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「ChatGPTの衝撃」について考えてみたこと

平野康代

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テーマ:ひとりブレスト

 カテゴリー「ひとりブレスト」は、私が想像(妄想の方が正確かも知れません)を巡らせ、もしかしたらイノベーションの種になるかも知れないテーマをひとりでブレーンストーミングし、ご紹介するものです。かなりくだけた話になるかも知れませんが、本人は大真面目に考え続けていることですので、もしご興味があれば、ご一緒に想像を巡らせましょう。

ChatGPTとは

 今や、ChatGPTに関する話題がニュースで取り上げられない日はありません。そもそも何なのかをまず確認してみましょう。ChatGPTは、”OpenAIが2022年11月に公開した人工知能チャットボット。原語のGenerative Pre-trained Transformerとは、「生成可能な事前学習済み変換器」という意味である。OpenAIのGPT-3ファミリーの大規模言語モデルを基に構築されており、教師あり学習と強化学習の両方の手法で転移学習されている。(出典:ウィキペディア)”と紹介されています。適切な依頼をすれば、自然な文書やプログラムまで生成してくれるChatGPTは、AIの代名詞になっている感がありますが、生成AIと呼ばれていて、今のところは対話型で自然な文章で回答してくれるチャットボットです。今回のコラムでは、ChatGPTに限定すせず、AIやロボットについて想像を巡らせてみようと思います。

自治体でChatGPTの活用実装開始

 2023年4月23日に横須賀市から次のような発表がありました。念のため、抜粋してご紹介すると"【自治体初!横須賀市役所でChatGPTの全庁的な活用実証を開始】横須賀市役所において、「ChatGPT」の全庁的な活用実証を行います。ChatGPTは、OpenAI社によって開発された、自然言語処理技術を活用し人工知能が自然な会話を行うことができるシステムです。AIと会話をしながら、質問に答えたり、文章を作ったり、言葉を翻訳したり、文章を要約することができます。横須賀市では、(株)トラストバンクが提供する自治体専用ビジネスチャットツール「LoGoチャット」にChatGPTのAPI機能を連携させることにより、すべての職員が、普段業務で使用しているチャットツールにおいて、文章作成、文章の要約、誤字脱字のチェック、またアイデア創出などに活用できるようにします。これにより業務の効率化が見込まれるとともに、広く職員が活用していくことで、さまざまなユースケースを生み出していくことを期待しています。なお、横須賀市では、ChatGPTへの入力情報が二次利用されない方式で使用し、また機密情報や個人情報は取り扱わない運用とし、情報の安全な取扱いを徹底します。"そして最後に”なお、本リリースはChatGPTで下案を作成し、職員が校正を行いました。”と説明されています。ポイントは、情報漏洩等に配慮しつつ、ChatGPTを文章作成、文章の要約、誤字脱字のチェック、またアイデア創出などに活用することで業務の効率化を図っていきたいということで、最終的には人の目を介して仕事を完結させるということです。
 各省庁は、業務効率化のために対話型AI「ChatGPT(チャットGPT)」の利用を検討し始めており、まず、農林水産省が公表済みの情報のみを扱う文書の作成で使い始めるそうです。世界的にもChatGPTは注目を集めており、2023年4月末に開催されたG7デジタル大臣会合においても、生成AIについての議論は行われ、規律を関係国で共有しながら、安全性や信頼性を促進し続けつつ、活用を検討していくという方向のようです。

AI活用への懸念

 AI活用は時代の流れだとしても、懸念は無いわけではありません。それを少しご紹介します。

AIに仕事を奪われる

 人々がAIに仕事を奪われると危機感を抱いた大きなきっかけは、2013年9月に発表されたオックスフォード大学の論文「THE FUTURE OF EMPLOYMENT: HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION?」であると言われています。その論文では、20年後には、米国に今ある仕事のうち、47%が無くなってしまう危険にさらされると主張しています。また、野村総合研究所も日本の労働人口の49%がコンピューターで代替可能になると同様のレポートを発表しています。ところで、第1次産業革命以前は、手動の織機が導入されており、多くの労働者が職を得ていました。しかし、第1次産業革命によって織機の機械化が進み、水力や蒸気機関を動力源とする紡績機が現れたため、多くの労働者は職を失ったそうです。AIの出現は、織機の機械化が進展する時代を生きた人々と同じ不安を現代人にもたらしていると言えます。

AIに表現の技術を奪われる

 文化芸術・芸能分野に従事するフリーランス方々のネットワークである日本芸能従事者協会と労働組合の国際組織であるユニ・グローバル・ユニオンは、AI の急速な出現に関する連帯声明を発表しました。”昨今の日本におけるAI(人工知能)の進歩は目覚ましく、AIで制作されたコンテンツは急速に増加しています。AIは、世界的にムーブメントとして成功していますが、同時に労働者の強制退去と雇用の喪失をもたらし、メディア・文化芸術・芸能分野の持続可能性の脅威になります。しかも、こうした動きは芸能産業の成果の根幹である芸能従事者の権利が保護されることなく進められています。AI の芸術・芸能分野への参入は、芸術・芸能従事者の著作権やその他の権利の十分な保護をともなう必要があり、生計と仕事を守り、特にフリーランス労働者の不安定な状況に配慮する必要があります。”と主張しています。AIが制作した画像や動画も出回るようになっていますが、何がベースとなっているかを考えてみると、主張されている懸念は理解できますし、文化芸術等の衰退につながることだと心配します。

健全な言論空間を守る観点からの課題

 日本新聞協会は、報道関連分野における意見をまとめた「生成AIによる報道コンテンツ利用をめぐる見解」を公表し、健全な言論空間を混乱させると警鐘を鳴らしています。報道関連分野の懸念として、「(1)言論空間の混乱と社会の動揺 (2)個人情報保護上の懸念 (3)現行著作権法や法改正に至る過程の問題点 (4)報道機関の著作物等をめぐる問題 (5)不透明な運用実態、権利者への不十分な情報開示」の5点を挙げ、問題や課題を説明しています。AIによる報道コンテンツの無断・無秩序な利用が進めば、報道機関が良質なニュースコンテンツを提供し続けることが困難になる可能性があり、国民の知る権利を阻害しかねないと主張しています。私たちが言論に触れる媒体は、かなり絞り込まれている印象があります。2016年のアメリカ大統領選挙をきっかけによく聞かれるようになった印象のあるフェイクニュースという言葉がありますが、多くの人々がソーシャルメディアから情報を入手するようになった現代では、人々の間に互いのコミュニケーションを通じて情報を入手しようとしています。誤情報や偽情報に惑わされにくい社会の構築に向けてファクトチェック・イニシアティブが設立されていますが、今後の認知度の高まりに期待が集まるところです。

古代ローマ人の生活

 地中海世界を支配したローマ帝国は、広大な属州を従え、それらの属州から搾取した莫大な富をローマに集積し、ローマ市民は労働から解放されていたそうです。権力者は市民を政治的無関心の状態にとどめるために「パンとサーカス」を市民に無償で提供したそうです。食糧に困らなくなったローマ市民は、次に娯楽を求めました。これに対して、権力者はキルケンセス(競馬場)、アンフィテアトルム(円形闘技場)、スタディウム(競技場)などを用意し、毎日のように競技や剣闘士試合といった見世物を開催することで市民に娯楽を提供したそうです。では、誰が働いていたか。それは奴隷です。古代ローマ社会において、奴隷は社会・経済分野で重要な役割を担っていました。肉体労働や接客業務だけでなく、高度な知的労働にも従事していたそうです。しかし、ローマ帝国は今はありません。ローマ帝国の衰退は、様々な要因が複雑に絡み合い、その結果としてローマの体力を奪っていったようですが、中でも主体性を支えていた「寛容さ」を失ってしまったことが大きな要因ではないかとされています。寛容性が失われた結果、市民の主体性が損なわれ、国の内外で小競り合いが増え、ローマ帝国は東西に分裂し、滅亡への道を辿ります。人権を重んじる現代では、奴隷などがもってのほかですが、私たちがAIに期待していることは、ローマ市民が奴隷に期待していたことと似ているのではないかと思います。AIに過度に依存する社会は、ローマ帝国と同じ道を辿らないとも限らないと感じます。

AIとの付き合い方(私見)

 私のみならず多くのの皆さんがそうだと思いますが、高校を卒業するまでの間は、帰る家があり、家に帰れば食事があり、衣服の心配も不要という、要するに程度の差はあれど、衣食住は与えられるので、勉学、部活動や趣味などに集中することができました。親にしてみれば、子供を養うのは大変だったはずですが、親の心子知らずとはこのことです。
 正しくて安全なAIが発達している世の中で生きる人々は、大人になってもAIが親のように面倒(AIやロボットがあらゆるものの生産を担っている)を見てくれるので、食べるために働くというのではなく、自身の思いや理念に沿って社会や周囲のために働けるようになると思います。社会や周囲に貢献するために働くというのは、もしかしたら労働の理想的な動機であるかも知れません。
 さて、特に思春期の頃は、親が言うことには耳を貸さず(参考にはしますが)、自分の価値観(もちろん未熟ですが)に基づいて生きていたように思います。具体的には「お前はこのままだと○○になるぞ」のような親の心配をよそに、友達と一生懸命に楽器の練習に勤しむという類の話です。親としては、自分の過去や過去を踏まえた常識をベースにアドバイスしてくれるのですが、そのような常識は一応頭の隅に置いておき、自分の価値観に基づいて行動します。その行動がどのような結末を迎えようとも、自分の意志で選択した結果を受け容れる段階で親のアドバイスを含めて自分の価値観を磨きます。
 将棋で有名な藤井聡太六冠は、AIを研究と練習に活用しているそうです。AIが指摘するような新しい手に対する研究も進めながら、AIが使えない現実の対局中では、自分で考える能力を使って高勝率を挙げているようです。現在のAIは、存在する過去のデータに基づいて推論し、回答を作成します。過去のデータの活用能力は、人はAIには敵いません。しかし、無から有を生みだすことは、人の方が得意ではないかと思います。無から有を生みだすための最初の一歩を踏み出すためには、チャレンジする勇気が必要だと思うからであり、今のAIには、それは持ち得ないと思うからです。
 AIが発達すると教育が衰退すると心配される方もおられますが、横須賀市の例にもあるとおり、AIが提示してきたものを評価する能力を磨いておく必要があります。例えば、AIがプログラミングしてくれたとして、そのプログラムが求める結果をもたらしているかは、人が評価する必要はありますし、求める結果をもたらすための追加情報を正しくAIに伝える能力も必要となります。衣食住の心配が不要になる代わりに、より高度なスキルを得るための勉強や価値観を磨く努力が必要になると思います。古代ローマ市民と同じ道を辿るのはイヤですからね。

まとめ

 OpenAIのChatGPTは、日本語がまだ下手という評価もあってか、富士通をはじめ、東京工業大学、東北大学、理化学研究所の4者が、スーパーコンピューター「富岳」を活用した大規模言語モデル(ChatGPTをはじめとする生成AIの中核として使用されている深層学習のAIモデル)の分散並列学習手法の研究開発を2023年5月から実施するそうです。私の目の黒いうちに、私が夢見るAIが当たり前の社会になっているかは定かではありませんが、AIが色々な意味で良きパートナーとなってくれる日を待ちわびています。

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平野康代
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平野康代(DXコンサルタント)

株式会社テクノプロジェクト

IT業界での約30年のキャリアをもとに、中小企業のDX推進をサポート。企業に応じた業務変革を導くため課題抽出からシステム導入、稼働まで伴走します。あわせてデジタル人材を育成し、企業の自走力を高めます。

平野康代プロは山陰中央新報社が厳正なる審査をした登録専門家です

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