訪日342万人で8月過去最多 民泊市場に追い風

※本稿では、当社が沖縄県内で実際に運営・管理に関わっている宿泊施設のデータをもとに考察しています。オーナーおよび物件の特定を避けるため、所在地、施設名、詳細な物件情報などは伏せて記載しています。また、宿泊者の国・地域については、予約時に確認できる情報をもとに集計しています。
【7月の訪日外客数は344万人、それでも少し気になったことがありました】
8月19日、日本政府観光局(JNTO)から2026年7月の訪日外客数が発表されました。7月の訪日外客数は3,442,100人で、前年同月比0.1%増、7月としては過去最高となっています。韓国、台湾、シンガポール、米国、フランスなど17市場が7月として過去最高となり、特に台湾は初めて月間70万人を超えています。数字だけを見れば、日本のインバウンド市場は引き続き非常に大きな規模で動いていることが分かります。
私も沖縄で民泊を運営していますので、こうした数字は当然気になります。ただ、今回の発表を見ながら私が思い出していたのは、日本全体の訪日外客数ではなく、私が実際に運営に関わっているある2つの物件の宿泊者データでした。
この2物件は、沖縄本島の同じようなエリアにありますので、私は当初、宿泊するお客様の国籍もある程度似た構成になるのではないかと思っていました。もちろん、立地や物件タイプ、グレード、定員、宿泊単価、開業時期などが違えば多少の差は出るでしょう。ただ、実際の予約データを見てみると、私が想像していた以上にはっきりと違いが出ています。
そこで少し気になりました。同じ沖縄を訪れている外国人観光客であり、さらに同じようなエリアにある宿泊施設なのに、なぜ選ばれる物件によって国や地域の構成がここまで変わるのだろうか、と。
【同じエリアでも、泊まっている人はかなり違いました】
一方はオーシャンビューで定員7名の物件、もう一方は一戸建てで、ジャグジーなどを備えた定員10名のヴィラです。
実際の宿泊者を見ると、一方の物件では日本、台湾、香港、韓国など東アジアのお客様が中心となっているのに対し、もう一方では国や地域の構成がかなり違っています。
考えてみれば、同じエリアにあるからといって、同じようなお客様が泊まるとは限りません。7名まで泊まれるオーシャンビューの物件と、10名まで泊まれるヴィラでは、そもそも利用人数が違いますし、家族なのか、複数家族なのか、友人同士なのかによっても選ばれる物件は変わります。宿泊単価が変われば、当然ターゲットになるお客様も変わってきます。ただ、私はそれだけではないように感じています。
実際に運営していて気になるのが、予約とレビューが積み重なることで、宿泊するお客様の国や地域にも一定の傾向が生まれているように見えることです。たとえば日本人のお客様からの予約が増え、日本語のレビューが蓄積されてくると、その後も日本人のお客様から予約が続くことがありますし、台湾や香港、韓国など東アジアのお客様が多い物件では、その市場からの予約がさらに積み上がっていくことがあります。
この点についてAirbnbの公式情報を確認すると、レビューは単純に新しい順で表示されているわけではなく、デフォルトでは「関連性の高い順」に表示され、レビューが投稿された日付だけではなく、レビューの言語、レビュー投稿者の居住国・地域、レビューの長さ、ゲストの検索フィルターなど、複数の要因によって関連性が判断されると説明されています。たとえばフランスの旅行者がリスティングを見る場合、フランス語で書かれたレビューや、フランスのゲストから投稿された最近のレビューが上位に表示されることがあるということです。
そう考えると、同じ物件を見ていても、日本のお客様と台湾のお客様、あるいはアメリカのお客様では、最初に目にするレビューが同じとは限りません。自分と同じ国や地域の人や、自分が読みやすい言語のレビューが目につきやすければ、「自分たちにも合いそうな宿泊先だ」と感じる材料の一つになる可能性はあるのだと思います。
もちろん、これがそのままAirbnbの検索順位や露出を上げ、同じ国のお客様への表示を増やしているという意味ではありません。そこまでの仕組みはAirbnbの公式情報からは分かりません。ただ、私が実際の予約データを見ていて感じていた「ある国や地域から予約が入り始めると、その市場からの予約が続くことがある」という現象を考えると、レビューの見え方も一つの要因になっているのかもしれません。
最初は小さな違いだったものが、物件のタイプや定員、宿泊単価に加え、これまでどの国や地域のお客様から選ばれ、どのようなレビューが蓄積されてきたのかによって、少しずつ違いが広がっていく。今回2つの物件を比較していて、私はそのようなことも起きているのではないかと考えるようになりました。
【中国からの訪日客が減っても、直接の影響があるとは限りません】
もう一つ、今回の訪日外客数を見ながら、私が以前から気になっていたことがあります。それは、中国本土からのお客様です。香港からのお客様は実際に宿泊されていますが、私が現在運営に関わっている物件では、中国本土からのお客様の宿泊実績はゼロです。
なぜなのか、私自身まだ明確な答えは持っていません。中国本土から沖縄を訪れる旅行者の場合、個人で民泊を予約するよりも、ツアーなどを利用して大型ホテルやリゾートホテルに宿泊する方が多い可能性もあるのではないかと考えていますが、これはあくまで私が実際の宿泊者データを見ながら考えている仮説です。
ただ、ここで重要なのは、中国本土からのお客様がゼロである理由そのものではないように思います。たとえばニュースで「中国からの訪日客が50%減少した」と聞けば、インバウンドを対象にしている宿泊施設にはかなり大きなマイナスに感じます。しかし、もともと中国本土からのお客様が宿泊していない私たちの物件であれば、中国からの訪日客が50%減少したとしても、少なくとも直接的なダメージはありません。一方で、中国市場への依存度が高いホテルや宿泊施設であれば、同じ50%の減少でも影響はまったく違うはずです。
訪日外客数のニュースでは、「中国が増えた、減った」「台湾が過去最高になった」といった国全体の数字にどうしても目が向きます。ただ、実際に宿泊施設を運営する側からすれば、その国から日本へ何人来ているのかと同じくらい、自分の物件がそもそもどの国や地域のお客様から選ばれているのかを見る必要があります。大きな市場の動きと、自分の物件への影響は必ずしも同じではないということです。
【訪日外客数が増えても、すべての民泊に同じお客様が来るわけではありません】
JNTOの今回の発表では、東アジアだけではなく、米国、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、スペインなど欧米の複数市場でも7月として過去最高を記録しています。JNTOは、東アジアや欧米豪・中東を中心に夏季休暇に合わせた訪日需要の高まりが見られたとしています。
ここで、実際に宿泊施設を運営している側から見ると、もう一つ違いがあります。それは国や地域によって、休暇の取り方や予約する時期がかなり違うことです。
ヨーロッパやアメリカなど日本から距離のある国のお客様は、比較的早い段階から旅行を計画していることが多く、私が実際の予約を見ていても80日から120日前に予約が入ることがあります。一方、日本や東アジアのお客様の場合は沖縄までの距離が近く、LCCや那覇への直行便もありますので、1か月以内に予約されるケースもあります。もちろん個人差はありますが、私が運営している物件全体では予約リードタイムは平均すると60日前後です。
これはオーナーから見ると、意外に重要な違いだと思っています。
たとえば2か月先の予約がまだ少ないからといって、すぐに宿泊料金を下げるべきなのか。その物件が日本や東アジアのお客様に多く選ばれているのであれば、そもそも予約が動く時期がまだ来ていない可能性があります。逆に欧米のお客様が多い物件であれば、もう少し早い時期から予約状況を見る必要があるかもしれません。
同じ「予約が入っていない」という状態でも、誰をターゲットにしている物件なのかによって、その意味は変わってきます。
【インバウンドが増えているから民泊を始める、という話でもありません】
こうした訪日外客数のニュースが出ると、沖縄で民泊を始めたいという相談も増えてきます。沖縄には外国人観光客が来ている、インバウンドはこれからも伸びる、それなら沖縄で物件を買って民泊をすれば収益が出るのではないか、という考え方です。
ところが実際に相談を受けてみると、最初の物件取得の段階で話が止まることも少なくありません。
特に県外の方と話をしていて感じるのは、「沖縄の不動産はまだ安い」という認識を持っている方が意外に多いことです。ところが実際に希望するエリアや物件の条件を聞き、予算を確認してみると、その金額では希望する物件を購入することが難しいというケースがほとんどです。
ここにも、私は少し認識のズレがあるように思います。
観光客が増えていることと、その地域で宿泊事業として成立する不動産を適正な価格で取得できることは、まったく別の話です。そして物件を取得できたとしても、外国人観光客が増えているから自分の物件にも同じように予約が入るとは限りません。
物件の立地、広さ、定員、設備、価格帯、写真、レビュー、これまで宿泊したお客様、そしてOTA上でどのようなお客様に見られているのか。その組み合わせによって、同じ沖縄でも宿泊するお客様はかなり変わってきます。
【どの国を狙うのかではなく、この物件は誰に選ばれているのか】
では、外国人観光客が増えている今、民泊は外国人を積極的にターゲットにした方がよいのかと聞かれると、私は一概には言えません。
現在のような為替環境や国際線の運航が安定している状況であれば、外国人のお客様をターゲットにすることには十分な可能性があります。一方で、為替が変わったり、沖縄への渡航環境が変わったりすれば、外国人旅行者だけに依存している物件は影響を受ける可能性があります。そのときには日本人や東アジア、場合によっては沖縄県内のお客様まで含めて考える必要があります。
また、オーナーによって考え方も違います。できるだけ客単価を上げたいという方もいれば、稼働率を重視する方もいますし、建物をできるだけ丁寧に使ってほしい、クレームやトラブルの可能性を抑えたいという方もいます。求める収益と許容できるリスクが違えば、当然ターゲットの考え方も変わります。
今回、2つの物件の国籍データを並べてみて私が一番興味深かったのは、どちらが良い、悪いということではありません。同じようなエリアにあり、同じ私たちが運営していても、物件が違えば宿泊している人たちがここまで変わるということでした。
私は以前まで、立地や定員、設備、宿泊料金などからある程度ターゲットを想定していました。それ自体は今でも必要だと思っています。ただ、実際に運営が始まってからは、こちらが「この国のお客様に来てもらいたい」と考えるだけではなく、実際に誰から選ばれているのかを見た方がよいのかもしれません。
【まとめ】
8月19日に発表された7月の訪日外客数は344万人を超え、7月として過去最高になりました。台湾では単月として初めて70万人を超え、韓国や米国、フランスなど多くの市場でも訪日客が増えています。日本全体で見れば、インバウンド市場の大きさを感じる数字です。
ただ、実際に沖縄で宿泊施設を運営し、その予約データを見ていると、その344万人が同じように各物件へ流れているわけではありません。同じようなエリアにある2つの物件でさえ、実際に宿泊しているお客様の国や地域にはかなり違いがありました。そして、中国本土からのお客様が私たちの運営物件ではゼロであるように、日本全体の国別の増減がそのまま個々の宿泊施設の売上に影響するわけでもありません。
インバウンドが増えているから外国人向けにする、日本人が多いから国内客向けにするというほど単純ではなく、物件そのものの特徴と、実際に選んでいるお客様、予約時期、レビューの蓄積などを見ながら、その物件が市場の中でどのような位置にいるのかを考えていく必要があるのだと思います。
大きな市場データを見ることはもちろん大切です。ただ、その数字を自分の物件にそのまま当てはめるのではなく、実際に自分の物件を選んでいる人を見る。その両方を行き来しながら考えることが、これから沖縄で宿泊事業を続けていくうえでは大切なのではないかと、今回2つの物件のデータを比較して改めて感じました。
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