海外資産が相続を複雑化させる!?後見人・相続人を襲う実務負担について
皆様、こんにちは。
株式会社大阪セレモニー代表の山田泰平です。
遺産相続の話し合い(遺産分割協議)では、相続人それぞれが、どの財産をどれだけ受け取るかを決めていきます。
例えば、ご兄弟二人で遺産を分ける際、
「私が預貯金1000万円を相続し、兄がその時点での評価額1000万円の株式を相続する」
といった形で、お互いが納得の上で遺産分割協議書にサインをすることもあるでしょう。
しかし、もしその数ヶ月後、兄が相続した株式の株価が、経済情勢の悪化などで暴落し、価値が500万円にまで半減してしまったとしたら…。
兄の立場からすれば、
「弟は現金の1000万円をそのまま手にしたのに、自分の財産は半分になってしまった…」
「分割した時は同じ価値だったはずなのに、これではあまりにも不公平だ!」
と、強い不満と不公平感を抱くのではないでしょうか。
逆に、株価が急騰した場合、今度は現金を受け取った側が不満を感じるかもしれません。
このように、遺産分割後の財産の価値変動は、相続人間の感情的なしこりを生み、深刻なトラブルの原因となる可能性があります。
そこで今回は、この「遺産分割後の価値変動による不公平感」という難しい問題について解説していきます。
【結論】遺産分割後の価値変動による協議のやり直しは原則不可。公平を期すなら換価分割や代償分割の工夫、専門家相談を
遺産分割協議が成立し、その内容に基づいて財産を分け合った後で、特定の財産(株式、不動産、投資信託など)の価値が変動したとしても、原則として、その価値変動を理由に遺産分割協議をやり直したり、他の相続人に差額の補填を求めたりすることはできません。
なぜなら、遺産分割協議は、あくまで協議が成立した時点での財産の評価と、それに基づく相続人全員の合意によって有効に成立するものだからです。
協議成立後の価値変動のリスクは、原則としてその財産を取得した相続人が負うことになります。
したがって、このような将来的な不公平感を避け、トラブルを未然に防ぐためには、
- そもそも価値変動リスクのある財産を、現物分割(そのままの形で分ける)以外の方法で分割することを検討する。
- 株式や不動産を売却して現金化し、その現金を分配する。
- 価値変動リスクの少ない財産(預貯金など)を相続する人が、株式などを相続する人に対して、公平性を保つための調整金(代償金)を支払う、といった柔軟な合意をする。
- 遺産分割協議書に、将来の価値変動については、お互いに異議を申し立てないといった趣旨の条項を盛り込んでおく。
- 遺産分割の段階から、弁護士や税理士などの専門家に相談し、将来的なリスクも考慮した上で、最も公平で納得感のある分割方法についてアドバイスを受ける。
ことが非常に重要となります。
1. なぜ遺産分割後の価値変動が問題になるのか?
評価時点と現実のズレ:
遺産分割協議は、ある特定の時点(通常は相続開始時または分割時)の財産評価を基準に行われます。
しかし、株式や不動産、投資信託、あるいは外貨建て資産などの価値は、経済情勢や市場の動向によって日々、時には激しく変動します。
結果的な不公平感:
協議成立時には公平な分割だったはずが、その後の価値変動によって、結果的に各相続人が手にした財産の価値に大きな差が生まれてしまい、「あの時、あちらを相続していれば…」といった不公平感や後悔が生じます。
人間関係への影響:
この不公平感が、兄弟間の不信感や、その後の関係悪化に繋がってしまうことがあります。
2. 遺産分割協議のやり直しは、法的に可能なのか?
一度、相続人全員の合意によって有効に成立した遺産分割協議は、非常に強い法的拘束力を持ちます。
そのため、後から「気が変わった」「不公平だ」という理由だけで、一方的にやり直しを求めることはできません。
ただし、以下のような極めて例外的なケースでは、遺産分割協議のやり直し(合意解除)や、無効・取消しが認められる可能性があります。
相続人全員の合意がある場合:
もし、価値変動による不公平を是正するために、相続人全員が「協議をやり直しましょう」と合意できるのであれば、再度協議し、新たな遺産分割協議書を作成することは可能です。
協議の前提となる重要な事実誤認があった場合:
例えば、株式の評価額を算定する際に、重大な計算ミスや、前提となる情報に誤りがあった場合など。
詐欺や強迫によって協議が成立した場合:
他の相続人に騙されたり、脅されたりして、不本意な内容で合意してしまった場合。
他の相続人による財産隠しが後で発覚した場合。
しかし、「協議後の株価の暴落」や「不動産価格の変動」といった、将来の予測が困難な市場の変動は、原則として協議をやり直す理由にはなりません。
3. トラブルを避けるための分割方法の工夫
将来の価値変動リスクによる不公平感を避けるためには、遺産分割の方法そのものを工夫することが有効です。
換価分割(かんかぶんかつ):
価値変動リスクのある株式や不動産などを、まず売却して現金化し、その現金を相続人間で分配する方法です。
メリット:全ての相続人が、価値の変動しない「現金」で、公平に遺産を受け取ることができます。最もトラブルが少ない方法の一つです。
デメリット:売却に時間がかかる、希望価格で売れるとは限らない、売却費用や譲渡所得税がかかる、思い出の品を手放すことになる、といった点があります。
代償分割(だいしょうぶんかつ)の工夫:
株式を相続する兄と、現金を相続する弟のケースで考えてみましょう。
例えば、株式の評価額を1000万円と算定する際に、将来の変動リスクを考慮して、協議の上で少し低め(例:900万円)に評価し、その分、兄が現金も少し多くもらう、といった調整をすることが考えられます。
あるいは、弟が受け取る現金を少し多め(例:1050万円)にして、兄が負う価値変動リスクを補填する、といった柔軟な合意も可能です。
これらは全て、相続人全員の合意があって初めて成立します。
共有:
株式を兄弟で共有名義にすることも可能ですが、議決権の行使や、将来の売却時に全員の同意が必要になるなど、管理が非常に煩雑になるため、お勧めできません。
4. 遺産分割協議書に盛り込んでおくべき「清算条項」
遺産分割協議のトラブルを予防するために、協議書の最後に「清算条項」と呼ばれる条項を入れておくことが一般的であり、非常に重要です。
清算条項とは:
遺産分割協議書に記載された内容以外に、お互いに何らの債権債務関係がないことを確認し、今後、この遺産分割に関して一切の異議を申し立てない、という趣旨の条項です。
①文例:
「相続人全員は、本協議書に記載する遺産のほかには、何らの遺産が存在しないことを確認し、また、本協議書に定めるほか、何らの債権債務が存在しないことを相互に確認する。」
②効果:
この条項を入れておくことで、遺産分割後の価値変動などを理由に、後から協議のやり直しを求められるリスクを低減させることができます。
【まとめ】分割後の価値変動は自己責任が原則。換価分割や専門家相談で将来の不公平感を防ごう
遺産分割協議は、その成立時点での合意が全てであり、その後の価値変動は、原則としてそれぞれの相続人が引き受けるべきリスクとなります。
「あの時、あちらを選んでいれば…」という後悔は、誰にでも生じる可能性がありますが、それを理由に合意を覆すのは非常に難しいのが現実です。
だからこそ、分割方法を決める段階で、将来のリスクをどれだけ予見し、対策を講じられるかが重要になるのだと思います。
では、本日のポイントをまとめます。
- 遺産分割協議が成立した後の、株式や不動産の価値変動を理由に、協議のやり直しを求めることは原則としてできない。
- 価値変動のリスクは、その財産を取得した相続人が負うのが基本。
- 将来の不公平感を避けるためには、価値変動のある財産を売却して現金で分ける(換価分割)のが最も確実な方法の一つ。
- 遺産分割協議書に「清算条項」を盛り込むことで、後の異議申し立てを防ぐ効果がある。
- 価値変動リスクのある財産の分割は、弁護士や税理士などの専門家に相談”し、公平で納得感のある分割案を作成することが重要。
相続は、時に、家族の絆を試す試練ともなり得ます。
将来起こりうるリスクも考慮し、お互いが納得できるまで、誠実に、そして冷静に話し合うこと。
それが、故人様が遺してくれた財産を、争いの種ではなく、家族の絆を深める糧とするための、最も大切な姿勢ではないでしょうか。
株式会社大阪セレモニー



