精神分析は精神科学に基づき心の病を癒し人間の謎を解き明かす第四章-4

大澤秀行

大澤秀行

テーマ:人間とは何か

 

第四章 欲望とa 『4_痕跡』


欲望の原因「a」とは何か



ラカンの言う対象aは、欲望の原因となるその対象はいつどこで形成されるのか、あるいは発見されるのか、あるいはどこでいつ出会うのか、それを考えてみたい。

欲望の原因であり、享楽であるaとは何か。主体は、それにおいて享楽し、欲望を抱くことが出来るとされる「a」。もっと判り易くいえば、人はそれにおいて生きる意味を見出し、あるいはそれを実感し、生き甲斐となり、一生それを追いかけ、一生それを追い求め続けることの出来る、主体を永遠に導き続けることの出来るaである。

aは文字でありイメージであり、具体的数字や目標地点である。それは明確に示すことが出来る。身近なものは、アイデンティティーであり、自我理想である。いずれも主体に備わった能力と意味である。芸術家、アスリート、科学者、実業家、政治家、教育家、医学者等々、創造と研究など、探求すべきテーマを持っている人達は、皆このaを持っている。そこに向かって、そこを目指して一心不乱に突き進む。その集中力が、事を成就させるのである。

すべては意志とその意力である。その目標と主体を惹きつける魅力と牽引力を持っているのが対象aである。


自らが文字によって創り出す「a」

それはどの様にしてつくられるのか。aは見出すものでも、探すものでもなく、自らが文字によって創り出すのである。アスリートは金メダルとか、科学者はテーマをつくり、数学者は「解く」と決め、芸術家は創作するテーマを決め、医学者は病名を決めて治療法をつくり、料理家は美味しいメニューをつくり、実業家は億万長者を目指す。

それらは目指している段階では文字だけで、現実には何一つ存在していない。即ち物質化せず、文字としてしか存在していない。しかし、その目指すべき対象がなければ、人は決定し、決意し、決断しなければ行動しかない。行動しなければ、結果は出ない。


対象選択から動機が生まれる

その行動の原因を「動機」という。動機はどうして生まれるのか。ヤル気とか決意といわれるが、それらはすべて対象選択から生まれる。動機があるから、即ちヤル気があるから対象が生まれるのではなく、対象が決まるから、それが目標となり、ヤル気と決意があるなら、その対象は動機を生み出す。


資格をとる、大学を目指す。その資格が医師なのか教員なのか弁護士なのかにより、ヤル気と決意は異なる。動機からの時どう生まれるのか。必然性である。その資格がもたらす、社会的地位か収入か仕事内容か、ライフスタイルかなどにより、動機は様々である。その他消防士、警察官、エンジニア、建築家、自衛官、パイロット等々、様々な職種から人は自らに合った、もしくは自らが求めるアイデンティティーに基づいて動機をつくり、その目標に向かって進む。途中挫折や進路変更もあり得る。

それを何度も繰り返しながら再度挑戦し続け、夢を叶えようと努力する。それが出来るのは対象を我が手にし、アイデンティティーが成就することを夢見続けられるからである。その夢が消えた時、即「a」が消えた時、人生の時は止まる。再び動き出すためには再度aをつくり出すしかない。


文字こそ人間が生きた唯一の痕跡



人間生きることを人生に変えるためには、夢を叶える対象「a」をつくり出し、それに向かって最期まで歩み続けることが出来るかどうかで、人として生きたかどうかが決まる。人として生きるとは、夢を持ってそれに向かい努力精進し続けること。それを成し遂げたかではなく、そのaを持ち、求め続けたかである。

所詮は人生、「夢のまた夢」だから。永遠に遺るものではない。すべては文字でしか残らない。永遠なのは遺石ではなく、碑文である。その意味で、本だけが永遠といえるかもしれない、それを読める人間がいるとして。
文字こそ人間が生きた唯一の痕跡である。


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大澤秀行
専門家

大澤秀行(精神分析家)

合同会社LAFAERO1(ラファエロワン)

精神分析家として34年の臨床実績があり、現在もメールや電話も合わせると、一日平均10名の精神分析によるセラピーを行っている。

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