不貞行為の賠償責任についての最高裁判決
本年7月に成立した民法(相続法)の改正分野ごご説明するこのコラム,2回目は関心が高いであろう「配偶者居住権」についてです。
と,その前に。改正相続法の施行日が決まりました。
自筆証書遺言の要件緩和については2019年1月17日
今回ご説明する「配偶者居住権」については2020年4月1日
上記及び遺言書保管制度以外の改正箇所については2019年7月1日
から適用されます。詳しくは法務省のホームページをご確認ください。
さて,ここからが本題です。今回新設される「配偶者居住権」,大きく分けて2つの制度になります。
一つは,相続発生時に被相続人の財産に属した建物に居住していた配偶者について,一定期間の間,建物に無償で居住する権利を認める(短期配偶者居住権)というものです。
これは,遺産分割や遺言により不動産が生存配偶者以外に相続・遺贈された場合に,生存配偶者が転居するために必要な期間(遺産分割による場合には遺産分割完了または相続開始から6か月,それ以外の場合には取得者による消滅申し入れから6か月),建物に居住する権利を保障するというものです。
もう一つは,遺言・遺産分割により,建物の帰属とは独立して相続開始時に当該建物に居住していた生存配偶者に無償の居住権を付与する(配偶者居住権)というものです。
自動的に発生する短期居住権と異なり,こちらは遺言により定めるか,遺産分割において付与する旨の合意が必要になりますが,期間は原則として終身となります。
この規定が設けられた趣旨ですが,これまでは生存配偶者が住居に引き続き居住するためには,遺産分割や遺言で当該建物を取得するか,当該建物を取得した者との間で別途契約をする必要がありました。そのため,遺産分割の自由度が大きく制限されたほか,配偶者以外が取得した場合,取得者が居住を認めない場合には配偶者が転居を余儀なくされるという不都合がありました。そのほかにも,無償での使用は居住権保護としては不十分(使用貸借)という点もあります。
今回,配偶者居住権が設けられたことにより,例えば「自宅は長男に相続させるが,配偶者は自宅に居住する権利を保障する」といったような対応が可能になり,例えば自営業の店舗兼住宅について事業の実態に沿った相続をすることや,いわゆる二次相続時の紛争予防などの対策がとれるようになります。
もっとも,配偶者居住権については建物とは独立して遺産(相続税)の査定対象となりますが,その算定方法については,法務省からの試案が示されるのみで,税務上の取り扱いは決まっていません。
また,配偶者居住権は登記しておく必要があります(不動産登記法81条の2)が,登記義務者は建物の所有者であり,所有者が登記を拒絶した場合にどうやって早期に登記を実現するか,など今後の課題がなお残されています。
多少,見切り発車の感じが否めない制度ではありますが,それでも配偶者居住権制度は,高齢化社会の中で生存配偶者の権利を手厚く保護する必要がある,という今回の改正趣旨を実現する目玉制度として,また配偶者の居住権を巡る紛争が実務上も少なくないことに照らしても,今後の活用が期待されます。
配偶者居住権を確実に保障するためには遺言が必要です。本コラムでは紙面の都合上省略しておりますが,配偶者居住権にはそのほかにも諸々の要件や規定がありますので,この制度を活用されたいとお考えの方は,ぜひ弁護士にご相談ください。
もちろん,施行日である2020年4月までご壮健でおられる必要があるのはいうまでもありませんが……
次回は「遺留分」の取り扱いの変更についてご説明する予定です。