「高額査定」に惑わされない。不動産売却で大切なこと

前回のコラムでは、沖縄県内の売り土地掲載件数が5,153件まで増えていることや、その背景には売主と買主が見ている市場の違いがあるのではないか、というお話を書きました。
売主は土地価格を見ていますし、地価上昇のニュースも見ています。一方で買主は、その土地を購入した後に必要となる建築費や住宅ローン、税金なども含めた総予算で判断していますので、同じ不動産を見ているようで実際には違うものを見ているのではないか、という内容でした。
実は、この話を書きながらずっと頭に浮かんでいた土地があります。
私が現在、売却をお預かりしている北部エリアのある土地です。
売却活動を開始したのは2023年4月ですから、すでに3年以上が経過し、その間、私は定期的にオーナー様へ販売活動の報告を続けてきました。何度か同業者を含む買い手から問い合わせもありましたが、現在まで取引は成立していません。
こういう話をすると、「その土地に問題があるのではないですか」と言われることがあります。もちろん不動産ですから何一つ課題のない物件など存在しませんが、この土地を3年以上見続けてきた中で、土地そのものよりも、もう少し別のところに理由があるように感じています。
そして、その理由こそが前回お話した売主と買主の認識のズレなのではないかと思うのです。
【私が気になったのは価格ではありませんでした】
私は取引が成立しない原因を考え、タイミングを見ながら何度かオーナー様へご提案をしてきました。それは価格を下げる提案ではありませんでした。私が気になったのは土地の見え方です。
実はこの土地、東日本大震災の直後に購入されたものです。当時オーナー様は、万が一のことを考え、本州以外にも拠点を持っておきたいという思いから沖縄の土地を購入されたそうです。ただ、その後すぐに建築計画が進んだわけではなく、いつか使うかもしれない、いつか移住するかもしれないという状態のまま年月が過ぎ、結果として10年、土地に手を入れることもなく、現地を訪れる機会も少ないまま現在に至っています。
実際に現地を見ると、敷地内には樹木が大きく育ち、場所によっては人が入りづらいほどになっています。以前からあった構造物の一部も傷み、石や残置物も見受けられます。もちろん土地そのものの形状が悪いわけではありませんし、海まで徒歩で行ける立地ですので条件が悪い土地ではありません。ただ、一般の買主が現地に立った瞬間、自分の家がどこに建つのか、庭がどこになるのか、どんな暮らしになるのかを想像できる状態かと言われると、それはなかなかできるものではないと思います
私たち不動産業者であれば、公図や登記簿などの資料から樹木の向こう側にある土地の形状も分かりますし、建築可能な範囲もある程度イメージできます。しかし実際に土地を購入する方の多くは建築業者でもデベロッパーでもありませんので、土地を見た瞬間に未来が想像できなければ、その時点で候補から外れてしまうことが殆どなのです。多くの方にとって土地の購入は人生で何度も経験することではありませんし、住宅ローンを組み、長い時間をかけて返済していく大きな決断でもあります。そのため、「この土地なら大丈夫そうだ」ではなく、「ここで暮らす姿が見える」ところまで気持ちが動かなければ、なかなか購入には踏み切れないのだと思います。
そのため、私はまず土地を整えた方が良いのではないかと考えました。実際に造園業者へ依頼して現地確認も行い、伐採や伐根、石やゴミの撤去、整地まで含めた見積りも取得しました。見積金額は約300万円となり、私自身も正直そこまでかかるのかと思いました。もちろん決して小さな金額ではありませんし、オーナー様が先行投資を抑えられるよう先回りし、造園業者とも相談し、着手時に半額程度を支払い、残額は売買契約成立後に支払う形も検討しました。つまり、できるだけ先に大きなお金を出さずに進められる方法まで含めて提案したのですが、結果としてこの提案は採用されませんでした。
もちろんオーナー様にも事情があります。急いで売らなければならない状況ではありませんし、すぐに数百万円を支出することに抵抗があるのも理解できます。その後、価格についても何度かお話をしましたが、結果的に減額幅について合意には至らず、様子を見るということになり、現在に至っています。
ただ、私自身はこのやり取りを通じて、不動産が売れない理由は「価格だけではない」と感じるようになりました。
【売主が見ている土地と買主が見ている土地は違う】
少し考えてみれば当たり前のことかもしれませんが、売主からすると、この土地は購入した時からずっと自分の資産で、土地の形も知っていますし、周辺環境も知っています。樹木を伐採すればどんな景色になるのかも何となく想像できますし、長年所有しているわけですから、その土地の良さも十分に理解しています。
しかし買主は違います。現地に来るのは初めてですし、しかも現地や周辺環境を見る時間はせいぜい30分から1時間程度です。その短い時間の中で、「ここに家を建てたい」「ここで暮らしたい」と思えなければ、その土地は検討対象から外れてしまいます。そう考えると、実際には土地そのものを売っているようでいて、買主が購入しているのは未来なのかもしれません。
家が建った後の暮らしであり、窓から見える景色であり、休日の過ごし方であり、家族との時間です。ところが現地に立った時にその未来が見えなければ、買主は判断できませんし、何千万円という大きな決断をすることもできません。
そして、その未来が見えない状態のままでは、どれだけ良い土地であっても取引は成立しづらくなるのだと思うのです。
【仲介業者の仕事は土地を売ることではありません】
この話をすると少し誤解されることがありますが、仲介業者は土地を売る仕事だと思われています。もちろん私たちも広告を出し、問い合わせ対応もし、現地案内もし、売買契約に向けた様々な準備も行います。ただ、もしそれだけで不動産が売れるのであれば、1年以上も売れない土地など世の中に存在しないはずですし、この仕事を20年続けてきて、実際にはそんな単純なものではないと感じています。
では、何が原因なのか。もちろん価格もありますし、市場環境、建築費の高騰、金利の問題など様々ありますが、それだけでは説明できないように感じています。
実際には、売主にも売主の事情があります。
少しでも高く売りたいと思うのは自然なことですし、長年所有してきた土地であれば思い入れもあります。購入した当時のことも覚えていますし、その後、周辺の地価が上がってきたことも見ています。そう考えると、「この価格なら安いくらいだ」と感じるのも決して不思議なことではありません。
一方で買主にも買主の事情があります。
土地だけを購入するわけではありませんので、その先に建築費がありますし、住宅ローンもあります。外構工事もありますし、家具や家電を揃える費用もあります。さらに数年前と比べれば建築費も人件費も上がっていますので、買主は土地価格だけではなく総予算全体を見ながら判断しています。
こうして見ていくと、売主が間違っているわけでもありませんし、買主が間違っているわけでもありません。むしろ、それぞれが自分の立場から見れば正しい判断をしているようにも見えます。
ただ、問題は見ているものが違うことです。売主は土地の価値を見ていますし、買主はその土地を購入した後に始まる生活や総予算を見ていますので、同じ土地を見ているようで実際には別のものを見ているのです。
ここ最近の不動産取引を見ていると、前回触れたように価格の乖離が大きく、募集価格そのもので取引が成立する時というのは、ごくわずかです。売主と買主が見ているものが少しずつ近づき、お互いが納得できるところまで認識が擦り合わされた時に初めて取引が成立するのだと思います。
私はむしろ、仲介業者の仕事というのは土地や建物を売ることではなく、売主と買主の間にある認識のズレを埋めていくことなのかもしれません。本来の仲介業者の仕事というのは、その認識のズレを整理し、双方が納得できる着地点を探していくことなのだと思います。
【オーナーズエージェント(不動産代理売却サービス)という考え方】
この土地の売却活動を通じて感じたのは、これからの不動産売却は、単純に不動産会社へ依頼し、市場へ物件情報を出せば売れるという時代ではなくなってきているということです。
オーナー様には不動産を売却する目的があります。
相続した不動産を整理したい方もいますし、資産の組み換えを考えている方もいます。使う予定がなくなった土地を現金化したい方もいますし、できるだけ高く売りたい方もいます。
当然ながら希望もあります。
価格をどう考えるのか。
土地をどのような状態で見せるのか。
誰に向けて売るのか。
どこまで時間をかけるのか。
何を優先し、何を譲れるのか。
実際には、こうした一つひとつの判断が売却活動そのものになっているように感じています。
今回の土地でも、整地を行うのか行わないのか、価格を見直すのか見直さないのかという話がありましたが、それは単なる販売テクニックの話ではありませんでした。
売主が何を実現したいのか。
そのためには何を優先し、何を変える必要があるのか。
市場は今どのように見ているのか。
そうしたことを整理した上で提案していただけです。
実際の不動産業界では、売却活動そのものを一緒に考えるというより、物件を預かることや広告を掲載することが中心になっているケースも少なくありません。もちろん、それが悪いわけではありません。
ただ、売主と買主の認識のズレが大きくなっている今の市場では、それだけでは取引成立まで辿り着けない場面も増えているように感じています。その結果として、沖縄県内では5,153件もの募集情報が市場に滞留しているのではないでしょうか。あえて、「在庫」と言わせていただきます。だから私は最近、不動産仲介とは別に、売主の立場に立ちながら売却活動全体を考える役割が必要なのではないかと思うようになりました。そして、私はこの不動産代理売却サービスを「オーナーズエージェント」と呼んでいます。物件を売ることを目的にするのではなく、オーナー様が本当に実現したいことを整理し、その実現のために売却活動全体を設計していく役割です。
今回の土地を通じて考えさせられたのも、まさにその部分でした。
【まとめ】
この土地の売却活動を通じて感じたのは、土地が売れないのではなく、取引が成立しにくくなっているということです。
売主には売主の事情がありますし、買主には買主の事情があります。そして現在は、その間にある認識のズレが以前より大きくなっているように見えます。だからこそ、価格だけを見ていても答えは見つかりません。
買主は何を見ているのか。
市場は何を評価しているのか。
そして、自分は何を実現したいのか。
そうしたことを整理しながら売却活動を進めることが、これからますます重要になってくるのではないでしょうか。
今回ご紹介した内容について、「自分の場合はどうだろう」「なかなか売れない理由はどこにあるのだろう」と感じた方は、お気軽にご相談ください。価格査定だけでは見えてこない売却の課題や方向性についても、一緒に考えさせていただきます。
【オーナーズエージェントについて】
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