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労働時間と割増賃金のお話(33)

竹下勇夫

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テーマ:労働時間と割増賃金のお話

~割増賃金(その12)~


  ところで、固定残業代の金額に対応する労働時間数が多い場合に、そのような固定残業代の合意は公序良俗に反し無効であるとする主張がなされることがあり、実際に、

「1か月当たり80時間程度の時間外労働が継続することは、脳血管疾患及び虚血性心疾患等の疾病を労働者に発症させる恐れがあるものというべきであり、このような長時間の時間外労働を恒常的に労働者に行わせることを予定して、基本給のうちの一定額をその対価として定めることは、労働者の健康を損なう危険のあるものであって、大きな問題があるといわざるを得ない。」

「通常は、基本給のうちの一定額を月間80時間分相当の時間外労働に対する割増賃金とすることは、公序良俗に違反するものとして無効とする ことが相当である。」とした裁判例があります。

 しかし、固定残業代に比し、労働時間数の多い事案の多くは、固定残業代の中に時間外労働の対価以外のものが含まれていることが推測され、その結果、対価性要件が認められない場合が多いでしょう。

 裁判例でも、入社当時に残業手当名目で支払われていた賃金が固定残業代であり、基本給のみが基礎賃金であるとすると、時間単価は744円で、会社の本店所在地である埼玉県の当時の最低賃金を100円以上下回っていたという事案で、残業手当に「通常の労働時間の賃金に該当する部分が含まれていると解さざるを得ず、その部分については時間外労働等に対する対価性を欠くというべきである。」と判断したものがあります。

 この様に必ずしも公序良俗違反を持ち出さなくても、対価性要件が認められるかどうかという点で、適切な判断がなされているようです。

                                       -続-

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専門家

竹下勇夫(弁護士)

弁護士法人ACLOGOS

検察官として10年、弁護士として30年超のキャリアを有し、高い専門性が求められる企業法務を得意とする。沖縄弁護士会会長等の公職を歴任する傍ら、琉球大学大学院法務研究科(現在は学部)講師の顔を持つ。

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