鏡像関係は、絶対的孤独な人間の寂しさと孤立感を癒す
赤ちゃんの心と体を育てるには、ママのまなざしが必要です。なぜなら赤ちゃんは、無力でバラバラの身体イメージの状態で生まれてくるからです。
初めての赤ちゃんを迎えるにあたって、どう育てていけばいいのか、色んな不安があると思いますが、ママが傍に居て一緒に過ごすだけで、赤ちゃんは心地よく安心します。
赤ちゃんは何も無いまっさらな状態で生まれてきます。ママが親にしてもらった嬉しかったこと、嫌だったことは、ママの価値観、評価、意味になります。赤ちゃんを一人の人間として尊重し、ありのままを見るためにもまなざしがとても大切です。
0歳児の赤ちゃんの子育てに最も必要なまなざしについて、まなざしとは何なのか、生まれたばかりの赤ちゃんはどういう状態なのか、お話します。
1.赤ちゃんは無力な存在でバラバラの身体イメージのまま生きている
赤ちゃんを、“寄る辺なき存在”と心理学では規定します。それは、世話を受けなければ自分では生きていけないことを意味します。胎内から世界への移行は、宇宙における星から星への宇宙旅行に匹敵するものです。これが最初の分離体験になります。
動物の赤ちゃんなら、ほんの数時間で自分の足で立ち、お母さんの所へおっぱいを飲みに行くことができます。しかし人間の赤ちゃんは立つだけで1年かかり、成人するには18年要します。
それほど生まれたときは未成熟で無力な存在として、この世に生まれたのが赤ちゃんです。それは、養育者の世話がなければ生きられないことを意味します。
【無力な存在とは】
・お腹が空いても自分で食べれない。
・おしっこをして気持ち悪くても、自分ではおむつを替えられない。
・自分の存在自体認識が無い。
・自分で自分を守れない。
【バラバラの身体イメージとは】
・自分の手、足、お腹、頭、口、耳、目などの知覚が統合されて無く、身体イメージがバラバラのままで統一体がないのです。
何より、ママとお腹の中では一体で安心だった状態から、いきなり生まれてきたので、無力な存在として、また過剰な現象の刺激に必死に対応しています。その情報処理が眠りなのです。
赤ちゃんは環境が心地よくても不快で恐怖でも、どんな状態でも自分で回避することもどうすることもできません。なすがまま、受け取るのみです。ママの世話なくしては生きてはいけない存在を、“寄る辺なき存在と”言います。
【生まれたばかりの新生児】
新生児は感覚・知覚・運動の情報が未分化なまま、世界を自我との関係で構成できないまま、母との融合した万能感に浸っている。
【共生期】
新生児4~5か月に内部感覚と外部感覚が分化し始めるが、しかし、未だに明確な外部と自我の境界は無く「二者統合体」であるかのように振る舞う。
2.赤ちゃんの心は、いつどのようにできるの? 初めてできる心は?
赤ちゃんはおっぱいを飲ませたり、おむつを替えて世話すれば体は大きくなりますが、心が育つ訳ではありません。
自分の体の発見
赤ちゃんは、自分の体を認識することが心の始まりです。心理学では自体愛と言います。自分の体の発見が「快」で知覚されたとき、生まれます。それは、ママのまなざしによる敏速的確な世話行動で満たされ、赤ちゃんは自分の身体感覚を安心と共に信じることができます。
自体愛は後の自己愛の原泉になります。
【ママのまなざしがある場合】
まなざしがあるとは、ママが赤ちゃんに関心を向け続けること。監視のまなざしではなく、温かい見守るまなざしです。ママの眼に自分が映り、ママの眼が鏡になることにより、赤ちゃんはママと自分を同一視します。そこでママの鏡像となることで、自分はママそのものになります。バラバラの身体イメージが統合され、鏡像を通してその統一された自己像を手に入れるのです。
【ママの眼に映るってどういうこと?】
ママが赤ちゃんの鏡になること。鏡になるためには24時間体制で赤ちゃんに関心を向け、まなざしが向いていることです。24時間体制で赤ちゃんの世話をするのは、わずか18か月間です。この時しっかりとまなざしを向け世話をすると、赤ちゃんは自分の身体感覚の確かさを学び肯定が生まれます。24時間まなざしが向いていると、ママの声とママの温もり、ママに包まれている心地よい圧迫感の下、敏速的確な世話ができます。声と温もりと心地よい圧迫感は、自らの存在感へと構成されていきます。
【敏速的確な世話を受けた赤ちゃんとは】
・お腹が空いたと思ったら、自分の欲しい量だけ飲める。過剰でも不足でもなく。
・排尿・排便で気持ち悪いと思ったとき、替えてもらい不快から快になる継続的体験。
・眠くなったとき、添い寝をしてもらえたり傍に居て、安心して眠れる。
適切な世話行動により、快の感覚が反復されて自分の体だと認識に至ります。それには、24時間体制の母のまなざしが不可欠なのです。
【ママの世話行動の反復によりもたらされるものは】
1. 共に生きていることの同一と安心を得る。
2.敏速的確な対応の反復により、予測性が信頼となって、安心・安全の中にいる。
そして自分の居場所が安定する。
3.赤ちゃんはママの心の動きを自分そのものと受けとり、母と一体になり、共生と相互性を学ぶ。
4.自分の体を認識できる。自分の五知覚(匂い、皮膚感覚(触)、音、視覚、味)の感覚の確かさ。自分の感覚はOKという肯定感に至り、自体愛を形成できる。
安心・安全の下、予測ができるとは期待が裏切られない、それが信頼の心をつくります。発達論では、基本的信頼と言います。このとき、基本的信頼を獲得できなければ、不安な心に、なってしまいます
図のようにまなざしが無かった場合、敵視とにらむ心、もしくは従順・服従(いい子)の心になってしまいます。
ママによる24時間体制の世話についてお話をしましたが、実際には1人で子育てをするのはそう容易いことではありません。ママのまなざしが重要ではありますが、ママが赤ちゃんにまなざしを向けられるように、パパや周りの人によるサポートが必要です。次は、パパの役割について詳しく説明します。
3.ママとパパの役割と心構え
【ママの役割と心構え】
24時間体制で敏速的確に対応。対応とは一貫した世話行動。時と場合によって世話行動が違うと子供は不信を学びます。ママは黙って笑顔で喜びのうちに赤ちゃんの世話行動をする。的確な世話とは、ママが考えた適切ではなく、赤ちゃんの要求に過不足なく世話をすること。そのためには常に赤ちゃんに心を向けている証拠としてのまなざしが必要です。まなざしとは関心、心を向けていること。まなざしが向いていれば、赤ちゃんの求めていることに敏速的確に応えられます。
【パパの役割と心構え】
パパである父は、厳父、家庭の法律。子供と遊ぶのはパパ。遊びを通し様々な人間としてのルール、社会性を学びます。
・父に威厳があること
威厳とは、ママがパパを一家の大黒柱として見做し、信頼していること。ママが何をしても言ってもその後ろにはパパが居る。パパの指示で動いていると周囲がそれを当然として不文律になっていること。
・一貫性があること
一貫性とは、正しい論理と価値観や主義が状況によって相対的にならないこと。
・一家の全責任は父にあると自覚を持つこと
家族を指導力と信頼性によって一つにする。家族を守ること
・ママを支えること
赤ちゃんの世話をしていると、家事やパパの世話はしたくてもできないことを理解し支える。
・ママと話し合い、2人で育てる意識を持つこと
2人で育てる自覚を持つこと
・ママが何を求めているか的確に対応すること
その都度思い込まずにコミュニケーションをとり、ママの言っていることを理解し、任せきりにしない。わからないからと言って、決して放棄しない。そして逃げない。
ママは赤ちゃんに的確に世話をしますが、パパは的確にママのサポートをする。ママは逃げ場がなく、無力な赤ちゃんを24時間何ヵ月も世話することは、想像以上に加重な処があり、夫をはじめ、周囲のサポートなしではできません。それほど養育は手当てが必要とされます。因みに、パンダの飼育は8人必要と言われています。
4.赤ちゃんを育てるための環境を整える
【周りの理解とサポート】
パパのサポートの話をしましたが、パパ以外のサポートしてくれる環境も必要です。24時間体制の必要性、子育ての大変さを理解し、サポートする環境を整える。周囲の人は、何も訊かれていないのに口や手を出したり、頼まれていないのに良かれと思ってすることは、その人の思い込みがほとんどです。思い込みのサポートは逆にママのストレスになってしまいます。そのまま赤ちゃんにストレスが転付され、夜泣きの原因の一つになります。
パパとママの両親や周囲の人たちは、赤ちゃんの親はパパとママだということをしっかりと意識し尊重しましょう。助けてほしいと依頼があったときは、何でも言われたことを敏速的確にします。わからないことは、その都度質問して、自分は何を依頼されたのか正確に理解しましょう。
またママは、周囲の人を頼りましょう。一人で何もかもできるものではありません。
頼ることは「甘えてる」ことではありません。
ママも美容院へ行ったり、一人でゆっくり過ごしたり、リフレッシュすることは必要です。
赤ちゃんにとって、笑顔のママが一番です。
完璧に環境が整い、完璧な世話行動をできる人はどこにも居ません。できなかったことを悔いるより、できたことの喜びを赤ちゃんと共に喜び楽しむことから始めてみましょう。
ママが笑っているだけで赤ちゃんは安心します。生まれたばかりの赤ちゃんの情態、世話の仕方を知っているだけでも素晴らしいこと。なおかつ、赤ちゃんの豊かな心を形成するために毎日努力していることは赤ちゃんにも伝わります。100%を目指すのではなく、赤ちゃんと共に一つずつ学びながら、自分たちのペースでゆっくり一歩ずつ共に成長できればいいですね。
パパや周囲の方々は赤ちゃんとママを見守りながら、みんなで協力し合い、助け合って子育てすることが何より大切です。
・ママは赤ちゃんに心地良い状態を与えるように心がけること
・周囲の方々はママをサポートして出来るだけストレスフリーにすること
そのために皆で話し合って環境を整えましょう。
まとめ
最後になりましたが、最も大事なことは、パパとママの仲がいいこと。信頼し合い夫婦関係が良好であることです。
ママが赤ちゃんの世話を喜んでできるのは、愛する夫の分身だからどんなことも笑顔でできます。ママが笑顔になれるのは、パパである夫の存在。妻を女性として慈しんで愛すること。夫にとってはそんなことと思われることも、妻にとっては大事なことが多いです。労いの言葉やスキンシップ、話を聴くことなど。
妻であるママも夫の愛を素直に喜び夫を愛すること。愛に満ちあふれた妻は、夫の子供である赤ちゃんにこぼれ落ちた愛を注ぎ込みます。赤ちゃんの世話が喜びになります。夫の支えがないと、ママは安定した世話行動がしたくてもできません。それほどママも他の支えを必要としています。
【赤ちゃんのこころと体を育てるために知っておきたい5つのこと】
1.赤ちゃんは無力な存在、バラバラの身体イメージ(統一された身体イメージの欠如)
2.赤ちゃんの心は、ママのまなざしと、声かけと、スキンシップでできる。
3.ママとパパになる心構えと役割
4.環境(周囲の理解とサポート)
5.夫婦仲がいいこと
まなざしを向け続けることで赤ちゃんの健康なこころが生まれ、バラバラの身体イメージを統合していきます。
この5つのことを心に刻んで、心身ともに健康な赤ちゃんを育てていきましょう。
子供はいつも母に向かって叫んでいる。世話して欲しい、自分だけを見つめて欲しい、自分だけを愛して欲しい、自分だけを抱っこして欲しいと。その叫びに無条件に従うことが母性である。その状況下において子供たちは正常な成長と心の発達を遂げる。母とは、地球における太陽のようなもので、それ無くしては一瞬も生きられない、子供にとっての太陽なのである。(INTEGRATOR養成講座Ⅰテキストより抜粋)
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