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安楽死について

小原望

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学生時代に医師であり小説家であった森鴎外の「高瀬舟」という「安楽死」をとりあげた小説を読んだことがある。またアメリカに留学していた頃にカレン・クゥインラン(Karen Quinlan)という植物人間になった女性の親が尊厳死を求めて生命維持装置を取り外すことの許可を求める訴訟を提起し,それが認められた(1976年3月31日)という報道が大々的にされたことを覚えています。

 「安楽死」と「尊厳死」は同じ意味に用いられることがありますが,厳密には異なる言葉です。安楽死は,通常は患者の死に至るまでの苦痛を除去するために,患者の死期を早めることをいいますが,尊厳死は治療行為の中止が患者の苦痛の除去を目的としていないという点で安楽死と異なります。「安楽死」とは死期が迫っている患者の肉体的な苦痛を緩和・除去して,安らかな死を迎えさせる行為をいいます。これにもいくつかの種類があります。
(1)純粋安楽死
薬物の使用等により,生命の短縮を伴うことなく患者の肉体的苦痛を緩和・除去する場合
(2)間接的安楽死
肉体的苦痛の緩和・除去のための薬物の使用等が,副作用として生命の短縮を伴ってしまう場合
(3)消極的安楽死
 苦痛を長引かせないために,積極的な延命措置をあえて講じない場合
(4)積極的安楽死
苦痛を長引かせないために,積極的に死期を早める場合

 これらのうち(1)の純粋安楽死は医療の目的に照らして何ら問題はありませんが(2)の間接的安楽死は議論のあるところですが,判例では「たとえ生命の短縮の危険があったとしても苦痛の除去を選択するという患者の自己決定があれば許容され,患者の明示的な意思表明がない場合には,推定的意思で足りるとしています。(3)の消極的安楽死もこれと同様に解されると思われます。
 最も問題となりうるのは(4)の積極的安楽死ですが,この点に関する1995(平成7)年3月28日の横浜地裁判決(東海大安楽死事件)は,積極的安楽死の認められる用件として,①患者が耐えがたい肉体的苦痛に苦しんでいること,②患者は死が避けられず,その死期が迫っていること,③患者の肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くし,他の代替的手段がないこと,④生命の短縮を承諾する患者の明示の意思表示があること,という四つの要件を挙げています。
 しかし,現実には,これらの要件のすべてを充足することは難しく,安楽死が争われたほとんどのケースで医師が有罪となっています。

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小原望
専門家

小原望(弁護士)

小原・古川法律特許事務所

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