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キッチンドリンカーではないでしょうか。

野口由美

野口由美

テーマ:症例紹介

「夕食を作りながら、毎日、台所でお酒を飲んでしまっていて、
完全にアルコール依存だなって悩んでいます。
それに、最近、頭が働かない感じがして、危機感を感じているんです。」
とのご相談を受けました。

血液検査結果からは低血糖がみられ、さまざまなお悩みも低血糖が引き起こしている可能性が考えられました。
今回は、なぜ低血糖になるのか、低血糖が引き起こすさまざまな症状について解説し、さらに低血糖対策についてお話しします。

キッチンドリンカーでしょうか?


「このところ、頭が働かない感じがして、とても困っています」
と言って来院されたのは、40代の会社員、幸恵さんです。
小柄で、ほっそりした女性です。

「それに、物忘れも多いんです。
この前なんか、午前中には、たしかに覚えていた大切な約束を、午後になってすっかり忘れてしまって、すっぽかしてしまい、冷や汗をかきました。
約束をしても、よく時間に遅れてしまいます。
とくに、生理前は、いらいらしたり、ぼーっとしたりしてしまいますね。

ダメだなと思うのは、夕食の準備をしながら、毎日アルコールを飲んでしまうことです。
キッチンドリンカーですよね。
自分でも、アルコール依存気味だなと感じていて、このままではいけないと思うのですが、何をどうしたらいいのかわかりません。

それに、いつも、なんとなく息がしにくくて、息苦しさを感じます。
なんだか力がでない感じがするんです。
のどが詰まった感じもします。

病院を受診して、血液検査したんですけど、まったく異常はないと言われました」

血液検査から栄養解析


それでは、血液検査を見てみましょう。
たしかに、肝機能、腎機能を見る限りでは異常はありませんね。
けれども、栄養療法の観点からみると、問題と思われる所見がみられますよ。

まず、血糖値が50ですよね。
これはあきらかに低血糖です。
採血した時、体調悪くなかったですか?

「実は、採血するときすごく気分悪くなって、採血の後、ベッドでしばらく寝させてもらったんです。
採血で気分が悪くなったのかと思っていたけど、低血糖のせいだったんですね」

中性脂肪も低いので、日中なんども低血糖をおこしていることがうかがえる所見です。

「私、糖尿病でもないのに、低血糖って、どういうことでしょう」
そうですよね。
疑問に思いますよね。
血糖値についてお話ししましょう。

低血糖が引き起こすさまざまな症状


食事をとると、血糖値は上昇して緩やかにピークを迎え、そして緩やかに下がっていきます。
食後2時間もすると食前の値くらいに戻ってしまいます。

血糖値が下がってくると、肝臓からグリコーゲンが分解され、血中にグルコースを送りこみます。
これ以上血糖値が下がらないようにしているのです。

こんなふうにして、一日中、血糖値は一定範囲内に保たれます。
ところが、そもそも、肝臓にグリコーゲンを十分貯められていない人は、グリコーゲンを使えません。
そのため、食後、血糖値が下がり続けて、低血糖になってしまうわけです。

低血糖状態は、からだにとって緊急事態です。
すぐにアドレナリン、ノルアドレナリンを出して、血糖値を上昇させます。
ところが、このアドレナリンが分泌されると、交感神経が刺激されますから、心身ともに緊張状態に入ってしまいます。
そのため、体に力が入り、感情面も不安定になります。
いらいらしたり、ざわざわして不安になったりする人もいます。

低血糖の問題はもうひとつあります。
低血糖になると、からだは糖分を欲しますので、甘いものが異常に食べたくなるんですね。
ここで糖分を一気にとってしまうと、急激に血糖値が上昇します。
すると、血糖値を下げようとインシュリンが分泌され、今度は血糖値が急降下します。
そして、ふたたび低血糖におちいってしまうわけです。

こんなふうに血糖値が乱高下するとき、一番影響をうけるのは脳です。
頭がぼーっとして、霧がかかったようになり、物事を考えられなくなります。
忘れ物をしたり、重要な約束をすっぽかしてしまうのも、血糖値の乱高下が原因かもしれません。
また、低血糖のときは、筋肉の働きも低下しますので、からだに力が入らないように感じます。
低血糖がひどい時は起きていられなくなり、横になりたくなるでしょう。

「わぁ、なんか、すごく心当たりがあります!
夕方になると、チョコレートとかクッキーが食べたくなって、止まらなくなっていました。
はずかしいです」

血糖値の仕業なので、幸恵さんが悪いわけではないんですね。
恥ずかしく思うことはないんですよ。
じょうずに血糖コントロールをおこなって、血糖変動を少なくすることで、感情の浮き沈みがなくなり、穏やかになります。
さらに、頭もクリアーになり、さくさく仕事をこなすことができるでしょう。

夜間低血糖


昼間に低血糖をおこしている人は、夜間、睡眠中はどうなっているでしょう。

寝ている間は食事をとっていませんから、夜間、低血糖をおこしている可能性がたかいですよね。
夜間低血糖をおこすと、アドレナリン、ノルアドレナリンが分泌され、からだは緊張し力が入ります。
そのようなとき、食いしばったり、歯ぎしりしたりしています。
寝違えて首が回らなくなったり、肩こり、腰痛もひき起こします。
朝、寝違えて首が痛いなぁとか、
朝起きたら、肩こりや腰痛がひどいということはありませんか。

「あります。ずっと腰痛、肩こりで悩んでいます。
原因は夜間低血糖だったんですね」

本当にキッチンドリンカーなのか


夕食の準備をしながら、毎日アルコールを飲んでしまうと言われていましたね。
キッチンドリンカーだなぁとか、アルコール依存気味だなと感じているとも言われました。

夕食の準備をするのは何時ごろですか。
この時間帯、とてもお腹がすいていませんか?
なにかで元気づけないと料理なんてやってられないよ、という感じはないですか?

「あぁ、たしかに、そうですね。
夕食を作っているときは、いつも、とてもお腹がすいています。
料理しながら、つまみ食いをして、お酒を飲んでいますね。
たしかに、アルコールを飲んで、やる気を出しているところ、あると思います」

これは、アルコールでドーピングしているんですね。
ドーピングで口にするものって、人によってさまざまです。

幸恵さんのように、夕食を作りながらアルコールとって、お酒でやる気を出している人もいますし、

一方、毎朝、コーヒーがないと動けない、やる気が出ないというのは、カフェインでドーピングをしているということなんです。

この状態の時は低血糖になっている可能性が高いです。
アルコールをやめるには、低血糖対策が有効です。
一番血糖の下がる3-4時ごろに補食をとり、
さらに夕食作る前にも補食をとって、
血糖値を一定に保つことができると、アルコールに依存しなくてもやる気をだすことができますよ。

低血糖を防ぐために注意したいこと


低血糖を予防するために、お食事を選ぶときに注意していただきたいことがあります。
キッチンドリンカーをやめるには、低血糖対策が必要と言いました。
逆に、低血糖を防ぐためにも、アルコールはやめたほうがいいのです。

アルコールを控える


アルコールをとると、肝臓は、アルコールの解毒をしなくてはいけなくなります。
すると、グリコーゲンを分解する仕事までは、手が回らなくなってしまい、ますます血糖が下がってしまうのです。

少量の飲酒にもかかわらず、気分が悪くなり倒れてしまうような経験をされたかたもいらっしゃるかもしれません。
大量に飲酒していない場合でも、低血糖は起こりえます。
血糖コントロールのためにもアルコールは控えましょう。

カフェインを控える


カフェインは低血糖を引き起こします。
一日、何度もコーヒーを飲む習慣のある方は要注意です。
「えー、コーヒーもですか?
一日、何杯も飲んでいました」

幸恵さんもよくコーヒーを飲んでいたようです。
現代は、カフェだけでなく、コンビニなど、いたるところでコーヒーを飲むことができます。
よほど注意していないと、毎日、何杯もコーヒーを飲むことになってしまいます。

カフェインは交感神経を刺激します。
それで、コーヒーを飲んでやる気をだしているんですね。
けれども、交感神経を刺激するということは、低血糖を招くということでもあります。
低血糖を起こしやすい人は、カフェインを控えたほうがいいです。

また、カフェインは脳に直接影響を及ぼします。
徹夜で頑張るとき、コーヒーを飲んだりしますよね。
多くの人が、コーヒーで頭が冴えたり、やる気が出ることを経験的に知っています。
カフェインが脳に直接影響することを、みんな実感しているんですね。

気持ちが不安定な時、カフェインが脳に影響を及ぼし、さらに不安になったり、落ち込みやすくなります。
このため、感情面が不安定なときは控えるようにお伝えしています。


カフェインにはもうひとつ注意したい点があります。
カフェインには利尿作用があるため、せっかく吸収したミネラルやビタミンが尿とともに排泄されてしまいます。
頭の働きや、感情の安定には、神経伝達物質が必要ですが、これらの産生には、ビタミンやミネラルが必須です。
ミネラルやビタミンが排泄されてしまい不足していると、神経伝達物質をうまく作れなくなってしまいます。

コーヒーのほか、紅茶、緑茶、ココア、チョコレートなどもカフェインを多く含んでいます。
お茶を飲むときは、ハーブティーや番茶などカフェインを含まない飲み物を選びましょう。

小麦粉製品を控える


小麦粉製品であるパン、パスタ、うどんなどをやめましょう。

「あー、パン好きなんですよね。
体調悪いときなんか、唯一食べられるものが柔らかいパンだったりします」

そうですよね。
ただ、小麦粉製品は血糖値を急上昇させるんですよ。
さらに、腸内環境や脳にも影響することがわかっています。

グルテンを分解する酵素が不足している人が多く、未消化物質が多く腸に到達します。
すると、腸管壁の細胞間隙を開け、リーキーガットの原因となり、アレルギーや炎症を引き起こします。
さらに、脳関門を通り抜け、脳内の受容体と結合し、神経精神症状を引き起こします。

小麦やカフェインなどは、体調が良くなったら、また再開することも可能です。
体調の良くない今だけでもやめてみることをおすすめします。

低血糖対策としての補食


日中、低血糖を防ぐために、補食をすすめています。

スープやお味噌汁、おにぎり、蒸かしたサツマイモなどを食後、適宜、口にしていると、日中の血糖値が正常範囲内に入ってくるようになります。
そうなると、疲労感や不安感は軽くなり、血糖の安定とともに、感情も安定します。

さらによいことに、日中の血糖値が穏やかになると、夜間低血糖もなくなります。
日中の血糖コントロールは、夜の低血糖対策のため、ひいては翌朝、気持ちよく起きるためにも大切です。

「とてもよくわかりました。
心当たりあることがたくさんあって、ぜひ、毎日の食事に取り入れてみたいと思います。

アルコール依存かと思って、すごく気にしたんですけど、低血糖のためかもしれないと聞いて、すごく気持ちが楽になりました。
誰にも相談できなくて、アルコール依存の病院を受診しないといけないのかなと悩んでいたんですよ。
補食、やってみますね」

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野口由美
専門家

野口由美(医師)

クリニック千里の森

患者一人ひとりの個性を重視した「患者ファースト」の治療方針のもと、薬に頼らない医療を提供。近代西洋医学の最前線で培った豊富な知識、自身の体験を裏付けに、幅広い選択肢の中から最適な治療法を提案します。

野口由美プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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