらは事業場の規模に関わらず存在するはずです。また、メンタルヘルス不調による休業は、初回でも3か月程度に及ぶことがあり、 復帰後も再発・再燃の可能性があるとされています。 その場合、休業期間がさらに長期化することも少なくありません。
ストレスチェック制度の目的は「予防」
ストレスチェック制度の最も重要な目的は、 メンタルヘルス不調の予防にあります。小規模事業場においては、この目的を正しく理解し、 事業運営上のリスクを低減する取り組みとして活用していくことが求められます。また、ストレスチェックの結果は、職場環境の改善にもつなげることができます。働きやすい環境を整えることは、結果として生産性の向上にも寄与するでしょう。
次回予告
小規模事業場においてストレスチェックを導入するには、具体的に何をすればよいのでしょうか。次回は、「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」ポイントを、分かりやすく解説していきます。



