「YOSHIKI×レスリー・キー」の対談からみる、子と父親の関係 【男児のエディプス・コンプレックスとは】

大澤秀行

大澤秀行


クライエント様から、先日放送されたSWITCHインタビュー達人達「YOSHIKI×レスリー・キー」の中のYOSHIKIさんの言葉が気になり、少しでも苦しみが軽くならないかとインタビューについて尋ねられました。
YOSHIKIさんの対談で語られたことを一部抜粋し、男児と父との関係、男児の発達課題“エディプス・コンプレックス”についてまとめました。

SWITCHインタビュー達人達【YOSHIKI×レスリー・キー】より一部抜粋

Q. お父さんの死とメンバーの死はどのように乗り越えた?
Y.乗り越えていないと思う。…血が流れたまま前に進んでいると思う。その痛みっていうのも共存、一緒に付き合っていくしかない。僕は血だらけで世界に向かってる。多分僕は血だらけです。……父が亡くなったとき、色んな意味で怒りがこみ上げてきて、元々破壊的エネルギーというか抑えきれないエネルギーを自分の中で持っていたんだと思う。…

Q.YOSHIKIとして生きるのは大変ですか?
Y.未だに毎日死にたいと思う。…自分を救うために曲を書いていたかもしれない。…

トラウマ
一般的に幼少時、親の離婚や死により離別した場合、子供はどうしていなくなったのか理由を考えてもわからず、見捨てられたという考えに至りトラウマになります。

YOSHIKIさんはそのトラウマと毎日闘っているのではないでしょうか。そして仮想エディプスの中で、父と血だらけの闘いをしています。それが「怒り」を生み、逆にそれが彼の活動のエネルギーになっています。
YOSHIKIさんの父への怒り、痛みは、彼のカリスマ性と成功に比例しています。計り知れないほどの怒りと辛苦が、原動力となり、そのエネルギーを創造力に変換している。その変換能力こそ彼の才能なのです。

仮想エディプスの中で
精神科学では父との闘いは、4~7才頃までの男児の発達課題テーマです。その時期をエディプス期といい、性差により発達が異なります。男児は父と母をめぐる三角関係になり、力において到底敵わない父に対して、不安や罪意識を抱きます。この不安を「去勢不安」といい、母への愛着と父への競争心の三つを骨組にした観念複合体をエディプ・スコンプレックスといいます。
正常な発達は父と同一化し、男性として自己の確立の道を歩みます。

YOSHIKIさんは、お父さんが亡くなられています。そのため“仮想エディプスの中で”、愛と憎しみの葛藤を想像的にするしかないため、解決が見つからない。闘う相手は父でありながら、現実に居ない仮想の父と闘っています。
それゆえ、不在の父と対話しても父の声が無いために決着がつかないのです。その未決定状態が、私が何者か判らないことになり、「死にたい」と考えてしまうのではないかと考えられます。
同一化できる父が不在のために、自己の確立が仮想になって不安定になり、「毎日死にたい」となるのです。それでも「生きている限り頑張ろうかな」と言えるのは、逝ってしまった父に対する怒りを創造力に変換し得たからです。

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Q.これから何かアイデアある?
Y.コロナ禍で考えたこと。…今までの一瞬一瞬は奇跡だったんだ。…人って本当は助け合うのが人なんではないかと。…

人は助け合って生きる
「人って本当は助け合うのが人なんではないか」と語られています。
本当は助け合って生きたい。助け合って生きるのが人間だ! なのに、現実は毎日父と血だらけで闘いを繰り返している。
YOSHIKIさんはこうも語られてます。「僕らはこうやって生きているのだから、どうやって共存してゆくのかということ」、父と僕はこうして共存して生きてゆくしかないんです、と。
日々闘い続けて疲弊し傷ついた血だらけの戦士が、それでも誇り高く独り神々しく立つ姿が浮かびます。

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Q.NEXT YOSHIKIは?
Y.…いつかその壁は壊れる…道を開くことができれば、僕は生きてきた甲斐がある。…

自己のアイデンティティ
父との闘いを終えれば、父という壁が壊れれば、YOSHIKIさんの葛藤が終わり、YOSIKIさんが望む道を開くことができるということに、繋がるのではと考えます。自分の人生を生きることができる、生きてきた甲斐があると。

仮想の父との間で作ったアイデンティティもまた、仮想なので未確定です。
父を分離し、自分との闘い、自分だけのアイデンティティへと移行できれば、今よりもっと更に輝かれるのではないでしょうか。
YOSHIKIさんが闘っている父は現実には居ない、先に逝った父に対して反抗しているのだと理解し、自ら創造した理想へと向かって、更なる高みへと突き進まれることを信じています。

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【エディプス・コンプレックス:4~7才頃までの男児の発達課題】

男児にとって最も恐ろしいのが、先ほどふれたエディプス・コンプレックスの観念の一つ「去勢不安」です。父に去勢されるのではないかという恐怖ですが、その想像は現実と思えるほど男児にとっては自己の抹殺に等しく、恐怖なのです。
母をめぐる恋敵である父に去勢不安を持ち恐れつつも、力を持った、そして母に愛される父のようになりたいと願い、自らを父に同一化させようとします。その事で男児は男根の象徴である活発で、押し入り、刺し貫く男性らしさを愛し、獲得します。この父への恐れと愛着を抱えた状況をエディプス葛藤と言います。

エディプス・コンプレックス 男児の発達課題の達成とは

・父の男性性を摂り容れること。
父との同一化により男性として自己の確立、アイデンティティが確立し自分の道を歩みだす。

・母の持つ受け身的、女性性を排除すること。
それは母との愛情関係を夢見ていた、母にしがみつき、母の愛人を放棄すること。
男児の心の中の母を排除することにより、母と分離し、「僕のお母さん」ではなく、母を一人の女性、父のものと認識できます。
すると後に、女性の背後に母を見ることなく、一人の女性として、困難なく他の女性に愛情を移行することができるようになります。女性も自己のアイデンティティの一つで、自分の理想の女性と愛情関係を育みます。

ちなみに、この時、母との愛情関係を断念できず、母の愛人、母のお気に入りになろうと努力している男性をマザーコンプレックスと言います。


関連コラム
⇨ 父の役割や能力とは?問題が生じた時に問われる父の機能

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大澤秀行
専門家

大澤秀行(精神分析家)

合同会社LAFAERO1(ラファエロワン)

精神分析家として34年の臨床実績があり、現在もメールや電話も合わせると、一日平均10名の精神分析によるセラピーを行っている。

大澤秀行プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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