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尊厳死とリビング・ウィル

2010年2月18日 公開 / 2014年5月23日更新

コラムカテゴリ:法律関連


 渉外業務にも様々なものがありますが,その中でとりわけ印象深いものが尊厳死のため英文のリビング・ウィル(Living Will)の作成を依頼されるケースです。
 リビング・ウィルとは,「末期状態に陥った場合に生命維持治療の中止を求める,という意思を意思決定能力のある時に予め表明しておく文書」(英米法辞典,東京大学出版会より)のことを指します。その他,臓器提供の意思や葬儀方法の指示が含まれることもあります。ある遺言作成を依頼されました日本人と米国人の老夫婦は,日米両国で生活をしておられるため,延命措置は不要だという英文のリビング・ウィルの作成も望まれました。そこには,将来不治の病にかかった場合には延命措置は望まないという強い希望が明らかにされるとともに,死後の肉体は不要なので眼,臓器等で役に立つものはすべて利用して下さいと献体についての条項も含まれておりました。
 通常遺言は本人の死後にしか発効しませんので,遺言の中で延命措置は不要であると明記していても,場合によっては役にたたないことがあります。そこで,アメリカでは「事前の治療行為に対する指示」(Advance health care directives)をするために生前に効力を有するリビング・ウィルが作成されることが多くあります。州によって要件が異なることがあるので,上記の依頼者の際にはハワイ州の要件を調べ,それに合致するリビング・ウィルを作成しました。一般的な要件には,

(1)本人に意思能力があること
(2)本人が治療に関する希望を言えない状態になったときの治療に関する指示がなされていること
(3)本人の署名とそれが本人の署名であることを認証する2人の証人の署名があること
(4)州によっては公証人の認証を得ること(ハワイではこの要件なし)

なお登録は要件ではないのですが,登録しておけば関係医療機関等に連絡してもらえるのでハワイに登録しておきました。また,このリビング・ウィル全文を日本語に訳し,原本の翻訳である旨の弁護士の証明も付して,日本の医療機関における本人の意思確認のための資料としていただくこととしました。

 現行法の下では,本人の同意があっても患者の死期を早める行為は殺人罪(刑法199条)又は嘱託殺人罪(刑法202条後段)に該当するとして医師が刑事責任を問われることがあります。しかし,植物状態にあり回復の見込みがない患者の生命維持装置の取り外しは,患者に人間としての尊厳ある死を与えるという正しい目的を持った行為である限り,違法性が阻却される,すなわち刑法犯罪にならないのではないかという議論がなされています。これが尊厳死をめぐる問題です。
リビング・ウィルにより生命維持装置は不要であることを明らかにしておけば,装着後の取り外しとは異なり,患者の意思を尊重して,生命位置装置を最初からつけることなく尊厳死ないし自然死を迎えることができると思われます。日本でも健康な時にかかる意思表示を公正証書にしておき,家族を通じて医師に本人の意思として示すことができれば,医師による難しい判断の助けになるのではないかと思います。

この記事を書いたプロ

小原望

国際取引・契約を取り扱う弁理士

小原望(小原・古川法律特許事務所)

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