売れない土地は、本当に売れない土地なのか

多田進吾

多田進吾

テーマ:沖縄不動産



【沖縄で最初に担当した売買仲介】
沖縄で最初に担当した売買仲介案件が、今でも強く印象に残っています。当時はコロナ禍の真っただ中で、宿泊施設を運営していた私自身も予約がすべてキャンセルになり、経営者として厳しい状況に置かれていました。そんな時に、友人から「祖父が所有している土地を売りたいので、相談に乗ってほしい」と連絡をいただいたことが、この案件の始まりでした。

土地の所有者であり、実際の売主は友人のおじい様でした。本来は将来、お孫さんである友人へ相続する予定だった土地でしたが、友人が経営する会社の資金繰りが厳しくなり、おじい様が土地を現金化して支えたいと考えたことから、売却の話が始まりました。相談の窓口となったのは友人でしたが、土地を売却する意思を持ち、その判断をされたのはおじい様です。

【調査を進めると、当たり前が当たり前ではなかった】
案件を引き受け、役所や法務局で調査を進めていくと、想像していた以上に多くの問題が見えてきました。まず驚いたのは、土地の境界が確定していなかったことです。売主であるおじい様はその事実を知っていたものの、相談の窓口となった友人は、その事実を把握していませんでした。

東京で仲介をしていた頃は、境界が確認されていることが当たり前でした。もちろん、売買に際して境界を改めて確認することはありますが、隣接地との境界について合意が得られないまま、長年にわたり登記もされずに残っている案件は、私自身ほとんど経験がありませんでした。今回の土地では、過去に何らかの理由で利害関係者の同意が得られず、境界確定の手続きが止まったままになっており、その後も話し合いが行われることなく、隣接地との境界が曖昧な状態で残されていたのです。

さらに、土地には築50年以上の古家が残っていました。屋根は破損し、室内の天井にも穴が空いており、そのまま利用できる建物ではありませんでした。調査を進めるとアスベストも確認され、一般的な建物よりも解体費用が高くなることも分かりました。そして、もう一つ難しい問題がありました。売主側が希望していた売却価格は、私が近隣相場や過去の取引事例を調査して算出した査定価格のおよそ1.5倍だったのです。

境界が確定していないうえに、築50年以上の古家が残っており、解体にはアスベスト除去費用がかかり、そのうえ価格は査定額のおよそ1.5倍ですので、かなり厳しい条件からのスタートでした。ただ、売主側が高く売りたいと考える理由も理解できました。売却したお金を、お孫さんの会社の運転資金に充てたいという目的があったからです。

一般的に売主側には、過去の高い取引価格や、自分にとって都合のよい情報が届きやすいことがあります。その情報だけを見れば、もっと高く売れるのではないかと考えることも自然ですが、実際に取引されている価格と希望額に大きな差があれば、そのままでは買主様との接点が生まれません。私は、単に「その価格では売れません」と伝えるのではなく、過去の取引事例や近隣相場を一つずつ説明し、希望と市場の間にどの程度の違いがあるのかを理解していただくことから始めました。

【売却価格より先に、手残りと期限を整理する】
この案件で最初に整理したのは、「いくらで売り出すか」だけではありませんでした。「最低限、いくら手元に残れば目的を達成できるのか」「いつまでに売却代金が必要なのか」、この二つについて、売主様と何度も話し合いました。

不動産を売却する時には、少しでも高く売りたい、できるだけ早く売りたい、費用はかけたくない、面倒な手続きは避けたいという希望が出てきます。しかし、取引には買主様もいますので、すべての希望を同時に叶えることはできません。売主様には売主様の事情があり、買主様には買主様の予算や希望があります。その間に立ち、何を優先し、どこまでなら譲れるのかを整理することが、不動産仲介の仕事だと私は考えています。

今回の売主様にとって最も大切だったのは、土地を高く売ることそのものではなく、お孫さんの会社に必要な資金を届けることでした。必要な手残り額と期限が分かれば、その目的を叶えるために、どの問題から解決すべきかが見えてきます。

境界が確定していない状態のままでも、売却できないとは限りません。ただし、一般の買主様にとっては非常に判断しにくい物件になります。一方で、専門知識のある買取業者や不動産会社にとっては、境界未確定であることが大きな値引き材料になりますので、そのまま売却すれば、相場よりも相当安い価格で買われる可能性があり、境界を確定しなければ、現在も売れずに残っていたかもしれません。そこで、費用と時間をかけてでも境界を確定し、一般の方でも安心して検討できる土地へ整える方向で進めることにしました。

【約150万円をかけて境界を確定する】
境界確定に関係する方は、全部で4名ほどいらっしゃいました。測量、登記、行政手続き、利害関係者との調整を含めると、費用は約150万円かかり、期間も最低で2か月から3か月程度を見込む必要がありました。誰か一人でも反対すれば、さらに時間がかかりますし、高齢の所有者もいらっしゃいましたので、本人だけではなく、ご家族や親族に相談していただく必要もありました。

約150万円という金額をお伝えした時、売主様がすぐに納得されたわけではありません。土地を売って資金を得たいのに、売却する前に新たな費用を負担しなければならないのですから、迷われるのは当然です。そこで、最初から一つの方法だけを押しつけるのではなく、二段階で交渉を進めました。

最初は、境界確定によって利益を受ける利害関係者全員で、測量や登記にかかる費用を按分して負担していただく方法を提案しました。ただ、実際には、皆様が費用負担を受け入れる可能性は低いと考えていました。結果として、費用負担への同意は得られませんでしたので、次に、費用は土地の所有者が全額負担する代わりに、境界確定の話し合いと手続きを進めることに同意していただきたいとお願いしました。

一人ずつ事情を説明し、ご家族とも相談していただきながら進めた結果、利害関係者全員から同意を得ることができました。所有者側には約150万円の負担が発生しましたが、境界を確定する手続きへ進められたことは、この案件にとって大きな前進でした。もちろん、約150万円を支払って終わりではありません。その費用を売主様だけの損失にしないために、販売価格や値引き額の調整に反映し、最終的な手残りができるだけ減らないように進めました。

古家についても、測量会社や解体業者から相見積もりを取り、費用だけでなく、作業内容や対応も確認したうえで業者を選定しました。築50年以上の建物でしたので、通常の解体に加えてアスベストを適切に除去する必要があり、その費用も含めて買主様との条件を整理しなければなりませんでした。

【売主と買主が見ていたものの違い】
販売活動では、一般の買主様だけでなく、建売業者や買取業者にも声をかけました。そのうちの一社からは購入の意向もいただいていましたので、売却できないとは考えていませんでしたが、業者へ売却する場合には、当然ながら事業として利益が出る価格まで値下げを求められます。

最終的に購入されたのは、以前からこの地域で家を建てたいと考え、長く土地を探していた方でした。周辺の土地は価格が高く、なかなか予算に合う物件が見つからない中で、今回の土地を知ったそうです。買主様にとっては、希望する地域で予算に合う土地を見つけたことが大きな価値でしたが、最初の条件では、古家の解体費用やアスベスト除去費用を購入後に負担する必要があり、金銭面で折り合いがつきませんでした。

売主様は、会社の運転資金を確保するために、できるだけ高く売りたいと考えています。一方、買主様は、土地の購入費だけではなく、古家の解体や新築工事まで含めた総予算を見ています。同じ土地を見ていても、売主様は売却後に得られる資金を見ており、買主様は購入後に始まる建築計画と総費用を見ていますので、実際には別のものを見ているのかもしれません。

どちらか一方の希望だけを通そうとすれば、取引は成立しません。だからこそ、売主様が最低限必要とする手残り額を守りながら、買主様が負担できる総予算に収まるように、境界確定費用、解体費用、アスベスト除去費用、売買価格を一つずつ整理しました。その結果、売主様と買主様の条件が重なる場所を見つけることができ、売買契約へ進むことができました。

【まとめ】
この案件は、ご相談をいただいてから売却が完了するまで、1年以上かかりました。売主様から当時いただいた言葉を正確には覚えていませんが、長い時間をかけて一つずつ対応したことは伝わり、最後にはとても感謝していただきました。

売却代金は、当初の目的だったお孫さんの会社の運転資金に充てることができました。また、長年曖昧なまま残っていた境界問題も、この売買を機に完全に解決しました。所有者様も土地の近くに住んでいましたので、境界を曖昧なまま残せば、売却後も近隣との関係に不安が残った可能性があります。沖縄の地域では、土地や親族に関する話が周囲へ広まりやすいこともありますので、売却できただけではなく、将来の紛争につながる可能性をなくせたことにも安心していただけたのだと思います。

私にとっては、沖縄へ来て初めて担当した売買仲介案件でした。東京では経験したことがなかった境界未確定の土地や、築50年以上の古家、アスベストの問題など、調査を始めてから分からないことの連続でした。先輩の不動産業者に知恵を借り、行政の担当者にも相談しながら、一つずつ問題を解決しました。途中で、本当に売却できるのだろうかと考えたこともありましたが、売主様と何度も話し合い、優先順位を整理し、買主様が安心して検討できる状態へ整えたことで、最終的に取引を成立させることができました。

この案件を振り返ると、不動産会社の仕事は土地や建物を売ることだけではないと感じます。お客様が不動産を売りたいと考える背景には、会社の資金繰り、相続、家族への支援、将来への不安など、それぞれ異なる事情があります。今回のおじい様も、土地を売ることそのものが目的だったわけではありません。お孫さんの会社を支えたいという想いがあり、その想いを実現するために、不動産の売却という方法を選ばれました。

境界を確定することも、古家を解体することも、アスベストを除去することも、価格を調整することも、すべてはその目的を実現するための手段でした。「売るべきか。活かすべきか。保有するべきか。」不動産について相談を受けた時、私は最初から売却だけを勧めるのではなく、その方が本当に実現したいことは何なのかを確認し、優先順位を一緒に整理することが大切だと考えています。

不動産を売ることではなく、売却によって何を実現したいのか。そこから逆算して、安心して判断できる状態をつくることが、沖縄リアルエステートの仕事です。

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多田進吾
専門家

多田進吾(不動産仲介)

沖縄リアルエステート株式会社

東京で富裕層向け不動産仲介に従事し交渉力や提案力を磨く。沖縄移住後は宿泊施設を開業し運営ノウハウも取得。迅速かつ丁寧な対応を強みに、空き家活用から収益化の提案までオーナー様に寄り添った不動産取引を支援

多田進吾プロは琉球放送が厳正なる審査をした登録専門家です

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