世界一底が深いゴミ箱
「私の本棚」は、私が読んだ本でオススメの本をご紹介するカテゴリーです。世界の人口は、2020年の世界銀行の統計によれば、約78億人だそうです。私がこれまでの人生で何人の人に会って、これから何人の人に会うかは分かりませんが、少なくとも78億全ての人に会うこと不可能であること位は分かります。皆さんご存知のGoogleは、世界中の書籍数を約1.3億と推定しています。これも全部読むことは不可能であろうと思います。一期一会という有名なことわざは、人との出会いを想定しているようですが、本も出会いだと思っています。良い本に出会うことは、私たちの人生に多少なりとも影響を与えると信じています。
この本との出会い
今回ご紹介する本は、「BLUE GIANT(ブルージャイアント)」という本です。日本の漫画作品なのですが、事務所で若者と雑談している時に、彼がこの本を紹介してくれました。”音が聞こえてくる漫画です”と。私は、勧められたものは基本的に一旦取り込んでから評価することにしていますので、レンタル(買いなさいよと言わないでください)して読んでみました。これが凄まじく良く、今回採り上げることにしました。紹介してくれた若者にはとても感謝しています。確かに音が聞こえてくる気がしました。同時にその若者が私が何者であるかを考えた上で、この本を紹介してくれた気がして、それにも感動しました。
「BLUE GIANT」のご紹介
仙台に住むこの漫画の主人公である宮本大(みやもとだい)は、中学の卒業記念という名目で友人に連れられて訪れたジャズ喫茶で、初めてジャズの生演奏を聴きます。そこで衝撃を受け、ジャズの魅力に取り憑かれてしまいます。音楽の経験や知識は全くありませんでしたが、高校に入学した彼は、中学時代から続けてきたバスケットボール部に籍を置きながら、3つ年上の家族思いの兄から、初任給(と言っても、36回ローン)でテナーサックスをプレゼントされます。テナーサックスの練習を独学で開始し、毎日欠かさず練習します。高校3年生になって、続けてきたバスケットボール部を引退すると、大学進学への道ではなく、世界一のジャズプレイヤーを目指すようになります。
主人公の大はテナーサックスのリード(楽器に用いられる薄い板状のもので振動して音源となる)を購入するため、通っていた楽器店「ひろせ楽器」の店員である小熊の紹介で、ジャズバー「JAZZ BAR Bird」に出演するバンドとのセッションに初めて参加します。しかし、大音量の演奏で常連客を激怒させ、途中で舞台から降ろされてしまいます。しかし、「JAZZ BAR Bird」の店長である川西は、その時の大の演奏を高く評価していて、後日、大とバークリー音楽院出身のミュージシャンである由井を引き合わせます。その後、大は高校を卒業して上京するまで、由井のもとで本格的にテナーサックスを学びます。
大はジャズプレイヤーを目指して、高校卒業と同時に故郷の宮城県仙台市を離れ、上京します。住居や生活費の稼ぎ口も決めずに東京に出て来た大は、都内の大学に通う高校時代の同級生の玉田俊二(たまだしゅんじ)のアパートに居候し、アルバイトを掛け持ちしながら生計を立てていくことになります。玉田も音楽の経験はありませんでしたが、たまたま河原で練習している大のところに行って、大から空き缶を棒で叩いてリズムを取って欲しいと言われ、やってみるのですが、そこで一緒に演奏することの魅力を体感し、ドラムを始めることになります。大が上京して初めて立ち寄ったジャズバー「JAZZ TAKE TWO」で、店主であるアキコに、生演奏を聴くことができるジャズバー「JAZZ SPOT 二五一」を紹介されます。ライブに出演していた同い年のピアニストである沢辺雪祈(さわべゆきのり)と、ドラムを始めたばかりの玉田を加え、トリオのジャズバンド「JASS」を結成した大は、日本一のジャズクラブ「So Blue TOKYO」への出演を目指し、ライブ活動を展開します。かなりざっくりとしたあらすじは以上ですが、実は現在も連載中だそうで、大きな話として、仙台・東京時代の話があり、引き続いて2つの話があります。
ご存知の方もおられるかも知れませんが、この漫画は映画化され、2023/2/17に公開されています。東京時代にフォーカスした脚本となっており、もちろん私も観ているわけですが、漫画を読んでいる時に聴こえてくるような気がする音を超える楽曲を聴くことができます。映画を観に行くというより、ライブを聴きに行くという方が馴染むかも知れません。それ程、個人的には高評価の映画となっています。
何が心に響いたか
まず、主人公の宮本大が、何に対してもポジティブであり、世界一のジャズプレイヤーになるという強い思いを持って、テナーサックスの練習に本気で取り組んでいるところに、共感のような憧憬のような気持ちを抱き、登場人物たちが宮本大から影響を受けるように、読んでいる自分も影響を受けてしまうという点です。さらに言えば、何かに一生懸命に取り組んでいた若い頃の自分を思い出し、自分も動きたくなってくるような気持ちになってきます。私は周囲にそれを”心に張り付いていた苔のようなものがズルリと剥げ落ちる感覚”と説明しています。
また、一貫して描かれているのは、愛情だと感じました。ジャズに対する愛情、楽器に対する愛情、家族に対する愛情、関わる人に対する愛情などなどです。色々な場面で胸が熱くなってきます。愛情に溢れた物語であると断言できます。そのような意味でも心が磨かれるような気持ちになれることが心に響きました。
グッドマン博士の言葉
新型コロナ感染症拡大の影響で2021年に開催された「2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会」の感動は、皆さんも覚えておられると思います。残念ながら、パラリンピックの競技種目に接することは多くはないですが、競技をご覧になった方は、オリンピック競技と同様に感動されたことと思います。私もそのひとりです。
ルートヴィヒ・グットマン博士(以降、グッドマン博士)は、ナチスによるユダヤ人排斥の動きによりドイツからイギリスに亡命した医師ですが、第二次世界大戦下の1940年代前半、ロンドン郊外にあった病院で傷ついた兵士たちの診察、治療にあたっていたそうです。ここで、脊髄損傷により下半身が麻痺、車いす生活を余儀なくされる多くの兵士たちと接することになります。彼らに対して、グットマン博士は、スポーツをリハビリテーションに用います。それが契機となって1948年7月、ロンドン五輪に合わせて病院内で車いす患者16名によるアーチェリー大会を開きます。これが、パラリンピックの原点だと言われています。グッドマン博士は、車いす生活をしながらスポーツに取り組む彼らに対し、「失ったものは数えなくていい、残されたものを最大限に活かそう!」と言って励ましたそうです。
私も年齢を重ね、若い頃と比べると、目は悪くなり、体力も落ち、身体は動かなくなる等、悪いところばかりを意識してしまいます。グッドマン博士の言葉は、車いす生活をしながらスポーツに励むような人々だけに向けたものではなく、私のような年を重ねた者に向けた言葉でもあるような気がしてなりません。今ある能力を最大限に活かす努力をせよと。
まとめ
私が極端に感動しているのかも知れませんが、極端な理由は、年を重ねた者が自身の色々な経験と感情を、ある外部刺激によって瞬く間に関連付けることが理由であるかも知れません。自画自賛ですが、感受性が強いと言っても良いかも知れません。強烈な外部刺激となり得るという点で、この本と映画はお勧めしたいです。心が熱くなり、動き出したくなるに違いありません。”心に張り付いていた苔のようなものがズルリと剥げ落ちる感覚”を体験してみてください。
テクノプロジェクトも39周年を迎え、ベテラン社員も一定数所属しています。今ある能力を最大限にかつ有効に活かすためには、どのようにすれば良いかを考えてみたいと思います。