「遺言書に『全財産を寄付』と…残された家族の生活はどうなる?」
皆様、こんにちは。
株式会社大阪セレモニー代表の山田泰平です。
ご家族がお亡くなりになり、遺品整理や財産調査を進める中で、故人様宛に税務署や市区町村役場から、思いがけない「督促状」や「催告書」が届くことがあります。
それは、故人様が生前に納めていなかった、”多額の滞納税金”の存在が明らかになった瞬間です。
所得税、住民税、固定資産税、あるいは事業をされていたなら消費税など…。
税金の滞納は、単なる借金とは異なり、公的な義務であるため、より厳しい取り立てが行われる可能性もあります。
放置しておくと、相続財産が差し押さえられるといった事態にもなりかねません。
そこで今回は、この非常に深刻で、かつ対応を誤ると大きな不利益を被る可能性がある「滞納税金の相続」について、
- なぜ滞納税金も相続の対象になるのか?
- 相続人が負う支払い義務の範囲
- 滞納税金の有無を調べる方法
- 対処法としての「相続放棄」と「限定承認」
- 相続放棄をする場合の注意点
などを、分かりやすく解説していきます。
【結論】故人の滞納税金は相続人が支払い義務を承継。相続放棄が有効だが3ヶ月の期限あり、早期の専門家相談が必須
故人様が生前に納めていなかった税金(滞納税金)と、それに伴う延滞税や加算税などは、法律上の「債務」として、原則として相続人が引き継ぎ、支払う義務を負います。
これは、相続がプラスの財産だけでなく、こうした公的な支払い義務を含むマイナスの財産も全て承継する「包括承継」だからです。
この支払い義務から逃れるための最も確実な方法は、家庭裁判所で「相続放棄」の手続きを行うことです。
相続放棄をすれば、プラスの財産も相続できなくなりますが、滞納税金を含む一切の債務の支払い義務がなくなります。
ただし、相続放棄には、「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、滞納税金などの存在を知った時から3ヶ月以内」という厳格な期限があるため、迅速な判断と行動が求められます。
したがって、故人に滞納税金があることが判明した場合、
- まずは、滞納している税金の種類と正確な金額(延滞税含む)を、税務署や市区町村役場に確認する。
- 同時に、故人のプラスの財産も全て調査し、財産の全体像を把握する。
- その上で、相続する(滞納税金も支払う)のか、相続放棄をするのかを、3ヶ月の期限内に決定する。
といった対応をしてください。
税金の滞納問題は非常に専門的で、かつトラブルになりやすいので、判明した時点ですぐに税理士や弁護士に相談することが、最も重要かつ賢明な対処法です。
1. なぜ税金の滞納も相続されるのか? 公法上の義務の承継
相続の原則:
相続は、故人の財産に関する権利と義務を全て引き継ぐものです。
公法上の義務:
税金を納める義務は、国や地方公共団体に対する「公法上の義務」ですが、これも故人の一身に専属するものではなく、相続の対象となると解されています。
延滞税・加算税も含む:
本税だけでなく、納付が遅れたことによるペナルティである延滞税や、申告漏れなどによる加算税といった付帯税も、全て含めて相続人が引き継ぐことになります。
2. 相続人が負う支払い義務の範囲
相続人が複数いる場合、滞納税金の支払い義務は、原則として、各相続人がそれぞれの法定相続分に応じて分割して承継することになります。
例えば、滞納税金が300万円で、相続人が配偶者と子2人だった場合、配偶者が150万円、子がそれぞれ75万円の支払い義務を負う、というのが基本的な考え方です。
ただし、税務署などの徴収機関は、各相続人に対して、法定相続分の範囲内で納付を求めるのが一般的です。
3. 滞納税金の有無を調べる方法
故人に滞納税金があるかどうかを調べるには、以下の方法があります。
①遺品整理と郵便物の確認:
税務署や市区町村役場、年金事務所などから送られてきた「納税通知書」「督促状」「催告書」などがないか、徹底的に探します。
固定資産税納税通知書や、確定申告書の控えなども手がかりになります。
②役所への問い合わせ:
固定資産税、住民税、国民健康保険税など:故人が住んでいた市区町村役場の税務課や保険年金課などに、相続人として問い合わせ、滞納の有無や金額を確認します。
所得税、消費税、贈与税など(国税):管轄の税務署に問い合わせます。
③問い合わせの際の注意点:
電話では教えてもらえないことが多いため、相続人であることを証明する書類(戸籍謄本など)や、本人確認書類、印鑑などを持参して、窓口で相談するのが確実です。
プライバシーの問題から、全ての情報をすぐに開示してもらえない場合もあります。
4. 対処法①:相続放棄(最も確実な回避策)
プラスの財産よりも、滞納税金を含むマイナスの財産の方が多いと判断した場合、最も有効なのが「相続放棄」です。
効果:
相続放棄をすれば、最初から相続人ではなかったことになるため、滞納税金の支払い義務も一切なくなります。
期限:
「自己のために相続の開始があったことを知った時(通常は故人の死亡を知った時)から3ヶ月以内」です。
期限の伸長:
もし、3ヶ月以内に財産調査が終わらず、相続放棄すべきか判断できない場合は、家庭裁判所に「熟慮期間伸長の申立て」を行うことで、期間を延長できる可能性があります。
死後、長期間経ってから滞納の事実が判明した場合:
故人の死亡から3ヶ月以上経過していても、「滞納の事実を知ってから3ヶ月以内」であれば、相続放棄が認められる可能性があります。
これには特別な事情があったことを裁判所に説明する必要があるため、必ず弁護士に相談してください。
5. 対処法②:限定承認
プラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いか不明確な場合、「限定承認」という選択肢もあります。
これは、相続したプラスの財産の範囲内でのみ、滞納税金などの債務を支払う方法です。
しかし、手続きが非常に複雑で、相続人全員で行う必要があるため、実務上選択されるケースは多くありません。
6. 相続放棄をする場合の注意点
他の財産も全て放棄:
滞納税金だけでなく、預貯金、不動産、株式など、全てのプラスの財産も相続できなくなります。
次順位の相続人への影響:
あなたが放棄すると、次の順位の相続人(親や兄弟姉妹など)に支払い義務が移ります。
必ず連絡してあげましょう。
法定単純承認に注意:
相続放棄前に、故人の財産を処分(預貯金の引き出し・使用など)してしまうと、相続を承認したとみなされ、放棄できなくなる可能性があります。
滞納税金が発覚したら、故人の財産には絶対に手を出さず、すぐに専門家に相談しましょう。
【まとめ】故人の滞納税金は相続債務。発覚後は放置せず、相続放棄も視野に専門家と即相談を
故人様が生前に納めていなかった税金は、残念ながら、残されたご家族が支払い義務を引き継ぐことになります。
その存在を知った時の衝撃は大きいと思いますが、最もやってはいけないのは、見て見ぬふりをして放置してしまうことです。
延滞税は日々増え続け、最終的には財産の差し押さえという事態にもなりかねません。
では、本日のポイントをまとめます。
- 故人の滞納税金(延滞税含む)は、”相続人が法定相続分に応じて支払い義務を負う”。
- 滞納の有無は、役所や税務署に問い合わせて確認する。
- 支払い義務を免れるためには、”3ヶ月以内に相続放棄”をするのが最も確実な方法。
- 相続放棄をする場合、”故人の財産には一切手を付けない”ことが重要。
- 滞納の事実を知ったら、”まず弁護士や税理士に相談”し、財産調査と今後の対応を検討する。
- 相続放棄の期限が過ぎていても、事情によっては認められる可能性があるので、諦めずに専門家に相談する。
故人が遺した負の遺産に、残された家族が苦しめられることがないよう、法律は相続放棄という制度を用意してくれています。
その権利を正しく理解し、適切なタイミングで専門家の助けを借りて、ご自身とご家族の生活を守るための最善の選択をしていただきたいと思います。
株式会社大阪セレモony