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竹下勇夫

会社法・労働法・経済法に精通した企業法務のプロ

竹下勇夫(たけしたいさお) / 弁護士

弁護士法人ACLOGOS

コラム

労働時間と割増賃金のお話(19)

2023年12月15日

テーマ:労働時間と割増賃金のお話

コラムカテゴリ:法律関連

~時間外労働・休日労働(その6)~


 それではなぜ36協定をもってしても1か月の時間外労働及び休日労働の時間数を100時間未満に制限したのでしょうか。

 それは、長時間労働が心身に悪影響を及ぼすことが医学的に判明しているからです。

 平成13年に公表された「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会報告書」では、各種文献や調査結果により、長時間労働は、脳血管疾患をはじめ虚血性心疾患、高血圧、血圧上昇などの心血管系への影響が指摘されており、それは、長時間労働により睡眠が十分取れず、疲労の回復が困難となることにより生ずる疲労の蓄積が原因と考えられ、1日5時間以下の睡眠は、脳・心臓疾患の発症との関連において、有意性があり、1日5時間程度の睡眠が確保できない状態は、労働者の場合、1日の労働時間8時間を超え、5時間程度の時間外労働を行った場合に相当し、これが1か月継続した状態は、おおむね100時間を超える時間外労働が想定される、としています。

 また精神疾患との関係においては、令和5年に公表された「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」において、極度の長時間労働、例えば数週間にわたる生理的に必要な最小限度の睡眠時間を確保できないほどの長時間労働は、心身の極度の疲弊、消耗を来し、うつ病等の原因となると考えるとし、長時間労働は一般に精神障害の準備状態を形成する要因となっているとの考え方も考慮すれば、恒常的な長時間労働の下で発生した出来事の心理的負荷は平均より強く評価される必要があると考えられ、そのような出来事と発病との近接性や、その出来事に関する対応の困難性等を踏まえて心理的負荷の総合評価を行う必要があるとし、1か月おおむね100時間の時間外労働を「恒常的長時間労働」の状況としています。                                        

 このように、医学的見地から、脳・心臓疾患や精神疾患と長時間労働との関係について、1か月100時間の時間外労働がひとつの目安とされているのです。そこで、労働基準法は36協定をもってしても超えることのできない時間外労働の上限として1か月100時間という制限を設けたのです。
                                        —続—

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